第31話 本音
天音はテンを引きとめていた手を離して店裏の倉庫へと向かった。
「……何? もう用は、」
「まだでしょ~流石に」
「? もう依頼は済んだでしょ」
裏でガタガタ音を立てている天音の背に向かってテンは話しかける。
「悪いな、他の探偵事務所に行ってればそれで終わりだったかもしれねえがここは違うのよ。俺が満足するまでサヨナラするわけにはいかないんだよ。どうせ帰るとこないんだろ?」
「帰るとこなら……」
「多分無いんじゃないのか? だいたい分かる。ま、とりあえず気分転換だ」
ヘルメットを投げて渡し、裏から黒のバイクを出してきてテンを乗せた。
「どこ行くの。さっきの電話聞いてたって言ったよね? こんなことしてる場合じゃないんじゃないの」
「はい、これ。ヘルメット」
テンは何もわからないまま天音に連れられた。まず最初に二人が行ったのは
「ここって……確か」
「そうだ。ガソリンスタンドが珍しく設置されてる道の駅だ! よく分かったな、最近乗ってなくてガソリンが無くなっていたんだよ」
「…………」
「ほい、これ。巨峰味のアイスクリーム」
「あ……これも美味しい」
ガソリンを入れてすぐに林道石道の駅を出発してしまった。どうやら本当にガソリンが一番の目的だったようだ。
次に訪れたのは双子山にあるフラワー公園だった。平日で人が少なかったためほとんど貸し切り状態だった。
「ほら、着いたぞ。フラワー公園だ!」
「……」
「ほらほら、そんな怖い顔してたら楽しめないだろ? ここで採れる蜂蜜が美味しいんだ。後で食べよう。楽しみにしとけよ~?」
「……」
二人はドーム型のハウスに咲いている様々な花を見てまわった。天音は花に詳しく、目に入った花全てをテンに事細かく解説していた。相変わらずテンは死んだ魚の目をして天音が何を考えているのかを探っていた。
その後に鴨鳴百貨店、天翔七段の滝、雲咲神社、そして鏡の温泉と巡っていった。そして、それぞれで有名なパフェ、せんべい、饅頭をテンは食べていった。
テンは鏡の温泉で天音が何やらどこかに電話をかけているのを聞いた。
(あの探偵、何もしてないわけじゃないのか?)
『……はい。お願いします』
『お忙しいところすみません』
『千賀という名前の刑事の電話番号を今から教えます。天音純って言えば分かると思います』
『はい……ありがとうございます』
(あとは……)
「誰に電話してたの? まだ行ってない容綱株式会社とパワーデバイス美咲にまさか行くつもり?」
「……そんなことより、どーだったここの温泉は? 露天風呂気持ち良かったよな?」
「髪の毛濡れてないみたいだけど……。私だけお風呂に入れさせて自分は何してたの。いい加減話したら? 私はこれでも公安にずっといるの。爆弾に詳しい私を、ってことでしょ?」
「……そうだな。正直に言うと最初は爆弾解除に協力してくれると思ったんだ。でもバイク走らせてたら昔に言われた言葉を思い出してな。自分の都合の良いように考えるな、協力だと自分の中では思っていても相手からは利用されてる、強制的だと思われているかもしれねえってな。最近助けられてばっかで当たり前だと思ってた」
「…………」
「ごめん、テン。でももっとテンのことを知りたいと思ってたのは本当だ。……俺、行くよ。ここで待っててくれ」
「行くって?」
「解決しに! 探偵だからな」
テンに手を振って天音はバイクを鏡の温泉に置いたまま走ってどこかへいってしまった。
◇
少しして足を止めて千賀に電話をかけた。
『千賀、今容綱株式とパワーデバイスに行ってるのか?』
『一応見てきたぞ。ちょうど今そっちに向かうところだ! 真反対だから俺らはギリギリだ。そのブツだけ探しといてくれ』
『ああ俺はすぐに着くから時間はある、すぐ見つけてやる。もしそっちが間に合わなかったら下にあるダムに投げる』
『はぁ……それの許可とか! 非難とか閉鎖とか! いろいろ説明するの大変だったんだぞ! ていうかあれどうやって解いたんだ?』
『暗号か? まあなんとか解けたぞ。そーいえば千賀に言ったのはついさっきだったっけか』
『おい、何でもっと早く言わなかったんだよ!』
千賀は天音の無茶なお願いの連続で少し苛立っていた。
『いろいろごたついてたんだよ……。あれはヒントがでかいな。Add fire to the top. The next is half of your purpose. これを直訳すると……』
『頂上に火をつけろ。その次が答えの半分だ、か。頂上ってのが標高が高い場所を表してるならほとんど当てはまっちまう。それに命令文? 爆弾で火をつけるのは犯人の方だろ』
『
『じゃあ add を使ってるのはなんか意味があるのか?』
『ああ。add は確か付け加えるとか足すとかいう意味だ。火を付け加える、文字通りの意味だ』
『まさか、あの概要欄にあった8箇所の!』
天音はかっこつけた口調で説明を続けた。
『
『top ?』
『一番最初の文字に火を付けられる漢字……容綱株式会社の容に火を付けると熔。林道石道の駅の林に火を付けると焚になる』
『じゃ! じゃあまさかその2箇所が! クソッ、あいつ! 1箇所なんて噓言いやがって!』
『いいや、忘れるな千賀。The next is half of your purpose.』
『2文目……その次が答えの半分……』
『噓はついちゃいないが犯人がごまかしたのはあの8箇所に爆弾は無いということ。容綱株式会社、火を付けられる熔の次の漢字の綱。そして林道石道の駅だと道だ。綱と道……綱道……英語にそのまま直すとロープウェイ』
『……なるほどな』
『今俺たちが向かってる場所だ』
爆発まであと三時間を切る――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます