第19話 死して去る町、残すは謎ともう二つ

 糸成は小声で霞に隙を見て逃げろと言って花宮たちを挑発するように手招きをする。


「先手が早すぎるのは悪い癖だ木場田。何故なら俺たち探偵に事件が起きる前に暴かれちまうからだ。今掴んだ真実は必ず表に出す」

「熱意だけじゃ何も掴めない。ここからはもう出られない。抵抗されるのは想定内ですよ。これを……」


 木場田はスーツの内ポケットから手にした小さなリモコンのボタンを押すと糸成たちの前にエントランスの様子を映すモニターが現れた。


「あれは……!」

「どうやらちゃんと届いたようですね……。依頼状はお子様方に……」

「「純! 雫!」」


 糸成がその映像を見て急いでその部屋から脱出しようと木場田に背を向けると胸ポケットからジンチョウゲの御守がひらひらと宙を舞って落ちた。


「察してくださいよ! 先輩。いちいち説明するのは疲れるので」

「……1つだけ頼みを聞いてくれ」

「勿論! 私たちは旧友じゃないですか……先輩」


 木場田はリモコンを持っていた手のひらをゆっくりと開きながら笑みをこぼした。


 カランッ、カランッ――――!


 ……………………


「これで美咲町、花見町に私たちを探る探偵はいなくなったと同時にゆっくり夢の研究に没頭できるわけだ」

「…………そうだな。あと10年……。資金調達、人材確保頼んだわ」

「良かったのか? 先輩たちに挨拶しなくて。君は一番懐いていただろ?」

「今はもう探偵部でも高校生でもないの。誓ったでしょ、お互いがお互いの夢を叶えるって。美しい思い出を語るには夢が実現できた未来が必要なんだよ」

「そうか……なら人材育成はお前に任せる。まあこっちでもできることはやるつもりだがな。育ったらこっちへ渡せ。資金調達はこっちでやる」


 木場田はふと下に目を降ろすと花びらの一部が落ちているのに気づいた。


「これは先輩がさっき落としたものか?」

「ジンチョウゲの花びらの切れ端ね。花言葉は確か……。探偵は不滅とでも思っていたのかもね……」

「枯らす……」

「?」

「今日から私はKARASUという名の組織を1から作っていく。これからはまたお互いの道を築いていこうじゃないか……日葵ひまり

「その名前で呼ばないで。名前は無い、JOKER……。悪いけどKARASUのように目立つ予定は1ミリもない」






 現在――


「あの日から両親は私たちの前から居なくなった。お兄ちゃんとあたしは今もお母さんとお父さんが行方不明なだけで今もどこかで事件を解き明かしていると信じてる」


「お兄ちゃん……」


「あたし……」


 普段雫から聞きなれない言葉を水と燈火は復唱するように呟いた。


「純! ボク! 昔の話すると出ちゃうの!!」


「それでそこから何で別居しちゃったの? 寂しくなかったの?」

「行方不明ならこの美咲町で何か手がかりが掴めるかもしれない。けど二人との思い出がある実家も護らなくちゃいけない。だから当時のボクは寂しかったけどそうしたの」

「ありがとう、話してくれて。あとお兄ちゃん呼びの方が良いよ」

「なんでよ!!」

「なんか萌えるから」

「死んでも無理」


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