第8話 First Game➂
『ファーストゲーム、終了だ!』
デジタルのかたまりのようなものが足元から徐々に形成されていき、怪盗ストレリチアの姿が三人の間に現れた。
「ストレリチア……。ゲーム終了ってのは正解ってことでいいのか?」
『他のチームは時間いっぱいまで待ってるつもりだったんだが、このチームが一番のりに答えを出したもんでねぇ』
「天音君、彼と知り合いなん?」
「まあ、そうですね」
天音は人差し指を伸ばしてストレリチアの胴体を触ろうとしたが感触なく貫通してしまった。
「ちっ、本体は別か」
『どうだ……。一番のりってことでこのチームオンリーの特別なゲームをしないか? 犯人の名前を当てた。3択なんだ。運かもしれない。それだけじゃあ退屈だろう? なあ? 探偵』
「まず内容を提示しろ。First Gameもそうだが事前の説明が不十分だ。やるかやらないかはそれからだ」
『ダイイングメッセージの意味、何故犯人が都梅鈴桜なのか。そして凶器はどうやって隠したのか、場所と手段。この2つを答えられるかどうか。両方答えられた場合の報酬はそうだな……Second Gameの時に優秀な犬を一匹貸してやるってことにしようか。そして……1つ間違うごとにその解答者は即脱落。つまり最大2人脱落するかもしれないということだ』
「脱落……」
「こんなんデメリットがでかすぎやないか……?」
(俺は最初の問いは答えられるが……2つ目は……。2人のどちらかがここで脱落は絶対にダメだ)
「……危険すぎるな。この話はやめ、」
「待ってください!」
緑川と天音が顔を合わして辞めようと口を開けたとき、瑞希がこれまでにないほど真剣な表情で遮った。
「やりましょう、そのゲーム。お兄さんは最初の解答を持っている。なら確率は高いでしょう? もしもの時の責任は僕だけ脱落で済みますし……」
「ダメだ瑞希! 確率どうこうじゃなくて俺達は2つ目の答えを知らない。残念ながら……。脱落はダメだ!」
「やらしてください……!」
静寂――。二人はお互いの目を見つめながら長いようで短い間が流れた。
「分かった。何かわかってるってことだな。そこまで言うなら信じるよ瑞希」
「はい!」
(写真から判断できる都梅鈴桜の服装はかなりゆったりとした服に高さのある帽子をしている。あと特徴的なのは杖をついていることだけだ。ナイフは帽子の中か服の中……杖の中……。推理ドラマでよくあるのは杖の中……か? ダメだ……情報が足りない。これじゃあカンで当てるしかない)
『結論が出たな。じゃあ探偵が1つ目の解答を、2つ目はそこのフードの少年が解答をする。良いな?』
「ま、待ってくれ! 2人だけカッコつけてずるいやないか! 怪盗さん、瑞希君がもし間違えたら脱落するのは俺にしてくれないでしょうか?」
「ちょっ! 緑川さん! 何言い出すんですか」
急なその緑川のお願いに瑞希と天音は焦りが出た。
『俺はかまわないぜ』
「ありがとーございます!」
「緑川さん、僕が勝手に決めたことをどうして……」
「アホでも分かる。これからもこんな難しいゲームが続くならあんたらのような頭のいい若者が残った方が効率がいい。今どこの会社でも口を揃えて言ってる効率化っちゅうやつや。足手まといにはなりたくないんや」
緑川の手を取って天音は声のボリュームを上げてどうしてそんなことを言うんだという表情を向けた。
「足手まといなんかじゃないだろ? おっさん!」
「だけど……なあ?」
「俺は駄菓子屋探偵だから会社とかの詳しい仕組みは知らないけど、足手まといってのはただ単に仕事ができない、活躍できないやつのことを指すんじゃないと思います」
「それはきれいごとや。現実は……違うんや……」
「……。でも! 俺は一番の足手まといはやる気がない、覚悟がないやつのことだと思います! 緑川さん、俺ら3人で最後まで勝ち続けましょう? だから脱落なんて言わないでください」
「……わ、わかったよ! 天音君、瑞希君、そんな真剣に返されるとは思わなかった! ハハ、カッコつけたかっただけだよ。うん! がんばろか!」
『……良いか? 時間は有限だ。早速始めよう、探偵』
「あぁ」
ストレリチアの前で天音は駄菓子が入ったカゴを置いて座り、ダイイングメッセージの意味を話し始めた。
「簡単に言うと、この【コンブちゃん カステラダイコン】は駄菓子の名前の一部を示している。つまり、『コンブ』は『都コンブ』、『ちゃん』は『梅ちゃん』、『カステラ』は『鈴カステラ』、『ダイコン』は『桜ダイコン』だ」
都コンブ、梅ちゃん、鈴カステラ、桜ダイコンをそれぞれカゴから取り出してみんなの前に見せた。
「ダイイングメッセージ以外の単語を繋げると『都梅鈴桜』。駄菓子屋だからこそ咄嗟に浮かんだメッセージってわけだろうな。ま、俺はこんなことやらねえがな多分」
パチパチパチパチパチパチ――
『正解』
「す、凄いお兄さん……!」
「天音君~~!! やったやんか! さっすが駄菓子屋探偵!」
『緊張するのはここからだろ? 探偵の解答権はもう無いぜ。まああったとしてもわかってないみたいだしなっ』
「……っ。瑞希……」
「大丈夫です。自分の中で妄想していた確信のない推理。だけど先ほどあの怪盗さんがヒントをくれましたからきっと大丈夫です」
『……へぇ? じゃあ、その答えを聞こう。ナイフの隠し場所と手段を』
「……ナイフは杖の中に隠した。そして歩いた時に音が出ないように中にマシュマロを詰めたんだ」
「瑞希……おまえっ……!」
「カンか!? やっぱ妄想か!?」
『正解だ……! お見事……正直驚いている。将来のエンターテイメントもまだまだ腐らないなこれは。改めてFirst Game終了、お疲れ様でした。先ほどの約束通り、報酬を添えて3人全員のSecond Game参加を認めます。ではまた後ほど』
プツン――。
立体映像が消え去り、終了のブザーとともにその部屋は解除されてもとのパーティー会場へと戻ってきた。
「戻ったんか」
「はい、会場にいる人数が減ってるからクリアしたということでしょ。それより……瑞希……。さっきのは何が根拠だったんだ?」
少し言いずらそうにちらちらとこちらを見ている。2人からぐいぐいと詰め寄られた末に白状した。
「僕は少し特殊な
「「カメラアイ!?」」
「僕はこの目で見たことを頭にそのまま保存することができるんです。それでたまたま2つの部屋の差異に気づいてしまった。事件後の部屋には大きなマシュマロの袋がごっそりとなくなっていたんです。だからマシュマロとそのナイフを杖に詰めたんじゃないかなって思って……」
そっと深々と被っていたフードを取るとその大きな目は空色に輝いていた。
「まさかっじゃあ、ストレリチアの追加ゲームの報酬の、優秀な犬ってのが!」
「それです! そのヒントがゲームに参加することを決めた理由です!」
「なるほど……。杖の中にマシュマロとナイフが詰まっているのならマシュマロの甘い匂いをたぐって追跡できる!」
「ほえ~すごいなぁ瑞希君」
「ありがとうございます……!」
First Game終了、彼ら三人は少し有利な状況でSecond Gameへと駒を進める――。
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