第21話 橙翼の演者(エンターテイナー)

 水は千賀さんに忙しいところを承知で電話をかけた。


『なんだ水ちゃんか、何かあったか?』

『怪盗ストレリチアの件で聞きたいことがあって、』

『ちょうど今空を見上げながら追跡中だ』

『予告状って今回は届きましたか?』

『ん~ん? そういえば届いてないかもな』

『かも? わかんないんですか?』

『今回は上からの命令でな、詳しい内容は知らされてないんだ』


 スピーカーにしていた水の携帯を取り上げて燈火が千賀にかわる。


『かわりました燈火です。前から聞きたかった。そのってのをそろそろ言ってもいいんじゃないですか? 公安ですよね……?』

『……それを君に話す必要はない』


「あ、きれちゃった」


 燈火は唇を嚙んで悔しげな表情をみせた。


「ま……まあどうせ今回も捕まんないでしょ」


 水は場を和まそうとテレビのチャンネルを変えて広げた新聞をしまった。


「……そうだね」


『ご覧ください。先週から開園した花見アクアパークは大盛況です! 水族館に遊園地、映画館にショッピングモール! 全てが最大級の施設となっており、今年のカップルで行きたい場所ランキング堂々1位に選ばれました。』


「アクアパーク?」

「知らない? 花見町に新しくできたやつ。そうだ! せっかく近いんだし今から行こうよ! 燈火も最近ずっと引きこもってばっかでしょ」

「でも……留守にはできないよ」

「純かぁ~、まあ日帰りで帰るんだし大丈夫だよ」


 燈火は二階であるゲームの世界に行ったきり目を覚まさない天音をずっと心配していたが水に言われた通りに息抜きも兼ねて行くことにした。花見アクアパークは駄菓子屋からおよそ1時間で水はまたまたせっかくだからと花見町にいる天音純の妹、雫も誘うことにした。






 花見アクアパーク入口――


「着いたぁ~~! 見て燈火、アクアパークタワーだ! 200mだって」

「田舎が都会になってる……もう夕方なのに……人……多い……帰り……たい」

「はいはい」

「ん? の近くにあるのってまさか老人ホーム?」

「ほんとだ! こんな夢の国で寝泊まりできるなんて素敵!」

「おじいちゃんやおばあちゃんが遊園地……。はたして興味があるのか……」

「行くよ! 燈火」

「うん……」


 少ししてアクアパークタワーの前で二人は雫と合流することができ、そのまままずは少し東に進んだところにある観覧車に乗ることになった。


「ボク、観覧車乗るの初めてだよ」

「実は私も……! 一周するのに15分だって凄い」

「…………こーゆーのってカップルで乗るんじゃないの」


 燈火はゴンドラ内の隅で体育座りをして小声で呟いた。


「……燈火チャン? ちょっといいカナ」


 水は「次文句言ったら……」と脅し文句を囁くと燈火は「ワータノシイなぁ」とわざとらしく窓の外を見始めた。


「頂上になるとアクアパークが一望できるね、しかも少し留まるんだ」

「にしても他のゴンドラはみんなカップルだらけだな」

「そうだね……。ん? あそこのゴンドラ……」


 雫が指さしたゴンドラを見るとそこには床に倒れこんでいる人が見えた。


「ああ!! あれって怪盗ストレリチア!?」


 急いで降りて辺りを探しまわったがもう彼の姿は確認できなかった。水は千賀さんに再度電話をかけて今の状況を説明すると重苦しく「今向かう」と言い放った。


「怪我をしてたな珍しく」

「…………やばいね」

「燈火? そっちじゃない反対側だよ」

「いや何でもない」

「これまでに千賀さんはむやみに発砲したりなんかしてない。グライダーの操作ミスも考えられない……でもあれは銃で撃たれたような傷だった」

「なら見つけようか? ボクが。声をかけて案内してもらうよ」

「頼むよ、雫」


(菊。悪いが仕事だ。……。文句言うなよ、駄々こねて連れていけ連れていけと言ったからには手伝ってもらうぞ)


 ……


「見つけた! 水族館地下1階の休憩所だ」

「よし行こう……!」

「待って! 水はここで千賀警部を待って。そこへは雫と私で行く」

「何でよ!?」

「組織の罠の可能性もある。もし3人で行って捕まりでもしたら……かなりまずいことになる」

「わかった……」


 ……


「雫」

「大丈夫。水からはだいぶ離れられた。けど水が1人に……」

「あいつらの狙いは雫と私だ」

「何で分かったの」

「あのゴンドラで倒れていた怪盗から180度に位置するゴンドラにスナイパーが二人が居た。そして降りた後その二人はまた観覧車に乗って私たち二人だけに銃口を向けていた。気付いてないフリをしながらスマホのカメラでソレを確認するのは大変だったよ」


 燈火は雫の手を引いて人混みを選びながら水族館を目指した。狭い水族館ならスナイパーを無効化できるとストレリチアも考えたのだろうかと向かっているうちに雫は思った。

 喫煙ルームで止血処置をしていたストレリチアを2人はすぐに見つけて話しかけた。


「今朝ニュースで見た怪盗をまさかこんなところで見るとはね」

「お前ら……あの探偵の仲間……。ははっ、不幸中の幸いってやつか」

「ボクの能力からは逃げられないよ」

「ロベリアが前に言ってた人形屋か……」


 燈火は橙色のマントの一部を包帯のようにして腕に巻いて隠してうたその傷を確認した。


「あのスナイパー2人に撃たれた傷ね。そしてその2人は警察官じゃないんでしょ。予告状も出さずにどーしちゃったの?」


 傷を抑えながらストレリチアはゆっくりと口を開いて朝から気になっていた燈火のその質問に返答した。


「KARASUのやり方は……お前らがよく知ってるだろ……。裏切り者には徹底的な制裁を……だ」


「まさか、組織を裏切ったの!? 何の目的で」


「さあ……、エンターテイナーだからと言いたいが今回ばかりはあの探偵バカに毒されたからかもしれないな。状況は最悪の一歩手前ってとこだ」


「ちゃんと説明するんだ。純と会っていたのか? 何で純は戻ってこない。あのゲーム内で、純に何を頼まれたんだ」


「そのゲーム、AAOでいろいろあって探偵は今隔離状態。ゲーム権限があった俺だけが何とかこっちに来てお前らとのパイプになれた……。頼まれたのはただ1つ……組織から逃げることだ」


「逃げる!? 何でよ!」


 水が声を上げると喫煙ルームに居た人たちは別の喫煙ルームに行ってしまった。


「組織の目的は水以外の探偵の仲間全員をことだからだ……」


「「――!?」」





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