第33話 燈火
爆発二分前、ゴンドラ内――
「は? …………何言ってるの?」
「死にたいんだろ? なら公安に死んだように見せればいい。お前を縛る鎖は公安らしいからな、」
「はぁっ!? どうやって? 公安を
「この爆弾を使う……」
天音が見せたのは昨夜に駄菓子屋でテンが見せたあの爆弾だった。
「それはっ!」
「これもテンが作ったんだろ? これで爆発を相殺する」
「無理だよ! 威力が違いすぎる!」
「じゃあ昨日貰ったこの爆弾の威力は?」
「……半径2メートルくらい」
「犯人の爆弾の威力はその倍以上か?」
「その2メートルの爆弾を犯人の爆弾に近づけて私達はそこから2メートル離れるってことね……」
「試す価値はあるだろ?」
天音はテンの上着と二人の手荷物を爆弾の近くに置いてギリギリまで離れた。
「爆発のタイミングはこっちで調整するわ……」
「安心しろ! 最悪、テンは俺の背中で護るって!」
◇
ドゴー――ン!!
二つの爆弾は爆発し、予想通り二人がいた側はほんの少しだけ威力が軽減された。しかし、窓ガラスが割れてその破片が天音の背中とテンの左足に刺さってしまった。
「すまん、テン……足から血が」
「私は大丈夫。純の方が、もろに!」
「いいか? さっき上にいた管理局の人に下にあるゴンドラを上にあげてもらう……。テンは着いたら急いでそっちに乗れ……人が集まってくる、前に……」
「何でそんなこと?」
「……公安は相当なストーカー気質な集団なんだろ? 下に公安がいる確率が高い……からな」
「うん、」
「今日の観光……一番楽しかったのは何だ? 美味しかった食べ物……とか」
「…………」
「そうそう、最後にプレゼントがあるんだ……」
……………………
天音は最後の力を振り絞り、下にあるゴンドラを上にあげてもらうように電話をした。
◇
現在――
(今日の観光で、か。似たようなことを鏡の温泉でも言ってたな)
(もし公安じゃなかったら何になりたいか、とか 最後まで私のことばっかり……)
テンは一人ゴンドラ内で涙を流していた。ポケットからよれよれの赤い手帳を出してゆっくりと一ページ目を開いた。
(赤沢君。私、やっとこの手帳に書くことができたんだ)
天音が最後に言った言葉を頭に浮かべた。
『そうそう、最後にプレゼントがあるんだ……。この旅でお前に似合う新しい名前を……思いついたんだ。
(燈火…………燈火…………燈火…………。たとえ気を失っても…………今日の旅の、一番の宝物…………これだけは絶対に忘れない――)
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