第20話 ロベリア➁


「君、その白い髪……。そうかボクの店にはどうやら町の噂を信じて解毒薬かなんかを奪いに来たとかかな……?」

「いいえ。私のこの白い髪の毛は生まれつきなの。それより噂ということは変な呪いは関係ないってこと?」

「ああそうだよ。それじゃあもう一度聞くよ。展示物の閲覧ですかそれとも事件ですか?」

「事件……? 何のこと? ここはいったい何なの……私は……」

「おや、店先の看板は暗くて見えなかったのかい? 『人形屋(展示のみ)、探偵屋』と書いてあったはずだけど……。ボクはこの花見町で人形屋と探偵をやっているだ。なんだか疲れた顔をしてるね。の客は珍しい、話なら奥でお茶でも飲みながらゆっくり聞こう」


(人形……探偵? 何か……めちゃめちゃ聞いたことある気がする…………)


 水は人形探偵と名乗った天音雫の後について店の奥にある小さな机に腰かけた。カバンを机の脚にかけて前日に持たされたサイコロキャラメル(差し入れ用)を出そうとした。


「あれ、差し入れ用もない!」

「ん? どうしたの。はい、麦茶」

「いや、こーゆーときに渡す駄菓子忘れちゃって……。麦茶ありがとうございます」

「駄菓子……? 気にしなくていいよ。それに歳同じくらいだろうしため口でいいよ。で、なんだっけ?」

「実は私も探偵なの! ここへは美咲町と花見町で怪しい動きをみせている悪の組織、KARASUの幹部の一人のロベリアが居るって聞いて来たの! そして男性がかかる眠り病や睡蓮病はそいつが原因なの。さっきまではあなたかもしれないって思ってたけど……」

「……。……探偵か。名前は?」

「潤羽水。雫も探偵なら私と一緒に……」

「美咲町に明日にでも帰るんだな。今日はもう遅いからここに泊めてあげる」

「ちょっと待って! 組織のことについて何か知ってるの? お願い! 情報だけでも」

「……知ってる。知ってるからこそだ。水が探偵ってことを百歩譲って信じても一人は危険すぎる。もしここへ水を一人で来させた仲間が居たらそれはとんだバカか裏切ったかだ。よく自分の状況を客観的に見てみろ」

「確かに私の仲間がバカなのは間違いないけどね、は本物よ」

「ん? 水、その腕に巻いてるのは何だい?」

「あぁこれ、赤いネクタイ。よくわからないけど渡されたの」

「他に渡されたものは?」

「サイコロキャラメルとかいろいろ。落としたのか今はないけど……。ああ、あとこの紙」

「冷やして食べてね……。その仲間の名前は?」


 雫はその紙を持って台所の方に向かった。水には雫が何を確認しようとしているのか全くわからないでただ雫の質問に答えていった。


「天音純……駄菓子屋探偵……」

「フッ、そのバカはボクのだ」

「えぇ!?」


(やっぱり人形探偵とかいう謎の組合せと苗字が同じだからそーだと思ったぁ! でもなんか純よりかしこーい。)


「はい、これ」


 昼間に見たときは確かに『冷やして食べてね♪』とだけしか書かれていなかった紙。しばらくして雫が持ってきたその紙にはその文字の下に『天音純』の文字がうっすらと書かれていた。


「こ、これ……今書いたの?」

「サイコロキャラメルを冷やして食べるわけないだろ? これは消えるボールペンを使った簡単なお遊びみたいなものさ。消えるボールペンで書いた文字を消しゴムの摩擦熱で消す。そして-20℃くらいでこんなふうにもとに戻る。この冷やしてはそーゆーことだろ」

「へ~凄い!」

「仲間の水にこのことを知らせなかったということはこれはボクに解かせようとしたってことだね」


(だからその赤いネクタイまで……どうやら本当に組織が……)


「あの……」

「水はボクの兄に心底信用されてるみたいだね。うん! 信じるよ。この無駄に手の込んだ仕掛けと水が信頼と覚悟と言った時のあの透き通った瞳に免じてね」




 ◇




「それでそれで?? やっぱり水は兄の彼女? それとももう……」

「違うってば!」

「まあ彼女が探偵とは名乗らないかぁー」

「そんなことより組織の……」

「じゃあまずそっちの情報を教えてよ」


 水は美咲町でこれまでに組織と接触した時の事件の話や今わかっている組織の情報や今回の作戦の概要を詳しく話した。


「なるほど……。組織についてはいいことを聞けたよ。コスモス……怪盗ストレリチ……そしてロベリア……」

「これ以外に何かある?」

「いや、ロベリアくらいだ。ボクが知ってる幹部は。そして水の言う通りこの花見町の眠り病や睡蓮病はそのロベリアの仕業で間違いない」

「研究者って聞いたけど、そんな薬があるなんて……」

「研究者……? 彼女は占い師だよ。そして薬もだが主にヤツは幽霊を使役する」

「!? そんなことって……」

「ありえない? まだ疑心暗鬼だったようだね。でも本当のことさ」

「じゃあもう私たちは……ロベリアを……」

「捕まえられないって? 水は本当にボクのことを何一つ聞いてないようだね」

「どうゆうこと?」

「ボクもその幽霊が見えたり話せたりするんだ。なあきく!」



 カタカタカタ――



「っわあ!!」


 雫の呼び声で後ろに置いてあった手作りの黄色と橙色の着物を着たおかっぱの日本人形が動きだしたことに水は驚いた。


「彼女は菊。ボクの相棒だ。少し希望が出ただろ? まあ詳しいことは明日また話そうと思うよ。ボクは布団の準備をしてるから先にお風呂に入ってて。簡単なご飯も用意しておくから安心して」



「えっこのタイミングで!? この人形もだけど雫が一番怖いよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る