第19話 ロベリア➀



「じゃあ、明日からいよいよ打倒KARASU!! 引き締めてくぞ」



 作戦会議日――



「純、何これ?」

「明日、花見町に行く時にこれも持ってけ。サイコロキャラメル(差し入れ用)と試作品のサイコロキャラメル型携帯電話。万が一の駄菓子屋探偵アイテムだ」

「携帯持ってるんですけど……。この手紙は?」

「……それは花見町の地図だ。困ったときに開けよ。そして俺がいつもしてる赤いネクタイも持ってけ。ほれっ」

「恥ずかしいんですけど……」

「じゃあ腕にでも巻いとけ。御守りだ。そしてもし協力者ができても俺のことは話すな。いいなー?」

「…………」


 作戦会議が終わって天音は早速明日以降の準備をしていた水にこれらの用途がよく分からないものを持たせてよくわからないことを言った。



 次の日、荒川橋前の花見町行きバスにて――



 腕に巻いた赤いネクタイを袖の長い服で隠して美咲町の端の寂れたバス停から水は花見町を目指した。乗客は数人のみで出発してからずっと山道を走り続けている。


(今のうちに渡された花見町の地図でも見とこ)


「!? これ地図じゃない! あ、あとあのサイコロの電話みたいなの駄菓子屋に忘れた……。ま、携帯は別にあるし何とかなるか」


 天音に花見町の地図と言われて持たされたものは八つに折りたたんであった『冷やして食べてね♪』とだけ書かれた紙だった。一つため息をついてその紙をカバンにしまって視線を窓の向こうに移した。


 水は花見町で一番栄えているとされている花見町の中心街でバスを降りた。目の前の時計台はすでに昼過ぎを指している。


「なにこれ……めっちゃさびれてるじゃない……」


 たくさん店があるはずの大通りはシャッター街となっており、人がそんなに歩いていない。


「とりあえず誰かに流行ってる病気とか組織のこととか聞かないと」


 大通りを歩きながら開いている店で聞き込みを始めると水は小さな宝石屋を見つけた。


「すいません。少し花見町について聞きたいことがあるんですけど」

「その髪! ち、近寄るな睡蓮病!! 人形の呪いだぁっ」

「!? ……睡蓮病……人形の呪い?」


 宝石屋の男は水の白い髪を見ると化け物を見たかのように焦って店の奥に逃げてしまった。


「そうだ……私の髪……。たしか花見町で流行ってる病気は朝昼晩に一度も目を覚まさなくなりうなされる眠り病と髪の毛が白くなる……睡蓮病……」


 よく周りを見渡すと大通りが寂れてるという理由もあるが水の白い髪を見るとすぐに逃げていくようで人が少ないように見えていたのだ。


「人形の呪い……?」


 水は店の隣りの電柱に貼ってあった子供がいたずらで書いたと思われる花見町の地図を見た。赤いペンで印刷された花見町の地図の上から何か文字が書かれている。


「危険、近寄るな……人形屋……」


 一か所だけバツ印があった。人形屋さんという文字の上だ。


「人形の呪い……白い髪になる睡蓮病と何か関係があるのかも。純に電話で聞いてみよ。」



 ブーー、ブーー、ブツッ



「あれ? 繋がらない? もしかしてあのバカ、サイコロのヤツしか持ってってない……?」


 水はまた一つ大きなため息をついてその貼ってあった地図を引きちぎってカバンに入れて、その人形屋を目指した。地図を見ながら花見町の北の山を少し登った所にその人形屋はあった。夕日が半分以上山に入り、一気に辺りが暗くなり始めた。人形屋の近所には一切店や家が無く、噂も相まってかなり不気味である。


「す、すいません……」

「いらっしゃい。ボクはこの店を営んでいる天音雫あまねしずくだ。展示物の閲覧ですかそれとも事件ですか?」


 入ってすぐのカウンターにパーカーと羽織の中間のような服を着た前髪ぱっつんショートカットの顔が整った水と同じくらいの年齢の子どもが居た。中性的でその目は鋭く何か自信に満ちた表情をしていた。


「天音……雫?」




 二つの物語が今交差する――

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