第9話 糖分不足


 大神は携帯から学校のホームページを開き、天音に手渡した。


「これ生徒が作ったのか?」

「はい、3年前にコンピューター部で作ったものだそうです」

「先生、このシリヨウってのは何だ? しかも保健室がキズ/クスリて、めちゃわかりづらくねーか?」

「ああこれおそらく打ち間違いですかね。カッコよくしたかったのか知りませんが全部カタカナで打ち間違いもあって逆に見づらいですがここは資料室ですね。それに場所の名前をかわいく言い換えたりしてるところもあるんですよ」

「なんで直さねーんだよこれ……」

「コンピューター部は人数不足で廃部になった後誰も直す人が居なくてそのままなんですよ。先生たちもあまり気にしてないようでして……」

「そうか。まあしかたないか……この校内図で場所はこまめに確認していくよ」 


 大神はその校内図をまじまじと見ている天音に学校内にある花を調べてみようと提案し、それに従うことに決めた天音は口に一杯のラムネ菓子を詰め込んで、まず文章に正直に学校内の花壇を調べていった。


(ユリ、ハス、タンポポはある……他はもうないか)


 書かれていた花は開花時期がバラバラでもちろんこの学校一ヶ所に全部あるわけもなく、どうやら暗号解読には繋がらないようだ。


「探偵さん、どうやら開花時期を無視しても、この校内で育てている花は室内の花瓶なども含めてもユリ、ハス、タンポポ、コスモスしかないです」

「そうか……ん? 待てよ、、……?」


 その大神の言葉から天音は昨日の体育祭での水の言葉を思い出した。


『あれは体育祭で1位になった色のチームが貰える花。争いで勝った者は謙虚さを忘れず美しい精神であれという想いを込めて、「調和」「謙虚」が花言葉の「コスモス」が渡されるのよ』


「そうだ! この学校は学園祭でのそれぞれのイベントの景品に花が贈られるんだ」

「なるほど。暗号の1つ目のコスモスが贈られたのは赤チーム……ということは」

「おそらくこの暗号にある花はぎょうごとに場所を示しているんだ。例えばこの1行目の コスモス ラン の場合だと、コスモスは赤チーム、ランはRUNとも言えるからリレーで最後のバトンを持ってゴールした赤チーム、3年1組。というふうにどんどん具体的な情報になっているのかもしれない!」

「では1つ目の場所はというわけですか……残り3つも何か花言葉やこの学園祭のイベントが関係してそうですね」

「そうだな」


(あと3つか……)


「とりあえず俺は出店で駄菓子売りながら情報を集める。大神先生は校内で何かヒントになりそうなことを探してくれ、ついでに水たちの捜索も頼む」

「何か分かったらメールします、ではまた」


 天音は大神と一度別れ、自分の出店に戻ってすぐに体育会系の三人組の生徒たちの接客を始めた。


「はい、味変キャンディー3つ、300円ね」

「これ何味なんですか?」

「それは秘密。で、お前ら。昨日の体育祭の優勝景品のコスモスみたいなの他に知ってるか?」

「あ~それなら男装コンテストとかっすね。去年と同じなら優勝者には「偽り」が花言葉の黄色いユリが貰えるはずですよ」

「そうか! それで今年はどのクラスが優勝したんだ?」

「たしかっすね。逆転の発想で農家のおじちゃんの格好は笑ったなぁあれは」

「そうか、ありがとよ。お礼にこの箱にある好きな駄菓子持ってっていいぞ」

「ホントっすか? あざす!」


(ユリは最後の ススキ ナズナ/キク ハス ユリ)


 天音はおそらくどんどん具体的になっていく花の中でいきなり最後のユリが分かったのはラッキーなのか、それともこの推理は間違っているのかなどと考えを深く巡らせて怪しんだが、時間もないので先に進むことにした。


(――お、大神先生からのメールだ)


『写真部が展示している作品に ニチニチソウ タンポポ オオバコの写真あり。おそらく2行目の場所はかと思われる』


 天音は先ほど分かった三年一組と一緒に写真部 部室と手帳にメモを残した。やっぱあいつ切れ者だぜ。それにこないだの意味深な発言といい、先生じゃないかもしれないな……いや、今の優先は爆弾だ。三年一組、一年二組、写真部の部室……あとは ナシ キリ キキョウの一つ。王手だ。



(ナシ。主な花言葉は「愛情」キリ。主な花言葉は「高尚」キキョウ。主な花言葉は「永遠の愛」「誠実」)


「糖分が足りねーのよぉ……もっとラムネ持ってくればよかった……」


(調べた花言葉から逆算してそれっぽいイベントでも探すしかないな――)


『なあ先生、今日のイベントで告白イベントみたいなのはないか?』

『今それについて調べてたところです』

『じゃあ一度体育館あたりで合流しよう』

『わかりました』


 それにしても凄い人だな……このへんは人が少ないようだが。

 天音は体育館の裏で腰を下ろした。


「私と付き合ってください!」


「!?」


(ビックリしたぜ、学園祭での告白かぁ……青春だね~)


「先輩に、これ……」


(ん? あれは……)


 天音は携帯でバレないように写真で拡大して、後輩と思わしき生徒が渡したものを撮った。


(花だ! 飴玉らしきものが入っている瓶にキキョウらしき花のシールが貼ってあ!)


「一目惚れです。付き合ってください」

「おいおい、俺がいくらイケメンだからってそれは急すぎやしないk」

「って! 大神先生かよ! なんだその女の子ボイスは」

「昔からの特技でしてね、声変えるの。あなたが女子生徒を盗撮して周りが見えてなかった様なのでからかっただけですよ」

「盗撮じゃないわバカタレ!」


「それはそうと1つわかったことがあるぜ」


 大神は天音の声を真似て言った。


「マネするな!」

「じゃあ先にどうぞ」


「おそらく最後の場所は告白スポットのだ。今の告白を見ちまってな、渡した瓶にキキョウが貼ってあったんだ」

「学園祭で告白する際に男からの告白ではキリを、女からの告白ではキキョウをお菓子と一緒に渡すと、さらには、告白に合意した場合は後日、「高尚こうしょう」すなわち気高く立派という意味の花言葉のキリを渡すそうです」

「美咲町は花の町だが、高校でもこんなに浸透してるとは流石だな。まあこれで暗号解読は終わりだ」

「3年1組、1年2組、写真部の部室、体育館裏の4ヶ所ですか」

「ここを結んだ真ん中にあるのは、だ!」


 はぁ……はぁ……


 階段を急いで駆け上がると同時に心臓鼓動が高まる。


 本当に音楽室に――爆弾が……水や会長ももしかしたらそこに……



 ガラガラガラ――


「!?」

 

「あのピアノの上の袋!! 爆弾だ!!」


 天音はそっとその怪しげな茶色い袋を覗き込む。


「なん……だと!?」


「ではこれまでのは」

「ああ、推理でもなんでもねぇ間違えだらけの時間だったってわけだ……」

「犯人は私たちだけが分かるような学園祭、学校に関わる花の情報でこの暗号を作ってはいないのかもしれませんね」

「もう一度暗号を……」


 天音が再度暗号を見ようとメールを開いた瞬間に例の犯人からの電話がかかってきた。

 


『そろそろ1時間ですが爆弾は見つかりましたか?』

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