第24話 怪盗ストレリチア➂



「純、何だその眼鏡?」

「コンタクト落としちゃってな」

「そうか」



 5、4,3、2、1、5分前!



 ガチャン――



 天音が予告時刻の五分前を確認したと同時に屋敷全体の電気が消えた。


「真田さん!」

「わかっとるわい! 非常電源つけたぞ」


 監視カメラ室と他の電気が戻り、モニターに三人が目を向けるとそこにはオレンジのシルクハットとマントをまとった男が映っていた。シルクハットを深く被っていて顔は分からない。


『ようこそ。この私、怪盗ストレリチアのショーへ』


 怪盗はそう言ってマントを大きく広げてカメラに背を向けるとモニターから姿を消してしまった。


「真田さんこれはどこの映像だ? っておい! 何だらけてるんだよ」

「この映像の場所は分かるが意味はない……」

「どうゆーことだ!?」

「いつの間にか録画にすり替わっとる……」

「なんだと!?」



 ブーン! ブーン! ブーン! ブーン!



 ホワイトローズ保管庫の重量センサが何かを感知した音が響き渡る。


「ヤバい! 時間的にもヤバい! 俺が中に行く!」

「待て! 千賀! お前はここ……って、速っ」


 真田さんを連れて監視カメラ室を飛び出した千賀に追いついた時、既に保管庫は開いていた。中には怪盗の姿はなく、勿論ホワイトローズも盗まれた後だった。千賀と真田さんは頭を抱えていた。時刻は予告時刻のニ十一時ちょうど。


「まだヤツはきっとこの屋敷に潜んでる……!」

「ワシのホワイトローズ……」

「必ず取り戻します……!!」


『各員に伝達。予告時刻ピッタリにホワイトローズが盗まれた! しかしまだ怪盗は屋敷にいると思われる! 玄関だ!! 1階の玄関を厳重警戒だ!! 全力で探しだせ!!』


「…………」



 千賀の指示で警察たちは玄関や外に出られそうな窓に集まり始めていた。




 ◇




 屋敷、屋上――



 ガチャ、キーー



「やっぱ来ると思ったぜ」

「お前はてっきり1階の方に行くと思ってたよ、純」

「なんでここに来た?」

「それは上から部下の動きを見るためだ」

「もういい、千賀。いや、怪盗ストレリチアさん……」

「な、何言ってんだお前」

「俺を騙すには千賀じゃ俺との関係が深すぎたんだよ」

「はっ? さっきから何、」

「いいか? 確認できたのは一度だけだったがまず千賀は水のことをなんて呼ばねー。それに俺の視力は2.0ある。同級生だったお前なら眼鏡なんて要らないだろとツッコミを入れるはずだ」

「……っ少しは大人になって視力が落ちたかと思ったんだよ」

「それにこの眼鏡は暗視付きだ。ずっと前に大神に作ってもらったんだ」



「なるほど……」



 ビリビリ――



 千賀のフリをしていたその男は諦めたのか変装を外した。監視カメラに映っていた姿の男が天音の目の前に現れた。手にはホワイトローズが。


(若いぞ……20代……俺と同じくらいか?)


「どうやってホワイトローズを盗んだ?」

「見ていたんだろ? その眼鏡で。電気を消した瞬間にボタンを押したのさ。重量センサの部屋に予め取り付けといた重りを床に落とすボタンをな」

「なるほど。保管庫に怪盗が入ったと見せかけて、ってことか」

「それはそうと潤羽水の呼び方で分かってたなら何故予め捕まえなかった?」

「ホワイトローズを盗んで警察を1階に集めさせて空から逃げようとしたとこまで読んでたんだよ。一流の探偵ならそれをくみ取った上で油断したとこを捕まえるに決まってんだろ?」

「……ふ、いい読みと言っておこうかな」

「探偵は裏の裏を読むべしってな……。ずっと前から先手を打ってたんだよ!! さあ、観念しなっ怪盗ストレリチア」

ねぇ~。フフフッ」

「どーした? 天下の怪盗さんよ」

「いや~~見事だったよ。君のことを少しバカにしてたよ。俺の変装を見破り、ここまで来たところまでは」

「逃がさねーぞ」

「ここまで辿り着いた君に良いことを教えてやるよ」

「?」

「怪盗ストレリチア……花見町……ロベリア……作戦……」

「っ!! 何でその、」

?」

「まさかっ!!」

「そう、だ」

「っだが! お前はこうして俺に追い詰められて……」

「ああ、このホワイトローズか? 良いよ。真実にほんの少し辿り着いた君に返すよ。ただし、最初から狙ってたホワイトローズは渡さない」

「…………最初から狙ってた?」

「美しく輝く白髪、透き通った目、彼女こそ俺のホワイトローズ!」

「狙いは……水っ!!」

「そ。そのために大神に変装して、お前らを美咲町、花見町に分断させた。男にしかかからない病気って聞けば編成はホワイトローズ一人で花見町に行くことになる。そしてお前ら探偵と警察はまんまと俺が撒いたダミーのホワイトローズに引っかかったってわけ。ここからが俺たちの作戦開始、ショーの始まりさ!!」

「くそ……あの時、大神の変装さえ気づいていれば……あの時、携帯の故障に気づいていれば……」

「裏の裏? 先手? それはお前が考えていた理想の話だろ? 現実、いや……真実を見ることができない探偵はドニ流だ。ただの探偵気取りのカッコつけバカ。最後だから良いことを教えてやるよ。探偵や怪盗に、なんて言葉は存在しねーの。既に終わってしまった自分のミスを分析して、その結果をほざいても何にもなりゃしねー。過去にすがって今この瞬間、未来の目的への道を考えられないのならば探偵などやめてしまえばいい。じゃーな」

「しまった……煙玉っ」


 煙が晴れたころ、既に怪盗ストレリチアはハングライダーで空に飛び立っていた。ストレリチアの別名、極楽鳥花。空を飛ぶ姿は極楽鳥のように華麗で優雅であった――




 ◇




 天音は急いで千賀に電話をかけた。


『繋がった!! おい千賀! お前今どこで何してる?』

『悪い……睡眠ガスでやられたようだ……。状況は?』

『ホワイトローズは戻ってきたが……水が危ない。今ハングライダーで花見町の方に飛んでった!』

『なんだと!? 水ちゃん……。じゃあもう……』

『ああ、作戦は失敗。全てが手遅れだ』



 天音たち探偵サイドは先手を打ったつもりが逆に先手を打たれていた。あの駄菓子屋での作戦会議から既に……。怪盗ストレリチアの狙いは真田家に保管されていた宝石のホワイトローズではなく、今花見町で組織の幹部の一人のロベリアについて捜索している潤羽水であった。そう、真田家の予告状から始まった全てが潤羽水を手に入れるためのダミーであった――









『もしもしっ!! 水! 水! くそ、繋がらねー……あの作戦会議の時に携帯に何かしやがったな……おい、水……』


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