第17話 遥か彼方の記憶
現在、天音純と天音雫が名乗っている駄菓子屋探偵と人形探偵は二代目。12年前には彼らの両親が初代としてそれぞれの探偵業をやっていた。
そして、12年前に両親はある日――
両親が少し変わった探偵業を営んでいる天音家は花見町に一軒家を構えた4人家族。母の
「おとおさんとおかあさんは何でたんていやってるの? 駄菓子屋さんと人形屋さんはお仕事じゃないの?」
「雫、お母さんとお父さんの夢だったのよ。二人で探偵をやることがね。駄菓子屋と人形屋はねただの趣味。お父さんはたくさんの駄菓子をひろげてみんなで食べるのが好きなのは知ってるでしょ? 私はお人形さんが好きって理由もあるけど……前に話したやつ覚えてる?」
「幽霊さん!」
「雫にもそれができるってことはまだお父さんとお兄ちゃんには内緒よ?」
「は~い」
霞は現在の雫のように人形を介して死んだ者と対話できる力があった。幼い頃はただぼんやりと見える程度であったがその力は今では当時の母と同等レベルにまで至った。反対に兄の純は一切そのような力は無く、父に似たのだろうと霞は思っていた。
「父さん、何で駄菓子をみんなに配っちゃうの?? もったいないよ」
「はははっ! 純もあと10年もすれば分かるさ」
「おれも探偵やる!」
「雫もそうだが無理に親の仕事をやろうなんて思わなくていいんだぞ? 俺達のように好きなことをやれ。できることをやれ」
「うん! だから探偵やる!」
「そう~か~! 駄菓子屋探偵天音純君! いい響きだ」
「駄菓子屋はやらない!」
「なんで!?」
「だってお母さんに怒られるもん。夜ご飯が食べられなくなるでしょって」
「はははっ! お母さんは相変わらず厳しいな!」
親の仕事が少し変わっていること以外はごく普通の楽しい家庭だと純も雫も思っていた。そして華やかに探偵業をこなす両親を近くで見てきたために探偵という仕事は楽しいものだと勘違いをしていた。
◇
梅雨入りの花見町――
雨が続く毎日があの事件の始まりだったのだと二人は後々思うことになる。
「今日から美咲町を拠点にするよ。今回はちと大きなヤマでな」
「なら私も」
「ああ、頼むよ」
「この宛名なんだが、」
「
「警察官だ、いやあいつは優秀だから昇格しただろう。詳しいことは知らないが、警察より上の立場らしい。噂程度だけど」
「上……?」
糸成と霞はその花宮という男にとある調査を頼まれて隣町の美咲町へ滞在することになった。純と雫は最初は駄々をこねて猛反対したが母の説得もあり納得してくれた。
AZという高層ビル最上階の会議室に木場田から呼び出されていたため夜遅くで斜めの雨が降り注いでいたが行くことにした。
「私は外で待ってるわ」
「ああ。その方がいい」
霞は右肩を心配そうに掴みながら糸成をエントランスから見送った。
(ゲーム会社? あいつ……調べても何の仕事をやってんのか全く分からない、警察じゃないのか?)
会議室の前まで黒服の男に案内され、重苦しい扉を引くと奥の社長椅子に背中を向けて木場田は座っていた。下を見下ろしてワインを一口含むと糸成を座らせて再会の挨拶を軽く交わした。
「久しぶりだな、木場田。お前出世したのか。すげえな、俺達なんかぼろい一軒家借りて探偵業やってるよ」
「高校の時の夢通りじゃないですか。探偵部を4人でやってたのが昨日のようですよ。今日はねそんな夢を叶えた名探偵の天音部長に頼みごとがあるんですよ」
「その前に1ついいか?」
「何ですか?」
「今何の仕事をしてる? この場所は借りただけだろ? お前がゲーム好きなんて初耳だぞ」
「ゲーム……そうですね。ゲームはあまり好きじゃない。けどその技術は好きですよ。昔も今も……最近のゲームに導入されるであろう未来技術をご存知ですか?」
「そんな話は後にして質問に答えてくれ」
「それは警察ですよ。その中の少し秘密の署にいるんですよ。だからこれ以上は言えません」
「……まあいい。早く要件を言ってくれ」
「やっぱり天音先輩、あの時のことまだ怒ってるんですね。小さい男ですね」
「口が悪いのは変わらないな……。探偵部が解散したのはいい。ただ霞にあれから謝ってないだろ?」
「謝りましたよ。そんな謝らない人が警察官なんてなれるわけないじゃないですか」
父となった糸成は子どもに自分の過去の話はほとんど話さなかった。糸成と霞、木場田ともう一人のメンバーで高校時代に探偵部を結成していたという話は全部母の霞から聞いた話だ。
霞は雫と同じようにその幽霊と話ができるという力を活かしていた反面、学生生活では人知れず悩んでいたという。勘が鋭かった木場田は霞の能力に気づき、それを部活内で大きくばらしてしまったことがあった。それからすぐに卒業のタイミングであったため苦しい時間は短かったらしいが霞は自分のせいで探偵部を解散させてしまったことをいまでも気にしている。
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