第2話 記憶の証明
天音は一瞬頭が真っ白になり体の自由を奪われたかのように棒立ちになっていた。
意識がはっきりして先ほど落とした飴袋を拾おうとしゃがみながら下を向くと飴玉を既に拾っていた小学校低学年くらいの女の子が居た。
「うわっ!! びっくりした……急に現れたように思ったぜ」
くしで綺麗に整えられていた黒いショートカットを揺らして、その女の子はこちらに勢い良く振り向いた。お金持ちのお嬢様のようだがどこかやんちゃで正義感が強そうで……どこか寂しそうな顔をしていた。
「また、消えちゃった……」
涙声。強く握りしめていた飴袋。意味深なセリフ。天音には全く理解できなかった。
「消えちゃった……? ここに何か建ってたのか?」
「うん……。お兄ちゃん、ここに新しく入ってきた人?」
「結構長いぞこの町は」
「そう……。はい、これ」
少女は飴袋を天音に返すと空き地に向かって手を合わせていた。
「えっ、お兄ちゃん何してるの?」
天音も隣りに並んで一緒に手を合わせていた。
「何か大事なものがここにあったんだろ?」
「ありがとう」
「もし暇なら俺の店の駄菓子屋に来い。いろんな駄菓子があるぞ!」
「えっ!! じゃあきな粉棒食べたい! あれ一番好きなの!」
「ああ良いぜ。あっ、でも食い過ぎんなよ?」
「うん! 私の名前は潤羽水って言うの。よろしくね!」
――時が止まった気がした
似ている顔をどこかで見たような気がする。通りすがりの人とかじゃない、ずっと一緒にいた大切な人だったような気がする。聞き覚えのある名前。
気がするじゃない! これはあの夢の記憶だ。真実は夢の方だったのかと思った瞬間強い吐き気に襲われた。
(うっ、)
視界がぼやけてまともに立っていられない。
(…………くそ)
目が覚めた時視界に入ったのは灰色のコンクリートでできた重そうな天井だった。
「あ! 気づいた!」
「きみは……さっきの……。俺はあのあと気を失ったのか」
「記憶の混乱だよ。まだ全部の記憶を取り戻したわけじゃなさそうだけどね。だけどタイミングが良かった。潤羽さんのそばにたまたま居て。そしてこうして記憶を取り戻したままこちらの世界に引き込むことができたのは君が初めてだ」
パソコンを手に、白衣を身に着けた研究員らしき男が奥から顔を出した。
(知らない顔だな……)
「記憶を取り戻した? 悪いがあんたのことはまるっきり知らないぞ。かろうじてそこの女の子と同じ名前をした人が別の世界に居たことくらいしか分からん」
「別の世界の存在を信じるようになったのははっきり言って上出来だよ。信じてた通りやはり君は……。いやまずは自己紹介だ。俺は
「別の世界から……」
「そう! ここは俺の仲間が作った機関の監視を一切受けない空間。そしてこの少女こそ、君のよく知る人物、潤羽水ちゃんこの世界バージョン、ね?」
「、ね? じゃねーよバカタレ! 俺が思い出したのはもうちょい大人だ。こんなに子供じゃねーよ」
天音はそう言って横に座っていた少女に指を指した。
「っな! 子供って言った! 子供じゃないし~~潤羽水って言うんだし~~」
「そういうとこが子供何だよ! 黄永って言ったか? 要するに名前だけってことだ。何より髪色が違う」
潤羽は口を出さずに大人しく二人のやり取りを聞いている。
「う~~ん、どこから説明するべきか……。いろいろ説明しすぎるのも記憶が混乱してショートされても困るしねえ~~」
「全部説明しろよ! せめてこの状況くらい!」
「ならこれから君に任務を与える。それがクリア出来たら詳しく教えてあげるよ」
「任務?」
「これから天音君を機関の監視がある外の世界に一度返します。そしてこのメモにある場所へ全部行ってもらいます」
「見覚えのある場所へ行かせて記憶をもっと戻せってか?」
「はい! その通りです。そして2つのルールを守ってもらいます。1つは監視のある世界ですのであまり記憶を取り戻したような素振りは控えてください、機関に消されますので。まあ、簡単に消されないように眠っている間にこちらでプログラムを修正しましたが念のためです」
(え……? プログラム? その説明は……?)
「そして2つ目は潤羽さんと一緒に行動してください。これは記憶の復活サポートというよりは保険ですが……。まあ以上ですルールは」
(これも説明なしだよな……きっと)
「では、24時間後にまた会いましょう。ここから出る座標はあなたの駄菓子屋に設定しておきましたので。ごゆっくり」
「え。あああちょっと待て!! まだ話はおわって、」
「やった! 一緒に散歩だあ! 行ってくるね黄永先生」
ビュン――
二人は一瞬でその場から転送された。
「お願いします天音純さん……! ここまでが私とゆりが想定していた最悪の事態です。あの組織を勝手にわざと解散させたのも……現実世界であなた達が何度もピンチになった時に一度も手を貸さなかったのも…………この瞬間のため。逆転の一手を残すためです!」
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