第18話 怪盗ストレリチア➀

 天音と千賀は怪盗ストレリチアが予告状を約一週間前に送ったという真田家に向かった。その家主は真田忍さなだしのぶで美咲町一の大金持ちであった。着くと真田忍自らが二人を迎えた。


「いらっしゃい警察の方だね? 今日は君の部下は一人かね?」

「いえ、真田さん。俺はこの町を守る、そう! 駄菓子屋探偵の天音純です。あ、これつまらないものですが」


 天音はいつものように決め台詞を言って駄菓子屋詰め合わせと書かれた袋を真田に差し出した。そのビニール袋の中には赤いサイコロのような小箱が数え切れないほど入ってあった。


「純! ホントにつまらんものを渡すな! す、すいません真田さん。こいつはこんなふざけた態度ですが一応探偵でして……」

「つまらない~~? こいつはもうなかなか手に入らないサイコロキャラメルだぞ!」

「わっははは! ワシの孫がきっと喜ぶ。良い良い。怪盗には探偵! 盛り上がるじゃないか。ワシはこういう展開を待ちに待ってたんだ」


 軽い挨拶を交わして二人は真田の家の中を案内してもらうことになった。真田の家には大きな庭にプールや庭園があり、部屋が何十個もある誰もが羨ましがるような豪邸だ。現在住んでいるのは真田さんとその孫、家政婦、数人の警備員で、家政婦と孫は予告状が届いた翌日に別荘に一時移ったと言う。


「しっかし広いですね~。そしていたるところに絵画や骨董品などがあってまるで美術館だ」

「芸術品が昔から好きでな。こうして世界中から集めてる。なぁ~に、金ならいくらでもあるわ! わっははは!」

「世界中!? 住む世界が違うぜ~。俺たちはずっと貧乏暮らしの気がするぜ、なあ千賀?」

「お前と一緒にするな……」

「あ~とっと、そうだそうだ。警察の賀さん。明日中に入れる部下は五人までにしてくれ。残りは外を頼むぞ」

賀です! 何でです? 多い方が安全ですし、確実ですよ?」

「ヤツは変装して忍び寄る。中はなるべく信頼できるワシの警備員で固めたい。それにこの勝負をワシは楽しみたいのだ……」

「分かりました……。すみませんお手洗いはどこですか?」

「そこの警備員に案内させよう。なんせ広いからな!」

「ったく、トイレくらい済ませとけよ千賀。ま、この名探偵が一人いるから大丈夫ってことよ!」

「天音純くん、これがその予告状だよ」

「どれどれ……」




 『              予告状


            ちょうど一週間後の21時

     私の愛しき白い薔薇、ホワイトローズを頂きに参上します


              怪盗ストレリチア               』




 白い紙に赤い字でそう書かれた予告状は六日前にダイニングに置いてあったのを家政婦が見つけたらしい。


「ちょうど一週間後っていうのは明日のことだ。間違いない」

「真田さん。そのホワイトローズというのは?」

「お、千賀! 急に後ろから喋りかけるなよ。ビビるわ」

「この家にあるワシの一番の宝の白く輝く宝石だよ。この宝石一つでこの家丸ごと買えるくらいの価値だ。今からその保管場所を案内する」

「保管場所? もしかしてそれって!」

「おおその通りだ探偵さん! ここがその数々の最新システムによる鉄壁の保管庫だ! ちびるなよ?」


 真田が壁に手をかざすと分厚い壁が左右に開き、真っ白なコンクリートでできた六畳くらいの小部屋が現れた。その中央にはガラスで覆われたホワイトローズと思われる宝石があった。


「スゲー!! 本格的じゃねーか!」

「待ちなさい! 探偵の!」



 ガチャン!! ガチャン!!



 天音がその部屋に入ると開いたドアの上から鉄格子が降りてきて出られないように閉じ込めてしまった。部屋には窓や他に通じるドアが存在しない完全なる密室でこうなってしまったら真田の許可がないと外へは出られない。



「な、なんじゃコレ!」

「純! 勝手なことをするな。これは真田さんが作った対怪盗ストレリチア用のものだ。気安く入るなよ」

「わっははは! ネズミ一匹出られまい!」

「真田さん! これどーなってんだ?」

「最新式のだ。要は幽霊でもない限りホワイトローズは盗めん! あ、幽霊でも無理か! わっははは!」

「「こりゃすげーや……」」


 天音はその部屋でホワイトローズを確認した後、屋内図を見ながら明日のそれぞれの配置を決めた。三階建てのその家はドアが何個もある何がどこのドアの部屋にあるのか始めてきた人には分からない造りになっていて千賀の部下たちを中に配置して警備をしてもらうのはどっちみち不可能であった。


「真田さんの警備員総勢十四人のうち、最上階の保管庫の前に二人、屋上から中に入る扉に二人、残りの十人で他の部屋と廊下、階段を巡回だ。そして千賀の部下は外の大門に二人、中の小門に二名、残りが庭の巡回だ。で、俺、千賀、真田さんは保管庫のホワイトローズを監視カメラで確認。こんな感じでいいですか真田さん?」

「ああ、問題ない! ワシは自室に戻る。部屋は用意してあるから好きに使ってくれ」


 真田は興奮してから落ち着きたいのか自室とやらに戻っていった。


「よし! あとは明日の21時! 怪盗ストレリチアを迎え撃つだけだ!」

「ホントに大丈夫か……?」

「ホワイトローズか?」

「いろいろと心配なんだよ……忘れたわけじゃないだろう? 俺たちはKARASUの幹部としての顔を持つストレリチアを捕まえるために来たんだ。水ちゃんの方だって本当は……」

「? わかってるさ。 ホワイトローズを守るだけじゃないって言いたいんだろ? 最初っからそのつもりだ」

「なんとしてでもここでKARASUの幹部の一人を捕まえて他の情報を聞き出すんだ」

「駄菓子屋探偵VS怪盗ストレリチア……何だか俺も盛り上がってきたぜ」



 怪盗ストレリチアの予告時刻まで一日を切る――

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