第41話 マリーゴールド➀


 次の日の朝――


 水は大神先生がすぐ駆けつけてくれるであろう美咲北高校へ普段通りに行くことにした。


(大神先生、無事でいてくれたらいんだけど……)


 学校に着き、上履きに履き替えて教室の自分の席に座った。一時間目は数学の授業。本来ならば大神先生が担当の授業だ。

 ――授業開始時間になり、教室の前のドアが勢い良く開く。


(――――――っ!!)


 水は身に覚えのある顔だと思ったと同時に悪寒が全身に走るのを感じ取った。心臓がバクバク鳴り響くのが胸に手を当てなくても分かる。


「今日、大神先生は出張だ」


 この前、水が潜入した集団塾のSクラスで数学を教えていた男が現れたのだ。


(ヤバいっ。最悪の展開っ。大神先生が居ない上にあいつが来るなんて……。そうだ! 今思い返せばあいつがあの事件に関わっていたんだ。きっとそう……。ってことは組織の、)


「ということで一時限目の数学は自習となりました。各自勉学に取り組むように」



『見つかったら逃げろ』



 天音の言葉通り水は奴から逃げることを考えた。その男が教室を出ていく――

 クラスの他の人たちは熱心に勉強するものもいれば友達としゃべりだすものも居た。一気に教室内は混沌と化した。


(チャンス! 今のうちに出て、逃げよう! 燈火を巻き込むことはできないけど前の時のように電話でどうすればいいか話しながら移動しよう!)


 ガラガラガラッ――――


「何処へ行く。潤羽水。中学生に混じって参加した俺の集団塾は楽しかったか?」


 背後から低い声がさらなる恐怖を与える。

 水は振り返らずに外に向かって走り出した。


『もしもし、燈火!? 正体分かった正体が!』

『もしかしてもう追われてる!? 組織の誰かに会ったの?』

『多分そうっ! あの塾の講師!』

『やっぱり……。会ったのはそいつだけ?』

『うん!』

『なら逃げ切れるよ! テキトーにバスかタクシーひろってまず駅に行くんだ……。美咲駅までの最短ルートを今から教えるよ』


 一度燈火との通話を切った水は学校前のバス停に止まったバスに乗ってひとまず学校を離れることにした。が、そこに止まっていたバスはどうやら何かの番組の撮影中らしく乗ることは出来なかった。


 その直後に何者かに腕を掴まれた水は振り返ってその手を振り払おうとする。と、そこに立っていたのは近くの席の男子であった。以前に駄菓子屋に事件を持ってきた生徒会長の友達だ。


角谷かどやさん!?」

「急に教室飛び出すから……その、気になって……」

「ごめん、ちょっと体調が悪くて……だからもう行くね」

「……」

「……その腕、離してくれると助かるんだけ、ど」

「…………」

「角谷さん……?」

「…………………………」


 どんどん強い力で腕を掴まれていることに水は気付いた。


「鬼ごっこはもうお終いか? 潤羽水」


(まずい、追いつかれた……!)


「あんた、やっぱり組織の幹部でしょ、角谷さんに何をしたの?」

「おや、以前に旧美咲北小学校で見たのでは? 目の前の彼のような洗脳された生徒たちを」


(こいつ……やっぱりあの事件の……!!)


 水は申し訳ないと思いながらも全力で彼の腕を振り払い、また走り出した。



『ロベリア。美咲町発のバスとタクシーの監視カメラから潤羽水の行き先を随時俺に教えろ』



 折り返しの電話が燈火から入る。


『大丈夫!?』

『ヤバいかも……やっぱりあいつ……あの時みたいに人を洗脳して操れるのかも……!』

『……っ!!』

『とりあえずバスで駅に行って、それからに行くよ』

『何か考えがあるんだね? 私も駅に行く……9時半の普通電車に乗ってくれ』

『うん、』



 ◇



 再度、とあるホテルの一室にて――



「そのAngel Angle計画というのは?」

「名前の通りだ。

「はっ、まさか私が今まで居た組織がそのようなメルヘンを考えていたとは……」

「人間はどの時代、どの環境でも不老不死を目指す生き物だ。肉体からの解放。苦しみからの解放。窮屈な社会からの解放。自由で平等な世界の創造……」

「本気でそんなことが叶うと思っているのか?」

「人工知能にバーチャルリアリティー。それら科学技術などの可能性は一般人の想像の遥か上を行く。自分の考えや性格、心までをコピーして肉体が朽ちてなくなって死んでもなお仮想現実という世界で生きることができる。その研究、開発は既に7割というところまで来ている」

「なん……だと……? まさかその仮想現実が天国だと言いたいのか?」

「そうだ。ボスはその人それぞれに思うがままの仮想現実を全人類に与えることをお望みだ。当然、私も。そしてコスモス、貴方も」

「そんなものは生きるとは言えないだろう。私には組織が全人類をその仮想現実に閉じ込めて支配する、というようにしか聞こえませんがね……もしくはその技術をエサに世界大戦を引き起こすことでしょうかね? どちらにせよ世界の中心はKARASUということになる」

「よく考えてみろ。という意味はこれまでに死んだ者達ともまた生きていけるということだ……」

「っ、それは!!」

「今までの失言は大目に見てやる。貴方と同じように最初この計画を聞かされた時は私も混乱したよ。この部屋でじっくりゆっくり考えることだな」



 …………………………………………



「最後に一つ聞いていいでしょうか。何故組織は潤羽水を狙っているのですか? その計画に彼女は関係ないのでは?」



「……それはボスがこの計画を立てるきっかけになった人物だからだ」



(携帯電話や通信機器などをこのホテルの部屋に案内される前に没収されたのだけですね…………好都合な展開は)

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