第3話 夢(現実)の記憶
「こちら総合管理室――。天音純の駄菓子屋への空間転移および潤羽水様の帰還を確認。潤羽水様の記憶はちょうど1か月前の状態に戻っている模様です。1分後にそちらの管理外空間を完全封鎖します」
「――了解。そのことを上に報告しろ」
◇
『黄永公英。お前の約束通り天音純には一切手出しをしないし、存在も消さない。お前と会話出来る時間も確保した。その代わり潤羽水様の記憶はお前と出会う前に戻して無事に帰還させた。そして……』
『この空間を削除する……か』
『そうだ。削除というよりかは幽閉だがな。これから一生無限の孤独というわけだ。この空間とお前を見つけたときは少々驚いたがまさかこんな些細な賭けに全て捨てるとは……分からん男だな』
『それと引き換えてでもあの時間には価値があった。後悔はないし、絶望もないよ』
『だが、もうあいつは独りだ。記憶も戻らない。何も変わらない』
『独りじゃない、必ず。俺は最初から彼にしてあげることなんて何もなかったんだ、天音純の未来を救えるのは天音純の過去だけだ』
『過去が未来を救うだと?』
……………………………………………………………………
◇
駄菓子屋――
「一瞬だな転移ってのは」
天音は気づくと何事もなかったかのように一人カウンター席に立っていた。
「そして、俺だけじゃねーか……。潤羽水も一緒に~~とか言ってたけどあれは噓だったのか? それともあれは全部……夢。だったとか?」
ふとカウンター席に置いてあったきな粉棒が入った瓶から一つ抜き取って口に加える。
(とりあえずあいつに言われた場所に行ってみるか)
バイクにまたがり、浅川橋を横目に商店街を抜けて廃工場にまず辿り着いた。夢の中で見た景色と同じポイントをおもむろに探す。
「廃工場ねぇ~。夢の中の俺は何でまたこんな所に来てたのかってね」
砂利道を進むと工場内の少し広い場所に出た。空き瓶があちこちで散乱してあるのを見て天音は昔テレビで見ていたヤンキー学園ドラマの喧嘩シーンを思い出した。
「こーゆーとこで大勢の不良が一人を殴ったり蹴ったりして……それを遅れて駆けつけた先生が助けるってシーン……みたいな場所だな」
そんなことを想像しているとそこから少し離れたところで二人の大人が何かを話しながら本気で闘っているのが見えた。同時に目が染みるような感じがした。次に目を閉じてしまうともう何も見えなくなってしまいそうなほど儚く半透明なその二人の姿が天音の目に映っていた。
「これは……! 現実じゃない……のか? 顔がよく見えない、誰が闘っているんだ!?」
近くでその幻影のようなものを見ようと急いで近づくと靄が無くなるように一瞬にして見えなくなってしまった。
「あの夢の記憶がこっちの世界の同じ景色を見て同期してるのか……?」
ひとまずその場を後にして黄永に言われたポイントを一つ一つ行って自分の
「結構山奥まで来たな。ロープウェイ入口……」
人が一切いない山奥で天音はとりあえずロープウェイで山頂の展望台を目指すことにした。天音一人を乗せたゴンドラはゆっくりと登っていった。
「……あの廃工場と同じくらいここの夢を覚えてる」
少しすると山頂から降りてくる反対側のレーンのゴンドラが斜め上の方に見えた。その瞬間にまた目が染みるような感じがした。
すれ違いざまに横のゴンドラ内を見ると小さな女の子が微かに見えた。座り込んで足をグッと抑えているように見えた。顔ははっきりと見えない。
「くそっ! さっきと同じだ! 誰かわからねえぇ……」
展望台からは綺麗な夕焼けが見えた。
◇
山を降りる頃には太陽はとっくに沈んでいて灯が町を照らしていた。美咲第一高校の門の前にバイクをとめてこっそりと侵入した。
「ここが一応最後か……。黄永の思惑通りかは知らないが確かに俺の中にはもう一つの記憶があるってことには気づけた。けどその記憶の中身があと一歩のとこでわからね。あーー!! なんだこの痒い所に手が届かない感じは!!」
ピコン――!
門を飛び越えた瞬間にスマホに一本のメールが入った音がした。
(ん? 誰からだ? No Name……。画像添付のみ……か?)
画像添付ファイルを押す――。
『コスモス ラン
ニチニチソウ タンポポ オオバコ
ナシ キリ キキョウ
ススキ ナズナ/キク ハス ユリ』
どうやら花の名前と思われる単語の羅列だけがずらずらとスマホに写っていた。
「これはっ!!」
その画像を見ると同時に天音は思わず笑みを浮かべた。
「俺はこの謎がヒントが無くても解ける。いや、過去に解いた謎だ! あの
ある場所に向かって走り出した。
(ハア……ハア……。二文字の花の最初の字を消す……。それ以外の花は……二重の音の字を消す! ハア……。少しいびつなのもあるけどくっつけると四つの場所が……浮かび上がる。そしてその中心がこのドアの先だ!!)
ドアを開けると真っ白な眩い光に包まれた。目を開けることすら困難であり、一度戻ろうと背にあるはずのドアを探すが見つからない。そこには部屋という概念は存在せずに白くて眩しい無限の空間が広がっていた。
「なっ! 何だよこの部屋は! 俺の知ってる場所じゃないぞ?」
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