第7話 First Game➁

「はよせえ、10分間やろ?」

「あっはい! 行こう瑞希」

「はい」


――ガチャ、ギイィー


 事件前という駄菓子屋の部屋に天音を先頭に三人はおそるおそるドアを開けた。


「って俺んちやないか~~~~い!!」

「ホンマに!? ラッキーが重なるなぁ~」

「配置もほとんど一緒だぜ……」


(あの怪盗野郎、絶対俺のこと意識してるな……てか俺がこの世界に居るのがバレてる? なら明らかに俺が有利なゲームにしてるのも何か意味があるのか?)


 扉を閉じるとアナログ時計が十分をカチカチとうるさくカウントし始める。入ってすぐに緑川が大きな声で何やら昔懐かしさに浸る声を上げ始めた。


「うわっ! この何たら棒とか懐かしいなぁ」

「あぁそれはきな粉棒とうまい棒、チョコ棒です。このカウンターのボトルに入ってるのは酸っぱいイカやいろんな硬さや味のスルメ、くし団子にタコ刺し。少し値段が高い鈴カステラなんかもありますね」

「おもろいな、なんかテンション上がってきたわ! ちとあっちも見てくるわ」

「あ! ちょっと!」


 緑川は両脇にそのイカとタコが入ったボトルを抱えたまま奥の方へ駆けて行ってしまった。


「あっ瑞希! その口に入れてんのは何だ!?」

「そこにあった都コンブとべビスタラーメン。あと梅ちゃんとラムネも」

「どんな組合せ!? ……そうじゃなくて食べちゃダメだろう!?」

「あの紙には部屋の中のものを食べちゃダメなんて書いてなかったよ?」

「食べていいとも書いてなかったよ! この自由人どもめ」


 天音は二人の自由奔放さに振り回されながらもこの際今の瞬間をもっと楽しむべきだと自分をなんとか納得させていろんな駄菓子を紹介し始めた。


「これは前田のクラッカーだな」

「あ、それ俺知ってるぜ! 当たり前田のクラッカー! っつってな」

「はっははっ、それはもうおっさんしか使わないですよ多分。古いですよ緑川さん」

「おっ、おっさん!?」


 後ろから優しくトントンとつつかれて振り向くと瑞希がまた気になる駄菓子を手に持って来ていた。


「お兄さん、これも駄菓子?」

「さくら大根かぁ。たしかに大根ってあるもんな。漬物って感じ? 美味しいぞ」


 二人は駄菓子の説明を受けながら食べたいと思ったものを片っ端からかごに入れてそれを天音の前に差し出した。


「「これ、持って帰っていい?」」


「俺に聞かないでくれ! 知らん!」


『まもなく10分経過――まもなく10分経過――』


 部屋内のアナウンスと同時に三人は外に追い出されて、そこで初めて推理のためにあの部屋に入ったのだということに気づいた。


「で、とりあえず今の状況を整理しよう……。俺たちは犯人を特定するべく事件前の部屋に入った。それで? 入ってやったことといえば駄菓子見学? それでお見上げを貰って時間終了? 誰が悪いんだこれ?」

「…………っ…………」

「食うのをやめろ! バカタレどもが!」

「まぁまぁ、天音君。今のは俺ら2人が悪かったよ。しゃーないやんか、切り替えよ。なあ? 瑞希君」

「はい。おいしかったです」

「…………次は事件後のヒントが絶対ある重要な部屋だから頼むぞ」


 腕のブレスレットから残り時間が既に二十分を切ってることがわかる。


(急ごう……あと、凶器が何よりの証拠に繋がる。それがもし次の部屋に無かったら……)


 事件後の部屋に入ると先ほどと同様に十分間のカウントダウンが始まった。

 天音は今度こそ時間を有効に使うべくまず二人にどこかに凶器のナイフがないか確かめさせた。


「ないなぁ。こっちも……。天音君~~こっちも無いよ」

「駄菓子のボトルとか商品の間とか下とかも調べてください」

「了解~」


 くまなく調べているつもりだがナイフは見つからない。天音は店主の死体近くにあったダイイングメッセージと犯人候補三人の全体写真を睨んでいた。

 

「ん? どーした瑞希? ぼーとつっ立ったまま動かないで。何か分かったのか?」

「いや……何でもないです」


『まもなく10分経過――まもなく10分経過――』


「みんな! 外に出よう!」

「天音君、結局ナイフは見つからなかったよ~」

「犯人が隠し持っているのかもしれませんね。とりあえずFirst Gameはこれで終了です。ありがとうございました」

「え? お兄さんこのラストの10分間で犯人を特定するって言ってなかったっけ? もしかして僕たちみたいに目的忘れちゃったとかですか?」


 天音は二人が先ほど事件前の駄菓子屋の部屋で持ってきたたくさん駄菓子が入ったかごを近くに置いて特定の駄菓子をかごから引き抜き、二人の前で指パッチンをした。


「だから……もう犯人は特定できたんだよ! 事件後の部屋に入る前にはな」

「ほんなら、そん時そう言えばよかったやん!」

「それは凶器が見つかるかもしれないとおもったので……。とりあえずあのダイイングメッセージからだけですが、犯人は分かりました」

「その犯人の名前は……??」


 天音は周りがそろそろうざいと感じるほどに溜めに溜めた末に漸く口を開けてその名前を呟いた。




さん」

「――――――――ッ!?」

「この人が駄菓子屋の店主をナイフで殺した犯人です」


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