三章:過去編

第16話 久しぶり

 ますます寒さが際立つ季節となり、町を出歩く人もだんだんと減ってきた。


 ガラガラ――


「燈火、今日は隠れなくて大丈夫よ。久しぶりかな? 雫」

「久しぶり! 水。それに燈火! そしてみんな!」

「私と燈火以外いないけど……誰に言ってるの」

「みんなはみんなだよ? ちょっとメタいかな」

「今日来てくれたのって純がAAOの件でピンチだからだよね? それとも純と話さなくて済むから?」

「……何言ってんのさ! 兄妹……だからだよ」


 雫は入口の鍵をかけて二人と一緒に店の奥から二階の部屋に入った。六畳のぼろい和室の端に天音純が目を瞑って寝ていた。


「もう一日だっけ? 純が行ってから。まあAAOでの時の流れはこっちと違ってまだ数分しか経ってないかもしれないけど」

「あいつのことは全然分からない。きっとこっちと変わらずに駄菓子屋探偵でも始めてんじゃないの?」

「ははっ、ありえるね」

「依頼人は今回はいなかったんだけどね。このゲームは今いろいろと問題になってるでしょ? それが花見町の眠り病なんじゃないかって。それで自らが率先して確かめにいくとか言って」

「相変わらず無謀……前のロープウェイのことから何も学んでない」


 燈火は天音の額に手のひらを当てた。


「看病ってわけじゃないけどさ、純の面倒ありがとうね。燈火ちゃん。今日からボクもここに泊まって面倒見るよ。一応兄妹だからさ……」

「「兄妹」」


 水と燈火の声が重なった。


「ってことは近い将来私と雫ちゃんは家族になるってこと……か」

「燈火!?」

「それはボクも嬉しいよ。こんなポンコツ探偵だけど末永くよろしく頼むよ」

「雫!?」

「何だい水~? リアクション芸人でも目指してるのかい」

「いつ、どこで! そんな話になったんだよ! てかいつから純のこと好きだったの!? 怖い! 女って怖い! 燈火はそーゆーの興味ないと思ってた!」

「それはあの狭いゴンドラ。絶体絶命の中二人はラブラブな展開に発展したのだよ。私、こう見えても成人の大人の女性なので。それに水……大人になれ。花の女子高生がそんな子どもみたいな反応してちゃバカにされちゃうぞ?」

「うるさい……ゴンドラ内? それ初耳なんだけど……」


 雫は純の隣に座り、二人の言い合いを面白そうに見て笑っていた。


「お~迫力ある問い詰めだよ水! まさに女の修羅場! もしかして狙いが取られて嫉妬してるの?」

「雫はちょっと黙ってて」

「はい、黙ります」


 ……


 そんな雑談を挟みながらも水は冷静さを無事に取り戻して話題を真面目路線に戻した。


「……あの時はぐらかされて結局教えてもらえなかったじゃん?」

「え……っうん? 何だっけ?」

「ほら! また誤魔化そうとして~」

 

 二人はマリーゴールドの事件後に天音兄妹のことについて詳しく教えてもらう約束をしていたのだがなんだかんだお互いが忙しくて機会がつくれなかったのだ。


「それはホントごめん。正直言うとめちゃくちゃ誤魔化してた……。話すよ今こんな時だけど」

「お願いします」

「ボク達は兄妹だ。それは今も変わらない事実だよ」

「その、お母さんとお父さんとかは? そもそも駄菓子屋探偵と人形探偵って基本は同じ探偵でしょ? 何で一緒に探偵しないの? わざわざ美咲町と花見町に分かれてさ……」

「なら……最初から話すよ。ボクの記憶がさかのぼれる限界から。天音家について」





 今からざっと12年前――



「ボクと純にはまだお父さんとお母さんが居たんだ。千賀さんや純、他の刑事やこの能力で知った私が実際に経験してない話も話せるからそれもついでに話すよ」




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