第18話 雨、深夜、同窓会にて。

「ここ最近、この町を中心にあやしい動きが多数見受けられてまして。その調査を頼みたいのです。あやしいと言っても警察を動かすほどのものじゃない無視できる程度のもの、引き受けてくれますか?」

「依頼を断ったこたぁねえよ」

「ではこちらがこちらで少し調べた資料です。よろしくお願いします、信頼できる先輩の

「――ッ! ……あぁ」


 その日から糸成と霞の美咲町での調査が始まったと同時に両親と会えない純と雫二人だけの生活も始まった。

 二人が調査の末に分かったことはある組織からお金を騙し取られている被害が近頃増えているということとその組織が名が売れていない小さなゲーム開発会社であるということだった。


「霞、電話は?」

「さっきしたらもう繋がらなかった。きっと寝たのね」

「そうか……」

「もう2週間……そろそろこっちも大詰めね」

「おそらくゲーム会社の法に触れた資金集め。これが今回の答えだろうな。そしてこれまでの張り込みで1つ予想ができる」

「場所ね。最初に木場田に招待されたあのビルを中心として2km進んだ場所。そこから円を描くように30度ずつずれた地点で毎回被害が起きている」

「そして……その中心のビルはそのゲーム会社の親会社か……」

「どーしたの? つまりそのゲーム会社がっ、ってことじゃないの?」

「いや、じゃあこの依頼を渡した木場田は何で最初そのゲーム会社のビルにいた? そしてその場所についても少し順調すぎやしないか?」

「木場田くんのことについても少し調べましょ。その親会社との接点からまず職業と交友関係についても……」

「とりあえずその場所に行こう……時間はいつも同じ。今から1時間後だ」





 花見町――


「雫! 父さんと母さんに会いたくないのか?」

「ダメだよ! こんな夜中に出歩いちゃ!」

「昼は探偵のお仕事中だし、今の電話が来たってことはもう部屋に居て落ち着いてるってこと。ほらっ! この父さんへの招待状か? 株式会社ホープってとこ。住所が書いてある。俺は行くぞ!」

「じゃあわたしも! おいてかないで……お兄ちゃん」





 細かい雨が連日の大雨でできた水溜りをさらに大きくさせる。時計の針は夜11時を示していた。予想の地点で事件は起こる。


「そこで何してる? 俺は花見町で駄菓子屋をやってるハードボイルド、探偵だ」


 いつもの決め台詞を浴びせ、知らない場所でも犯人を追い込める地点を聞くことができる霞と連携していつものように犯人を縛り上げることができた。

 話を聞くとやはり狙いはゲーム開発のための資金調達であり、名刺から花宮に案内されたゲーム会社の子会社の若い社員であることが分かった。


という男を知ってるか?」

「し、知りませんよ。僕らの大学のサークルの延長でやってるような小さな会社なんて切り捨てられるか利用されるかなのがこの世の中ですよ! 社長はきっとこうなる未来が見えて辞任したんだって今になってわかりましたよ……。そして僕らはこうやって捕まって……」

「誰に命令された!? 俺達はそいつが木場田という男なんじゃないかと探ってる!」


 熱くなった糸成を止めに入った霞が話を代わる。


「ごめんね。私達はあなた達のしたこのようなことは許せないと思ってる。だけどもっと許せないのはあなた達を利用して罪から逃れようとしている人。分かることは全て今ここで教えてほしい」

「……ここからでも見える……あのビル。きっとそこの社長だ」

「株式会社ホープ……木場田くんとは関係……ない?」

「いや、関係はきっとあるはずだ……。その社長のところに行くぞ、霞」

「これを……どうぞ」

「これは?」

「ジンチョウゲという花の一欠けらです……僕は花が好きで、色んな花が咲き誇るゲームを開発したいと思っていたんです。ジンチョウゲの花言葉にはという意味があります。どうかご無事で……」

「ああ、御守ありがとよ!」


 …………


『おい、木場田。少し話がしたい』

『それは依頼完了のご報告でしょうか。いいでしょう、では、』

『株式会社ホープだ。そこで今からだ』

『……分かりました』


 およそ2kmを全速力で走って木場田との二度目の待ち合わせ場所となる株式会社ホープに到着した。深夜0時をまわりエントランス以外の照明は全て消えて不気味さを醸し出していた。またポツリと雨が降りだしてきた。


「霞……おまえは」

「今回は私も行くわ」


 また黒服に木場田の居場所まで案内すると言われエレベーターに入った。


「おい、場所が違うぞ! 何で下に向かっている? あいつは最上階に居るんじゃないのか」

「命令通り地下5階だ。降りろ」

「…………」


 天井が低いせいかまわりの空気が重苦しい。やはり霞は外で待たせておくべきだったと思っているうちにその部屋にたどり着いた。


「距離のわりに早かったですね。天音部長……そして霞先輩。結婚おめでとうございます。これまで少し忙しくて挨拶が遅れました」

「距離のわりに、か。木場田……お前がこの株式会社ホープの社長だな? どうゆう経緯で警察官からゲーム会社の社長になったのかは知らないが部下を大切にしないとな」

「部下? 使い捨てのゴミのことですかね。それに何の話をしてるのかわかりかねますね。株式会社ホープは場所を借りているだけと前に話しましたよ」

「シラをきるな。資金調達の件はもうバレてんだ。何でそんな自殺行為の依頼をしてきた? これじゃあまるで捕まえてくれと言ってるようなもんだ」

「……く」

「?」

「今日は何て素晴らしい日だ! 偉大なるこの実験の日にかつての探偵部全員が集合するなんて!」


 カツ、カツ――


「10の地点で真実を知った時、その真実は0の地点から始まっている。そう教えてくれましたよね天音先輩」


「何かあやしいと思った瞬間は犯人にまだ先を越されているという証拠。そう教えてくれましたよね霞先輩」


「「――――――ッ!!」」


「探偵部であなた達を見て、探偵というのは一番好奇心旺盛な邪魔な存在ということが分かりましたよ。特に霞先輩、あなたのその力は恐ろしい。の研究は時間がかかる。そうだな、早くてもあと10年だ。先輩達探偵は将来のためにもここで潰しておかなければ」


 




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