第10話 駄菓子屋探偵をなめるなよ



『駄菓子屋探偵にとってその暗号は少し難しかったですかね、ではまた』


 ツーツーツ――


(暗号の情報に何か足りないものがあるとでも? ……いやそもそも最初の検討が丸々違ってたのか)


「現物の花からの情報は得られなかった。そして学園祭や花言葉に関係する情報では答えにたどり着かなかった。この暗号メールの花だけの羅列じゃこれ以上わからないですよ」


 大神もお手上げ状態のようだ。


 そこへ音楽室に何やら学園祭のイベントでお宝探しに来た生徒たちがぞろぞろ入ってきた。



「今回の謎解きさ~意味不な単語の羅列だけで解けるわけね-よなー」

「でもこの頭文字をとったり、同じ文字を消したりしてなんとかここまで来たんじゃないか」

「まさか先週の推理ドラマでやってた解き方と同じとはなぁ~。手抜きなんじゃねーのこれ?」



…………」

「探偵さん?」


 天音はもう一度送られてきた暗号文を見返す。


(まさか、こいつは…………)


「どうやら俺たちは随分をしていたらしいな」

「わかったのですか? この暗号が」

「ああ、大神先生はこっそり警察を呼んできてくれ」

「でもそれは犯人の忠告を無視する形になるのでは?」

「事件は大詰めだから大丈夫だ。あと念のためこの番号にかけて、私服で来いと言ってくれ。信頼できるヤツだ」

「分かりました」

「俺は鍵を取ったあとすぐ爆弾を見つけに行くから、またここで解散だ。俺が合図したらそん時は、」

「了解です………………



(…………?)





 天音は暗号の答えであろう教室のドアを勢い良く開ける。


「水! 会長かわにし! 無事か!」


 その六畳ちょっとのスペースには窓際にある長机ながづくえに腰かけている水の姿があった。


「水! 自由に動けるならなんで携帯の電話に出なかったんだ? 爆弾は、会長かわにしはどうした? 」

「川西さんなら今頃放送委員会のヘルプで放送室にいるわよ」

「ど、どうゆうことだ!? 」

「取引したの、私。KARASUのメンバーと」

「はあ? な、何言ってんだ…………お前は俺のあ、」



「動くな」



 天音は背後からナイフを向けられ、その場で手を上げた。


「やっぱりあんたKARASUのメンバーだったのか、大神先生……」

「ほう、そこに気づいていたにもかかわらず最後まで私と協力してたと?」

「さっき少し違和感があったんだよ。犯人が電話を切るときとあんたが俺と別れるとき、まあまあの頻度で『』って言ってたからからな」

「何がどうあれ、もう遅い。あなたたちにこないだの廃工場での事件で組織のことをこれ以上知られたくないのですよ。あと、水さんは命を優先させて組織に入るそうです。今電話で呼んだ千賀という警察とあなたはここで死んでもらいます」


(いつかこうなるとは思ったが……だいぶ早かったな。千賀は察しがいいし、技もあるから大丈夫だな……水がじぶんを優先してくれたのがなによりだ)


「元気でな、相棒」


 シュッ!!


「探偵は水さんの言った通り最後までカッコつけたがりですね」

「だから言ったでしょ大神先生。推理はそこそこだけど根はホントにバカで幼稚なの」

「へ?」

「メールでゲームといったじゃないですか? 学園祭ですよ?」

「おもちゃの……ナイフ……?」

「ああ、これ浅川橋で落としましたよね。貰っちゃいました」

「そんときから廃工場んときまでずっと近くで探ってたのか…………ドン引きだぜ……」

「水さん、詳しく説明してあげてください」


 水は少し言いづらそうに天音に真実を伝えた。


「もう安心してと言っても無理でしょうけど、これは本当にただのゲームよ。昨日あなたが急いで帰った後に大神先生が来て取引を持ち掛けてきたのよ」

「取引?」

「1つ目は文化祭、つまり今回の暗号解読での大神先生への協力よ。引き換えに一つKARASUの情報を教える。2つ目はもし探偵がこの謎を解けたらさらにもう一つ情報を教える。というね」

「なんだ、そうだったのか……」

「メールや予め録音した電話の送信は水さんに頼み、私はあなたと暗号を解くフリをしてあなたを近くで観察していたのです」

「道理であんたのヒントでは答えが出なくて、それどころかわざと遠回りさせられてたわけだ。じゃあ花言葉のくだりは噓だったのか?」

「それは本当ですよ? だったのです。かなり苦戦していましたけど、ここへは勘で辿り着いたのですか?」



「駄菓子屋探偵をなめるなよ?」



 そう言った後に一呼吸おいて天音はスラスラと暗号を解いた流れを説明していった。


「これを解くうえでのポイントは4つだ」


「一つ、この暗号文はこの暗号文のみに依存しているということ。花言葉や学園祭に関係する情報は全くもって関係ない」


「二つ、メールでの暗号文は花の羅列のみではないということ。最後の『この四点が結ぶ中間地点に爆弾を置く。失敗した場合、まず、この二つの頭をとばす。次に、駄菓子屋探偵だっけ? 二重の意味で甘くてなめたようなやつを消す。』これも暗号の一部だ」


「三つ、その最後の「まず、この二つの頭をとばす」は「二文字の花の頭文字を消す」に、「二重の意味で甘くてなめたようなやつを消す」は「二重、重複している文字を消す」に変換できるということ」


「四つ、この学校のコンピューター部が作ったこの見にくくて間違いだらけの地図。3つ目を考慮し、繋げて出てくる「コモン」「ソウタンバコ」「シリヨウ」「キズ/クスリ」はこの地図に示す場所の名前と同じだ」




「コスモス ラン→コモン→コモンスペース

 ニチニチソウ タンポポ オオバコ→ソウタンバコ→相談箱

 ナシ キリ キキョウ→シリヨウ→資料室

 ススキ ナズナ/キク ハス ユリ→キズ/クスリ→保健室


というふうになる。で、これらを結んだちょうど中間地点はこの教室、文学部部室になるってわけだ」


 パチパチパチ


 大神はニヤリと不敵な笑みを浮かべて単調な拍手をおくった。


 天音は相変わらず怖い顔をして大神の顔をにらんでいる。


「この様子じゃあ爆弾も噓ってわけか。その情報は俺が選ばせてもらうぜ」

「1つ目は水さんに最初の取引の際に言ったので残り一つですが、まあいいでしょう」



「私が聞いたのはあなたがKARASUのメンバーかどうか。今回のゲームの目的何か、よ」

。それが私のKARASUでのコードネームです。今回は私自らの行動で、言葉だけいっちょ前で中途半端な駄菓子屋探偵あなたの実力を見たかっただけです」


「じゃあもう一つはあんたの組織に入るまでの過去と今の目的を教えてくれ。三者面談の時からずっと聞きたかったんだよ」

「水さんも探偵も質問は残り1つと言ったはずですよ。それに仮にも探偵なら組織のことを聞くのがベストでは?私のことなんて、」

「いいから話せ。組織でありながらこんなゲームを持ち掛けて、組織に嚙みつこうとしている俺を殺さなかったのはお前自身に最初からある何か信念があるんだろ?このキャンディーやるからよ」


 天音と水はそばにあった椅子に座って大神の話を聞くことにした。







「分かりました…………あれはまだ私が幼い頃……」

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