第22話 ロベリア➂


 花見町二日目――



 水は昨日の人形のことでよく眠れずにまだ布団をかぶっていた。雫はすぐ起きて外に出掛ける準備をしていた。ロベリアを捜す準備を……。


「水、起きてこれして」

「ウィッグ?」

「きっと昨日その白い髪で街に出たとき大変だったでしょ?」

「うん……ありがと」


(ごめん水……だからこの町は……)


「あ! その人形! それまさか持ってくの? ていうかどこ行くの?」

「占い師を何人か探りにね。それに人形じゃなくて菊! ……水にはそう呼んで欲しい」

「分かった」

「それと昨夜言わなかったボクのことについて歩きながら説明するよ」


 水は急いで着替えて雫に黒髪のウィッグを調整してもらっていた。


「水、黒髪も似合うね。昔一度だけ人形館に行った時に見た市松人形のように美しいよ」

「それ、褒め言葉……?」

「じゃあ行こうか」




 ◇




「それで……そのにんg、菊ちゃんっていうのは……」

「まずこの世界には幽霊が存在する。これを前提としてこれから話していくよ」

「幽霊……」

「そういえば昨夜。……その事件の犯人は人間だったんだろ?」

「ごめん……話、進めて」

「……とにかく幽霊は存在する。そしてそれに何らかの形で干渉できる人間がいる。それがその組織のロベリアとボクってわけ。まあロベリアはホントかどうかまだわからないけどね。噂だし」

「干渉?」

「簡単に言うとボクは幽霊が見える力と特定の霊体を人形に入れて会話できる力があるんだ。水のその髪の毛と同じで生まれつきなの。まあ噓っぽいよね……」

「大丈夫! 見たものが真実だと思ってるから。昨日菊、カタカタ動いてたし!」

「はは、ありがと! そのロベリアが占い師とか男性しかかからない眠り病や睡蓮病の噂は街の幽霊たちから前に聞いて、それ以外組織のことはよく分からない」

「なるほどね」


 その日二人は中心街に降りて占い師の店を数店舗調べたが欲しい情報は手に入らなかった。既に太陽は沈み今日はもう引き上げようとしていた。


「噂が美咲町にもきてたからもっと簡単に見つかると思ってた」


「一つだけ有益な情報が得られたじゃんかって菊が言ってるぞ」

「何??」

「黒髪の水とボクは双子に見えるほど似てるってことだって」

「それ全く有益じゃない!」

「ごめんごめん、折角だし今日は花見町の美味しいご飯でも食べにいこうか」

「ホント!? それってもしかして花見町そば? 中身たっぷりのクレープ? それともやっぱりスペシャル餡蜜デラックス!?」

「水……もしかして来る前に調べてきたね? 本当の目的はそれだったり?」

「ち、違う……けどね。目的は忘れてないし……!」

「意外と女の子なとこもあるんだね。 そして今から行くのはほうとう屋さんだ。 花見町で採れた山菜が山盛りに乗っててとってもおいしいんだ~!」

「美味しそ~! 行く!」


 お互いに誰かと一緒にテンションが上がるのは久しぶりだと思いつつ二人はいつの間にか大通りから一つ外れた小道を歩いていた。




 バッ!!




 それは一瞬の出来事だったーー


 水は持っていたカバンを背後から近づいてきた何者かに盗まれたのだった。雫は水がその反動で地面に腰をつく前に後ろから支えた。人通りが少ない小道で周りに人が居なくなった隙を狙っていたのだ。


「泥棒!」

「水! 大丈夫!?」

「ぁ……だ、大丈夫。ありがと雫」

「あいつはボクが追う!」

「待って! 私も行く! 探偵のカバンをひったくるなんていい度胸じゃない」


 二人はそのひったくり犯のマスクにサングラスをしてフードを被った男を走って追いかけた。男は細い道を選んでなるべく人がいないほうに向かうと思ったがなぜか人目が多い大通りの方へ抜けていった。


「菊!」

「え? 菊ちゃんに追わせるの?」

「周りの幽霊たちの通訳をしてもらってるんだ。どこに逃げたかっていうね」

「なるほど」

「あのビル! あの高い雑居ビルに入っていった!」

「はあ、はあ……あと少しで追い詰められる」

「エレベーター! 8階だ! 階段で行くけど水大丈夫か?」

「見て、8階にはこの時間帯はバーしか営業してない」

「な、なるほど~。じゃあもう王手というわけだ」



 二人はひったくり犯を追い、犯人が逃げ込んだビル八階のバーを目指す――

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