二章:AAO

第5話 Entertainment


「AAO最初のアップデート前のイベントはお前に任せる」


「ボスは何て?」


「エンターテイナーにはぴったりのイベントだろうと」


「……そうか。優勝者は5名。アップデートで追加されるオープンワールドの先行プレイ権。それを決めるのは3つのゲーム……か、これじゃあ少し退屈だろ?」


「お前は参加するのではなくゲームマスターだ。イベント内容はお前が決めていい」


「優勝者の権利をもう一つ用意してもいいか? 選択式にしたい」


「構わん。が。急に態度が変わったのは何が原因だ? 前までは仮想の世界に本当のエンターテイメントは存在しないだのデメリットがないのはゲームじゃないだのいろいろと文句を言ってたろう」


「……そうだな。強いて言えばエンターテイメントのためであり、ほんの少しの興味でもあり、俺たちの…………決着のためでもある……かな。あんたボスの右腕だろう? 本心はどう思ってる?」


「またその話か。本心などない。もし私に本心があるとするならばこの組織の、ボスの本心こそ私の本心だ」




 ◇




『天音純様、ご当選おめでとうございます。新たな世界への進出を懸けた3つのゲームで歓迎させていただきます』


「何だ?」


 天音はカウンターに置いてあったその手紙を見るも深く考えるほどの余裕がなかった。

 記憶を取り戻す少し前にまた会うと約束した黄永のことや二人の潤羽水のこと、現実世界や今いるAAOという仮想世界のこと。小さな事件から大きな事件をこれまで解いてきた天音だが、世界というこれまでとは比べ物にならないほどに大きな謎に頭が混乱していた。


「だめだ……1人だと何もできないんじゃあ二流だよな……。よし! もう一度俺のやるべきことを整理しよう。ちくしょう、何だってゲームの中ってのにこんなに悩むことばっかなんだ」


 先ほどの手紙の裏に自分のやるべきことを上から優先度が高い順に箇条書きで書き出した。


・もう一度、黒髪で幼い方の潤羽水に会う

・現実世界に帰れる方法を探して、記憶に異常がないままこっちに入れる方法を探す

・黄永と再会してこの世界を作った黒幕を見つける


(黒幕……KARASUの幹部、いや組織のボスが妥当だろうな……近いようなまだまだ遠いような……)


「ん? そういえばこの手紙は何だ。仮面舞踏会みたいなやつか? パーティー? ゲームのイベントか……『優勝者五名には新たなる世界への招待状または何でも願いが叶う権のどちらかが貰える』と……」


 やっと先ほどの手紙のことに頭が回るようになった天音は詳細をゆっくりと読み上げていった。AAO内初のイベントを開催するという内容で、いくつかのゲームで優勝者を決めてそれらの報酬が貰えるとあるのだが早くも天音はおかしな点が一箇所存在することに気づいた。


「何でも願いが叶う権……? こっちにいる人達は現実世界の記憶ないはず……あったとしてもこの世界は何でも手に入るんだろ? こんな権利なんて誰も要らないだろうに……俺はパスかな~。記憶がなかったら一番に楽しんでただろうな」


 その手紙から目をそらそうとした瞬間に手紙の一番下に書いてある『KARASU』の文字を見つけてその考えは一転した。


KARASUゲームマスターに会えるチャンスじゃねーか……しかも内部から!」


 天音はその招待状をぎゅっと強く握りしめ、覚悟を決めた。





 イベント当日、本部地下会場にて――



「エンッタ~~テ~~イメンツ!! ようこそ優勝を懸けたゲームに。このエンッタ~~テ~~イメンツ!! を任せられたある種ゲームマスターの、怪盗ストレリチアだぜ~~! よろしくぅ!!」


 派手な音と派手な閃光とともにいつぞやの屋敷で聞いたことのあるうるさい声が会場に響き渡った。


「あ、あいつは!! 怪盗野郎じゃねーかぁ! しかもゲームマスターだと!? あいつめ……記憶が戻ったこの駄菓子屋探偵の俺が参加してるとも知らずにいきいきと自己紹介しやがって」


 パーティー会場というにも広すぎるその空間には天音の他にも大勢の人が片手にグラスを持って高い天井付近に映し出されているストレリチアのホログラム映像を見上げていた。


「ホントは俺のスタイリッシュな招待状を贈りたかったんだがそこは目をつぶってくれよ! その手紙の通り皆さんには3つの簡単なゲームをしてもらいます。そのをクリアしたものだけが二つの権利のどちらかを手にすることができま~~す」


 会場の人達は手紙とは少し違うストレリチアの説明を聞いてざわつき始める。事前の手紙では明確に優勝者は五人とあったところをゲームを全てクリアしたもの全員優勝者と言ったことに会場は完全に混乱していた。天音は近くにいた人から「優勝者が多いと面白くない」「5人じゃないのか」などの声を聞いて確かにその通りだと心の中で思った。


「みなさん落ち着いてください。エンッタ~~テ~~イナ~~の俺から見積もると……全てのゲームをクリアするのは至難の業。多くても5人だろうということです。それじゃあ早速1つ目のゲームをスタートするよ?」


 ストレリチアの言葉で少し怖くなったのかもう優勝者がたくさんでてしまうのではないかという心配は無くなりゲームに集中しようという雰囲気に会場は包まれていた。






(良い緊張感だ……。まさかこの緊張感をこっちでも味わえるとはラッキーだったよ本当。このどこかに居るんだろう? 探偵。今度はあの時みたいな逆転は無い、正真正銘お前の実力だけで切り抜けて見せろ)






「では早速1つ目のゲームの説明を始めるとしようか……」

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