第15話 強引な事件解決
『犯人がわかったから今すぐに来て』
水の1本の電話で森田茜里の捜索をしていた天音と千賀は苗木の家に集まった。着いた瞬間に説明せずに水たちは苗木が起きないように静かに彼らを部屋にあがらせた。
「水ちゃん、犯人が分かったって言うのは森田茜里が犯人である決定的な証拠が分かったってことか?」
「千賀さんと純に森田さんの捜索を中断してまでここに来てもらったのは加藤苗木が犯人ということを伝えるためよ」
天音と千賀はその予想外の言葉に動揺して思わず驚きの声をあげた。
「んあ……ええっ!?」
「起きたようね、苗木さん」
「皆さん、どうして私の家に……?」
「あなたが今回の事件の犯人なんでしょ?苗木さん」
「……」
状況がまるで分からないという顔をした苗木の左腕を引っ張って、天音たちのもとへ連れていった。
「まず原穂乃花さんの密室殺人。これはそもそも密室ではなかったのよ。私たちが部屋に強引に入った時、まだ原さんは死んではいなかった。死んでいるように見えただけでね」
「それで苗木がやったっていう証拠はあるのか?水」
「あの時、原さんの家の机にあった食べかけのわなげチョコ。あれには少しおかしな所があったの。これを見て」
水は天音たちにそのわなげチョコを見せた。真っ先に受け取った千賀はじっくりとそのわなげチョコを見まわしたがよく分からずに首をかしげてそれを天音に渡した。
「これのどこがおかしいんだ?」
「そういうことか! 千賀、わなげチョコのチョコが見える透明なここをよく見ろ。カッターか何かで切った後がある」
「ほ、ほんとだ」
「そしてさっき苗木さんの家のゴミ箱からたまたま見つけたこの睡眠剤らしきものと実験で使ったもう一つのカッターの切り込みだらけのこのわなげチョコ。私を家に呼んだのは失敗だったわね。それとも計画の終盤で力尽きちゃったのかしら?」
水は苗木によく見えるようにその睡眠剤とわなげチョコを見せた。
「なるほど! それをチョコと差し替えて入れたのか・・・このわなげチョコを渡せたのは加藤苗木のみだと……。」
「わなげチョコを食べるとき、多くの人がチョコが見えるほうを裏にして透明なプラスチック部分を押し出して食べるから気づかないのよ」
「水ちゃん、じゃあ何でベランダで原穂乃花は死んで居たんだ?」
「あのベランダ、原さんお近くなのに血がついてないところがあったの。多分携帯の跡よ。苗木さんと携帯でベランダで話してたんでしょ。そーすれば原さんが寝たことを確認できるし、後で殺しやすいと考えたんでしょ」
「殺しやすい?」
「殺されたと見せかけるためのトリック、血の設置……。この血が付いた水風船も見つけたわ。ベランダなら外からでも血のりを設置できそうね。投げ入れることには自信がありそうなバスケ部の苗木さん?」
「……私はやってない。そもそも睡眠剤なんて誰の家にあっても普通でしょ……それに睡眠剤と血のりって言うけど原さんは死んでたじゃない! 私はずっと一緒に……いたじゃない! それにこの骨折が一番のアリバイじゃない!」
苗木の言葉を受けて天音と水は自信をもってそれを否定した。
「ずっとではないだろう。なあ水?」
「ええ、外で誰かがこちらを見ている。あの時ね」
「あれは俺たちをどかすための噓だったってわけだ」
「骨折した状態でそれらの行動ができたのかや携帯はまだ確定じゃないが、このわなげチョコと睡眠剤、それに血が付いた水風船が立派な証拠だと言える……」
千賀は原穂乃花に付いていた血を詳しく調べてくれという電話をしてから、その水風船や睡眠剤と思われる赤い錠剤の詳細を調べるために部下を呼んだ。
「じゃあその30分前に起きた最初の潮田沙苗殺害はいったい誰が……」
「千賀さん、これは連続殺人って言ったじゃないですか」
「あの時間帯にタクシーやバスの利用者も調べたが、それらしき人物や加藤苗木はいなかった。歩き、いや走って向かったんだ。でも、彼女のその骨折した足じゃあ……原穂乃花のマンションには間に合わない」
「骨折した足じゃあ、ねえ? 苗木さん、もうその骨折の演技はバレているわ」
「なんだと!?」
「本当か!? 苗木」
「……これは……これは骨折よ」
苗木は痛々しそうに自分の右腕をさすりながら今にも泣きそうな表情を見せていた。
「右腕右足を骨折した人が右ポケットにハンカチを入れる?」
「見たのか水?」
「ええ、マンションから出ようとしたときに右ポケットから落ちるハンカチをはっきりと見たわ」
「なるほど、確かに言われてみればそうだな」
「それに靴が運動靴からクロックスに変わった理由がマンションから来る途中で濡れたからって言ってたけど、雨以外で濡れる可能性があるのは水溜りよね? その前日の夜は雨だったし。骨折した足取りで水溜りを何で避けなかったの?」
「…………」
「ゆっくり歩いていけば水溜りくらい避けれそうだけど? それとも何か急いでいた。そう、骨折を理由にして時間のアリバイを作るために走った……とかね?」
「私おっちょこちょいだから!! 間違って水溜りに入っちゃっただけなの……!!
ハンカチだって骨折前に入れたズボンを履いてただけ……で……」
「私と一緒に居る時間が多くてボロが出たわね」
「水ちゃん、骨折の件は今はまだ……。病院を調べに行こう」
「千賀の言うとおりだ、水。苗木が犯人と確定するのはその後でもう少し根拠を固めたからにしよう」
「……時間がないの」
水はそばにあった金槌を拾って苗木の方へゆっくりと歩いて近づいた。
「これで終わりよ」
水はその金槌を苗木の右手に向かって勢い良く振り落とした。苗木は金槌を避けようと両手を勢いよくあげてすぐさま後ろに跳んで逃げた。その動きは明らかに右手右足を骨折している人の動きではなかった。
「ほら、ね?」
金槌を肩にかけて天音たちの方を振り向いた水はこれが証拠だと言わんばかりに鋭い眼光を向けていた。
しばらくしてから千賀の携帯が鳴り、原穂乃花の遺体から原穂乃花以外に潮田沙苗、加藤苗木の血が検出されたことや、到着した千賀の部下の苗木の家の中の調査により、潮田沙苗と原穂乃花の殺害に用いた凶器のナイフが見つかったこと、水風船に付いた血が加藤苗木のものだということが判明したことにより、加藤苗木が今回の事件の犯人だということが確定した――
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