第16話 正義って、殺人って何ですか?


「ふふ、はッははハハハハハ」

「加藤苗木、現行犯で逮捕する」


 千賀は苗木の右手と右足に巻いてあった包帯を外して腕に手錠をかけた。


「苗木さん、この睡眠剤、2ヶ所開けた形跡があるけどもう一つはもしかして茜里さんにつかったの?」

「あいつに罪を被せる予定だったのよ、眠らして体育館の倉庫に閉じ込めて行方不明にして、タイミングを計って出そうと思ってたけど、血を出し過ぎて貧血で倒れたからその計画も失敗したわ……」


 その話を聞いた千賀の部下がすぐさま北高校の体育館に向かい、森田茜里の安全を確保することに成功した。千賀は苗木を車に乗せるために部屋から連れ出して苗木の話を聞いていた。


「もう満足なんだよ私はァ!茜以外の悪人共も全員殺してやったからなアー!!」

「やはり動機はそれか。加藤苗木の後にいじめの対象となった水樹志保の死。そのいじめに深く関与していた原穂乃花、潮田沙苗、森田茜里の殺害を計画したわけだ……」

「違う……」

「ん?」

「青龍橋で自殺して死んだ志保。その時に志保は死んだんじゃない!!」

「まさか、その3人の誰かが水樹志保を殺したのか!?」

「志保は、志保のはいじめを受けた瞬間にもう死んでたのよ!!私と同じ……。心が無くなった空っぽの体が死んだ心を求めて自殺という道を選んだのよ……!!」

「水樹志保をいじめた、いや心を殺した者たちは悪人って意味のあの呪いの紙だったのか……。だが殺人を、復讐をしていい理由にはならない」

「あんたたち警察や政府が、いじめを裁いたことがあるのかっ!!」

「……………………」


 千賀はその苗木の言葉で過去の警察のデータ改ざん、地位、名誉のための愚行などを思い出していた。そこには警察としての見かけ上の正義に疑問を持ち、表には決して出てこないいじめという殺人に目を瞑ってる今の社会を変えられない自分の不甲斐なさを痛感する千賀の姿があった。


「殺人は人が人を殺すから殺人と言うんだろ!! ! 殺人じゃないなんだ!! お前はいじめという殺人をどう思っている、探偵すい!!」

「……私もかなり昔にこの白い髪のせいでいじめを受けたことがあるわ……苗木さんの心が死ぬという感情は痛いほどわかるわ」

「ならあんたも……」

「でも空っぽになった心は逆に誰かが埋めてくれるものよ……その誰かを見つけて作るのには前を向いて頑張らないとだけど、、、苗木さんは焦り過ぎたのよ。この世界に絶望するのが早すぎただけよ」

「…………」


 苗木は今まで堪えていたのか自然と目からは涙があふれていた。まるで顔の変わらない人形の目に水を垂らしたかのような状態でそのまま黙って千賀の隣に座って連れてかれた。天音と水はそんな苗木に最後に何も言葉をかけてやることができなかった――



 ◇



 後日、駄菓子屋にて――



「なあ水、いじめってのはどうやればなくなるんだろうな」


「それはわかんないけど……人の心の苦しみを理解できる人間がきっと増えていくはずよ」


「どうゆうことだ?」


「一度自分の身で何か苦しみを経験した人はね、自分と同じ誰かの苦しみを理解できるようになるのよ」


「じゃあ苗木は……」


「きっと志保さんの心の苦しみを理解しすぎちゃったのよ。優しいから、優しすぎるからこそ許せなかったんでしょ。この今のいじめがはびこる世の中を含めてね」


「いじめは心の殺人、心の死……か。これは表に出ないし、善悪が判断しづらいムズイ問題だな……やっぱり今の世の中じゃ……」


「アンタらしくないわね、だから私たち駄菓子屋探偵がいるんでしょ?」


「へへっ、今回は最後まで水にもってかれたな」


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