第22話 黄昏のアクアパーク
ストレリチアは包み隠さずにAAOで起きたことと潤羽水の真実についてを語った。
「天使創造計画……人々が天国に、天使の視線で生きられる世界……Angel Angle Online……AAO。そんなもののために水が……」
二人は心臓を後ろから刺されたような衝撃に襲われ全身が震えだし、パタンとその場に座り込んでしまった。
「何であんた達はそんなことのために平気でっ!!」
雫は涙ぐんでストレリチアの胸元を引っ張りながら声を上げた。
「俺も知ったのは最近だった。だから裏切ったんだ……。これはお前に渡しておく」
AAOで創造された天使、潤羽水の記憶メモリを雫に手渡し、ストレリチアはその場を立ち去ろうとした。
「今組織は俺を狙ってる。警察と協力する形でな……。だから俺が囮になる。お前らは今すぐに千賀を誘って探偵の体を安全なところに隠しに行け」
「それは無理だ。こうゆう遊園地みたいな楽しい所ってのはね、魂が集まりやすいんだ。ボクはその魂と人形に入っているこの菊を通して意思疎通ができる」
「聞きたくはないが、外で何が起きてる? 人形屋」
「アクアパーク内の至る所に爆弾が仕掛けられている」
「「!?」」
雫はパンフレットの地図を広げて菊の言われた通りの場所を〇で囲み始めた。
「さっきあのスナイパーにバレたんだ。私達がここにいることを」
「そうか……じゃあ組織はめんどくさくなってここにいる人たち全員諸共殺そうってわけか。エンターテイナーじゃないな」
「爆弾解除は私にしかできないし、この怪盗はもうそんなに動けないだろう」
「燈火……分かった。じゃあボクは水と駄菓子屋に戻る」
……
『水!? 今どこにいる? 千賀さんは?』
『今合流したよ、そっちは?』
『状況が変わったの! 千賀さんと変わって!』
『俺だ、怪盗がここにいるのは本当か?』
『組織がこのアクアパークに爆弾を仕掛けたんです! アクアパークタワーの上に爆弾があります! それ以外にも爆弾があります! だから急いで避難を進めてください!』
『なんだと!? 爆弾!? 分かった、雫ちゃんがそう言うなら間違いだろう。すぐに避難させるように手続きをとる』
燈火はカバンの中から何やら工具のようなものを確認してストレリチアを連れて雫がチェックしたパンフレットを見ながら爆弾があるところへと向かった。
夜――
アクアパークは突然の避難勧告を受け、大混乱の行列が避難所に設定されたサッカースタジアムの隣りのホテルにできていた。その行列が向かう方向とは逆方向に雫は水を連れて出口へと向かったが、出口にも避難するひとで溢れかえり、思うように進めることができずにいた。
「ねえ雫! 爆弾って何なの! 何で駄菓子屋に帰るの!? まだ燈火もいるのに」
「組織の目的はどうやら純の関係者。目をまだ覚ましていない純の体は危険が一番高いの。ボクたちが阻止しないといけない……。燈火と怪盗は爆弾解除を頑張ってもらってる。千賀さんは避難誘導。こんな時こそみんなできることをするんだ」
「……うん!」
……
アクアパーク、サッカースタジアム――
燈火とストレリチアは一つ目の爆弾ポイントに目指していた。
「おい、怪盗。グライダーで私を電光掲示板まで連れていけ」
「怪我人にそんな無茶言うなよ……」
電光掲示板裏の消火器の奥からちょうど2時間を切った時限式の爆弾が出てきた。
「解除にはどれくらいかかる?」
「1つ解除に20分。全部で6ヶ所で、この時限式と全部同じなら20分×6=120分で移動を入れたら確実に間に合わないことになる」
「じゃあどーすんだ解除できない爆弾は爆発させるしかない」
「俺のグライダーでまた海まで飛べとか言わないよな!?」
「安心して、その爆発は反撃に使う……」
「怖い女だ」
……
「お前ら、そこで何してる!」
非常階段から登ってこちらに顔を出したのは千賀警部だった。ストレリチアは勘弁してくれと身を引く。
「千賀さん、これは違うんですよ!」
「雫ちゃんからは組織が爆弾を仕掛けたと聞いたぞ? 今まさに爆弾を仕掛けているようにしか見えないのだが……なあKARASU幹部の怪盗さんよう……。それに……ずっと怪しいと思ってたんだ……!」
最悪のタイミング――。あの時しっかり説明しておけばという後悔が分かりやすく頭に浮かんでいた。
「燈火、グライダーが必要なのはあとアクアパークタワーだけだろ? ならそこ以外を先に行け! 俺はこいつを止めておく!」
「でもあんたその傷で……!」
「なぁ~に、エンターテイナーはちょっとのアクシデントじゃあプランは変更しないんだ」
千賀が放ったストレートの拳をわざと撃たれた方の腕で受けながら燈火の背中を押し出した。
「その汗、病院に行った方がいいんじゃないのか?」
「ケッ! 警察病院ってオチだろ? このどんくさい脳筋警部が!」
千賀は受け止められた拳を開いてそのまま背負い投げに持ち込んだがストレリチアに背中を蹴られて電光掲示板を支える鉄筋コンクリートへとジャンプされた。防具をぬいでシャツ姿になった千賀は壁と棒を5回ほど交互に蹴り上げながら同じ高さまで登ってきた。
「人間じゃねーな……。鍛え過ぎなんだよ! このゴリラ野郎!」
「手品師には筋肉で勝つ! 今日こそ逮捕だ!」
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