第14話 Final Game


「待てや」


 隣りのテーブルに足を乗せてポケットに手を突っ込んだおかっぱ頭の男がストレリチアの開始の号令を遮った。


風真透かざまとおるさんだったかな、何か疑問でも?」

「ここに居る人数足して6人。お隣さんは3人チームで俺は1人やった。Sesond Gameは6つのフィールドに分かれたはず、クリアチームが居ないフィールドがあったんか?」

「クリア条件は犯人の確保。潰し合いに夢中になって目的を果たせなかった。ただそれだけ、じゃあ始めるよ」

「待てや、ゆうてるやろ。当初の予定やと優勝は5人くらいやった。ならここに居るやつ全員優勝。それでしまいや」

「……」


 確かにそうだと天音は頷いた。単純にゲームを楽しむなら Final Gameとやらを喜んで参加するだろうが、ゲームはあくまで優勝者を決めるためのツール。エンターテイメントバカの怪盗はそうは思ってないだろうがどうするのかとストレリチアに視線で訴えた。


「……First、Secondがむず過ぎたかな。いいよ俺も満足したし、優勝景品はこの6人全員にあげる。けどFinal Gameはやってもらう」

「!?」

「5分やそこらで終わるだろう。たった一つの〇×クイズだ」

「ちょっと待て」


 今度は天音がストレリチアに待ったをかけた。


「景品が全員にくるならそのクイズの意味はなんだ? 不正解でも正解でも良いなら何も楽しくないだろ。こんなこと言うのもあれだが……お前らしくない」

「……早速問題を出すぞ」

「いや何で俺だけ無視! 隣りのおかっぱの待ては通ったのに!」

 

 天音はそう言って隣を指さした。


「誰がおかっぱやねん!」


【問:この世界は現実か〇か×かで答えろ。】


 大きなスクリーンに問が表示され、2人は会話を止めて視線を集中させた。


「Final Game 開始だ!! 質問は可能なものだけ受け答えられる。制限時間は特に設けない。相談も可。手元の紙に〇か×を書いて提出するだけだ」


(問題の内容……あいつ、組織を裏切るのはとことんやるタイプだな。この質問は確かに明確な答えがある。それを知ってるのは真実を知ってる俺と瑞希だけ。だがその真実を知っていようがどうであれ他の人はそれでも迷うことはない。それはこの世界を現実だと思い込んでるからだ。誰も迷うことがない〇×クイズなんて……)


「そういえば……こんな映像があってね。せっかくだから見てもらおうか」


 スクリーンを六画面に分割してここにいる6人の何気ない日常の映像を映し出した。


「な、なんや……これ」


「あれ、俺の関西の実家……」


 緑川と風真は驚きを声に出していたが天音を含め他もその映像を見て困惑していた。そこにはAAOではない現実での彼らの姿が映し出されていた。


「水……。あれは俺の駄菓子屋に初めて水が来た日だ」


「この映像はフィクションなんかじゃない。正真正銘君たちが過去に体験した人生の一部分だ」


「知らない……記憶……いや、夢の記憶……か? 現……実ってなんやったっけ、」


(これでみんなにAAOの存在をばらすのが目的だったのか?)


「どーした~? 天音純。このFinal Gameに何か疑問かな。そうそうその前にFinal Gameのもう一つの名前なんだが……。First Gameは犯人特定のミステリーゲーム、Second Gameはその犯人を捕まえるサバイバルゲーム。そして……」

「Final GameのFinalはそれらのゲームを実際に解く順番の問題。お前が言うFinal Gameの始まりはこのゲーム世界……AAOの謎のことを言ってるってわけか」

「御名答」


「AAO?」


(はあ……しかたないか)


「みんな、聞いてくれ……。AAO……この世界のことについて」


 天音は瑞希に話したようにAAOの詳細とこの世界は現実世界ではないということを説明していった。


「天音君……それは本当なんだね?」

「ああ、本当だ。今まで黙っててすまなかった」

「それはいいんだ。その様子だと瑞希君も、」

「はい……」


 風真や他の二人も天音の話を聞いて噓ではないことを察し、受け入れがたい表情で白紙を見つめていた。

 沈黙の後それぞれがもう一度ストレリチアに現実世界のことを聞き、さらに少しして周りを見ると紙に×を書き始めていたことに天音は気づいた。


「……これでいよいよ〇×ゲームの意味は無くなったな怪盗」

「お前はやっぱり探偵は向いてないな。理想を語るなと前に言ったはずだ。真実を知った。納得した。だからみんな×を書く。甘いんだよ。隣を見てみろ……」


 隣に座っていた瑞希だけがまだスクリーンを見つめ続けていた。


「み、瑞希? どうした? 答えは×だ。それはお前が一番よく知ってるだろ」


 瑞希は口を開けてスクリーンをじっと見て、その紙を持った手は酷く震えていた。




「お兄さん、みんなが言うその映像の現実と僕が見つけたこの現実は決してイコールとは限らないでしょ………………? AAOは僕にとって現実なんですよ…………」

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