第39話 動き出す者達


 同刻――



「最大値は14。効力は人数に反比例なのが課題。まさかのまさか、ターゲットの顔を予め確認できたのは大きな収穫だった」


 長い髪を解いた彼は一人静かに薄笑いを浮かべた。




 ◇




 駄菓子屋――



 シャワーを浴び終えた水を交えてまた会話が動き出した。


「水ちゃん、申し訳ないが今回のその事件は保留にさせてほしいんだ」

「やっぱり……こんなよく分からないことに警察は動きませんよね……」

「それもそうだが……実は俺、数日この町を離れなきゃならなくてな、もう朝には出るんだ。純も俺も居ないでこの調査は厳しい」

「何かあったんですか? 他の町で」

「あれだよ。怪盗さんだよ。タイミングが悪いったらねぇぜ、こんな時に」

「予告状が届いたんですか?」


 怪盗の名前が出たところで燈火が話を一度止めた。


「水、まだ言わないでおこうと思ってたけど今私達はかなりヤバい状況にあるんだよ。詳しくは後で話すがここは千賀さんの言う通りにしといたほうがいい」

「うん……わかった」


 千賀は何かあればまた連絡してくれと言い残して駄菓子屋を出ていった。


「それで、どういうことなの? 燈火。ヤバいって」

「KARASUの件だよ」

「!?」

「私はついこの間まで公安にいたからある程度の情報は知っているけど、一度状況を確認したい。まずあちらには誰がいる? 主に幹部でだ」


(そうか……公安ってことを忘れてた……だから千賀さんの前では何も言わなかったのか)


 水はKARASUの幹部と名乗った人物とこれまでの事件について説明した。


「花見町でそんなことがあったのか……知らなかったよ」

「ヤバいってのはこの場所が怪盗ストレリチアにバレてること? それとも大神先生が組織にスパイしていること?」

「それもだが……まだある」

「……」


 何かを大事なことを水に気づかせるかのように燈火は前のロープウェイ爆破事件の話をし始めた。


「使われた爆弾は私が以前に公安で作った爆弾だったの」

「えっ!? っていうか作れるんだ?」

「その爆弾を使ったのは一般の大学生だった」

「それが?」

「大問題だよ、これは……。公安で爆弾を私が作っていたのは一先ず置いといて考えると公安の誰かが爆弾を一般人に流しているということになる」

「それってもしかして裏切り者がいるってこと?」

「そ。私以外にね。しかも立場的に大物だろう」

「それがKARASUと何か関係があるの?」

「私が爆発したゴンドラから山頂に逃げだしたときに居たのは大神黒斗だった。そして狙いは私の身柄の確保だった。さらに、ゴンドラが爆発するのを分かっていたかのような素振りをして、一人だけ山頂に居た」

「どういうこと?」

「時間的にも下りのゴンドラの途中で爆発することは分かっていたはずだ。それを身柄確保ならふもとにいるのがベストじゃないのか。でもそうしなかった、いや、そうする必要が無かったんだよ」


 回りくどい言い方をする燈火だったが水には何を言いたいのかまるで予想がつかなかった。


「これをうまく説明するにはこう考えるしかないんだよ。KARASU

「うそ……」

「ふもとに仲間の公安がいるからあとは山頂を抑えるという考えだったんだろうね」

「じゃあヤバいってのは公安とKARASUが手を組んでるっていうこと……か」

「そ。そしてさっきの話からするに、君たちの要は大神黒斗だったらしいね。花見町の事件の時は特に。でも今はもう手を借りることはできないかもしれない」

「大神先生に何かあったの!?」

「おそらく……」




 ◇




 とあるホテルにて――



 ホテルの一室にとある人物に大神は案内されていた。


「ここに来るのは初めてかな? 

「!?」


 ベッドに荷物を降ろした時、コンコンというノックが壁越しから聞こえた。壁に背中を当てて耳をひそめると小さく女性の声が聞こえた。


(辿り着いた……とうとう組織の深層まで! こいつが、ここへ俺を呼び出したボスの右腕……!)


「君はしばらく任務から離れてもらう。その間は自由に動き回ることもこちらで制限させてもらう」

「あの公安娘の身柄の確保に失敗したからですか? では何故任務に失敗したロベリアとストレリチアはあのように、」

「慎みなさい。全てボスの命令です。その2つの失敗を踏まえてボスは本気のご様子、新たな任務はもう始まっています。成功にはあの2人は必要であり、あなたは不必要というだけでしょう」

「新たな任務……?」

「既に表社会ではロベリアが、裏ではストレリチアが動き出しています。そして今回の任務のメインはあの男です」


(また、水さんが狙われるのか……? こんな時にあの探偵ばかはっ!)


「コスモス。ボスはまだ貴方を疑っておらずに高校の教師として美咲町の監視を任されているだけだがな、私は貴方を疑っている。この監禁は私の判断だ」

「!?」

「あの計画に貴方は相応しくない」

「あの計画とは? 私は幹部になって日が浅い。詳しく教えてくれないか?」

「まだ知らなかったのか。なら行動に迷いが出るのも無理はない。聞かせてあげるよ、組織の最終目標への道筋…… Angel Angleを」




 ◇




 再び駄菓子屋にて――



「理由は分からないがその花見町の時のように君はまた幹部に狙われる。そして今、君を守れる人は居ない」

「燈火はどうなるの?」

「KARASUが公安と通じてるなら……そういうことね」

……なんて」

「偶然とは思えないし、組織が狙うのは今しかない。逃げるか隠れるかするしかない……こうなったのも私のせいだ……すまない」

「……………………」




 日常という器にいっきにヒビが入って崩れ落ちる音がした――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る