第13話 呪いなんかじゃない

「そういえば水ちゃん、今日学校はいいのか? 」

「ああ、創立記念日で休みなので大丈夫ですよ」


天音は一度駄菓子屋に戻ると言って水と千賀だけで北高校、女子バスケットボールの部室にお邪魔することになった。



『部長、3年生、森田茜里もりたあかり。チームのエースで明るい性格。

副部長、3年生、原穂乃花はらほのか。森田茜里とは小学生からの付き合いで仲が良い。

2年生、加藤苗木かとうなえぎ。水樹志保と仲が良かった。背が低いことがコンプレックスで部のいじられキャラ。呪い?の最初の被害者。右手と右足を負傷。

2年生、水樹志保。2日前に青龍橋せいりゅうばしで自殺。』



部室に行く途中、千賀の車の中で水は今回の事件に関わる人物の簡単な詳細をまとめた紙をじっくり眺めていた。



昨日さくじつ3人を呪い殺すという紙が届いたらしい」

「呪い殺す……ね……」


北高校に着いたと同時に水は部室を見つけ次第すぐに入った。そこには1人の女子生徒が椅子に座っていた。右手と右足に包帯が巻いてあり、すぐにその女子生徒が加藤苗木であると分かった。


「あ、あの……」

「君が加藤苗木さんだね? 警部の千賀白だ。こっちが探偵の潤羽水。他の2人は来てないのか? 」

「体調不良で休みです……」


水は苗木と対面するように千賀の隣に座って話を進めた。


「千賀さん、どういった経緯でこの事件を知ったのですか? 」

「その自殺現場を捜索中に出会ってな。その呪いの話を聞いたんだ」

「これがその紙です……」


その紙には『悪人に制裁を。水樹志保』とだけ中央にでかでかと書かれていた。


「志保は友達で、いじめられている私を何度も助けてくれました……」

「苗木さんにとって志保さんはヒーローだったのね」

「でもいじめの矛先ほこさきは志保に移ったんです……!!」

「その……いじめてた人たちって?……」



「……」




「千賀さん、これって……」

「ああ、彼女が言ってるのは噓じゃない。呪い・・・警察の俺にはどうしたらいいのか分からなかったから今回はしかたなく純を頼ったんだ」




おいっーすー! 差し入れ持って来たぜ~




重い空気の中で天音の明るい声が小さな部室の中で響いた。


「純……てめえ空気を考えろ! 」

「ほんとバカ……」



あっ…………



天音は部員全員が集まっていると勘違いして駄菓子屋から袋いっぱいの駄菓子屋を両手に持って部室に入ってきた。一息ついて天音も千賀からこれまでの事件の経緯を聞いた。



「――すまんな、苗木だっけか? この駄菓子、他の二人にも届けてくれ」

「バカ! 純、苗木さんが届けられるわけないでしょう?」

「いえ、大丈夫です……近所なのでポストに入れときます……」




――その後も水は事件の詳細を少しづつ苗木から聞き出して、メモ帳にまとめた。



・13日の夜:水樹志保が自殺(遺書などはみつかっていない)

・14日の朝:苗木、茜里、穂乃花のもとに呪いの文が水樹志保から届く

・14日の夜:苗木は帰り道の神社の階段から転落。右手、右足を骨折。その際、何者かに背中を押された感触あり。

・15日:青龍橋にいた苗木を千賀が発見する




「だいたいこんな感じね」

「どうするんだ水ちゃん? 」

「とりあえず今日はもう夕方だから帰りましょう。明日は千賀さんには水樹志保さんの他殺の可能性を調べてほしいです。まだ自殺は確定ではないんですよね? 私と純は茜里さんと穂乃花さんに話を聞ききに行こうと思います」

「分かった。青龍橋周辺や水樹志保の家を調べてみる」


水の言う通り今日は解散することになり、千賀は車で苗木を家まで送っていった。







17日、土曜日の朝――



苗木と水たちは原穂乃花の家の近くで待ち合わせをして、そこから苗木に原穂乃花の家まで案内してもらった。

「足大丈夫ですか? 」

「ゆっくりなら問題なく歩けます……ありがとうございます」

「あっ苗木さん、このマンションが原さんの家ですか? 」

「はい、この2階です……」


天音はキョロキョロ周りを見ながら2階に向かう水たちの後ろをついていった。



ピンポーン ピンポーン



…………



「いないな、留守か? 」

「出直しますか……? 」

「ちょっと待って、純、苗木さん! 」



テレビの音がするわ!!



っ!!



天音の脳裏に昨日千賀が言っていた水樹志保の呪いという単語が浮かんだ。



ドンドンドン! 原さんいますか?



「純、もしかしてこれって……」



ちょっとどいてろっ!



ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!



すぐ近くにあった消火器をドアノブに叩き、天音は強引にドアをこじ開けた。


「原さんっ! 無事か!? 」


ドアを開けて真っ先に3人の目に入ったのはベランダで倒れている原穂乃花の姿だった。周りには赤い血が飛び散っていた。


「原…先輩? 」

「苗木さん待って! 触らないほうがいいわ! 」

「とりま何も動かすな! 救急車と警察を呼んでくれ! 俺が原さんの状態を確認する……! 」


天音さん! 水さん!


天音が原さんに近づいた瞬間に突然苗木が叫んだ。


! 」

「なんだと!? 水! 」

「わかったわ! 原さんはそれだと走れないからここで動かないで待ってて! 」



天音と水は1階まで降りて辺りを確認したが既にその木の周辺にはそれらしき人はいなかった――







少しして千賀とその部下たちが到着して状況確認を行っていた。


原穂乃花はベランダで何者かに胸を刺されて死亡―

死亡推定時刻は天音たちが着く少し前くらいのことだそうだ。



「純、状況説明をしてくれ」

「俺もまだ状況が把握できていないんだ……千賀。お前が言っていた呪いってやつなのかこれも……? 」


「冷静になりなさい! 純。これは、他殺よ!しかもただの殺人じゃない」


「どういうことだ? 水ちゃん」

「私たちがここに来た時、ドアはしまっていた。そして2階のベランダから飛び降りることはできない。もし飛び降りたなら下の花壇が崩れているはずよ。そこの警察が言うにはスペアキーも含めて鍵は全部部屋で見つかってるわ」


「ってことはまさか……!! 」


天音と千賀が顔を見合して驚いた表情で大きな声で同時にそう言った。



「ええ。これはってことよ」

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