第8話 学園祭に迷い込むミステリー


 美咲高校が毎年開催する学園祭は一日目に体育祭、ニ日目に文化祭のニパートに分けて行われる。一年生から三年生までクラスが全部で四クラスあり、同学年ニクラスずつがランダムに組み合わさり、赤、青、白、黄の対抗戦という形を取っている。


「で、なんであんたが1日目の体育祭に来てるの?」

「こないだの依頼人の生徒会長さんがお礼として文化祭で生徒会の名を使って店を出していいよってな」

「それは明日でしょ?」

「まあまあいいじゃないの~。この前の事件もあってやっとのことで開催されたんだからさ」


 最初の大縄跳びの競技が終わり、今は障害物競走に参加する生徒たちが会場の準備を待っている。天音は大神がいないか探したが見つからなかった。学園祭は生徒会中心の運営で先生の出番はないため今日は来ないかもしれないと水は言っていた。


「水は何の競技に出るんだ?」

「借り物競争……」

「あっ(察し)」

「うるさい!」


 ドスッ


 ひじが天音の横腹にきれいに入った。


「う゛っ……まだ、ナンモ言ってねーだろ、、!」

「あ、そろそろ私の番だ」

「お゛う゛、ガンバレヨ」


 借り物競争は文房具などの小物がお題の場合もあるが、「イケメンな人」のようにお題が人の場合もある。


(それだけは避けたい……)


 借り物競争の始まりの合図が鳴ると同時に選手たちは一斉にお題が入ってる箱に手を入れる。


(頼む!)


 しばらくして水が天音の方に走ってきた。


「お題……ちょっと来て!」

「お、おれか!?」


 2番目にゴールし、水の借り物競争の挑戦はすんなりと幕を閉じた。


「なあ、何のお題だったんだ?」

「はい、これ。お題の紙」


 水が差し出したその紙には「バカな人」と書かれていた。


おおバカタレが!水! 探偵はバカと一番かけ離れた存在だぞ!」



 そんなこんなで体育祭は閉会式を迎えて、学園祭一日目が終了した。


「水の白チームは総合2位か。1位の赤チームが貰ってた花はなんだ?」

「あれは体育祭で1位になった色のチームが貰える花。争いで勝った者は謙虚さを忘れず美しい精神であれという想いを込めて、「調和」「謙虚」が花言葉の「」が渡されるのよ」

「へー。いい伝統だな」

「順位を決めるイベントの後は誰かのせいにしたり、負けた者を煽ったりと嫌な雰囲気になるのが私はイヤだったけど美咲高校のような美しい終わり方は好きだわ」

「よし! 明日はとびっきりの駄菓子を販売するか。あ、そうだ! 花言葉みたいに駄菓子にも駄菓子言葉をつけるのはどうだろうか?」

「お金儲けのための目新しさ?」

「そう! お金儲k……バカタレが!」


 天音は明日の出店で何の駄菓子を並べるかを考えるため急いで帰った。



 ◇



 文化祭はクラスでお化け屋敷や占い、クイズ、食べ物屋などの出し物や、家庭部や美術部、華道部など部活動の出し物を披露し、美咲町の人全体を巻き込んで行う大イベントだ。天音も生徒会の出店として駄菓子屋を出すため、朝早くに美咲高校で準備をする予定だったのだが……。


「早く行かないと間に合わないわよ純」

「ちと待て。今録画した先週の推理ドラマの暗号を解いてるところなんだ」


 天音はそのドラマの暗号文をメモした手帳を握りしめてドラマの主人公よりも早く解こうと競争していた。


『犯人は岩田由美いわたゆみさん、あなたです!』


「ぐああー負けた~!」


 天音は悔しそうに画面に近寄り暗号文の説明を聞こうと音量を上げていた。水はいつものようにため息をつき、先に学校へ行くことにした。


「なにぃ!? 単語の頭文字を取って並べる? 同じ文字を消す? ほうほう……どうやら深読みしすぎたようだぜ……」


 天音はドラマの暗号文を解くために使ったと思われる鳥類図鑑や世界の名画などを本棚に片付けて、学校に行く支度をようやく始めた。





文化祭開催時刻数分前――


共通談話室コモンスペースってとこで大体の場所は頭に入った。あとは開催時間を待つだけだな」


「どうも水さんの保護者さんの探偵さん、これはまたカラフルな飴ですね」

「大神先生! ずっと探してたんだぞ!」


 開催時刻と同時に校内はライブ会場のように大勢の人が押し寄せて盛り上げを見せていた。

 もちろん、駄菓子を手に取ってもらうのがメインだが、天音はこないだの件で大神から話を聞きだすことも目的の一つであった。


 ブーッブブッ――


「大神先生! 少しの間そこで待っててくれ」

「ええ、いいですとも」


(電話? 誰だ……見たことない番号だ)


『校内にを設置した』

『!?』

『だ、誰だ? ボイスチェンジャーまで使って、いたずら電話ならお断りだぜ』


 急にそのような発言をした者はボイスチェンジャーを使っていたため年齢はもちろん男か女かも分からなかった。楽しい光景が広がる中、天音は口調こそ強気なものの噓かホントかわからないこの電話にひどく動揺していた。


『まずは本当だと信じてもらうためにこの写真を送る』


 ダイレクトメールで送られてきた写真には狭い部屋で倒れこんでいる潤羽水と川西響せいとかいちょうが映っていた。場所は学校内かどうかもこの写真じゃ判断できない。


『くそ! 人質ってことか』


「大神先生!」

「わかりました!」



『もちろん警察や学校関係者への通報はNOだ』

『要件はなんだ、、なぜ俺を狙う?』

『爆弾のありかのヒントを出しましょう』


 そう言った後にまたメールでヒントらしきものが送られてきた。



『 コスモス ラン

  ニチニチソウ タンポポ オオバコ

  ナシ キリ キキョウ

  ススキ ナズナ/キク ハス ユリ


 四点が結ぶ中間地点に爆弾を置く。失敗した場合、まず二つの頭をとばす。

 次に駄菓子屋探偵だっけ? 二重の意味で甘くてなめたようなやつを消す。  』



「私にもそれを転送してください」

「おう……」


(なんだこの暗号みたいなもんは……花の名前?)


『タイムリミットは学園祭終了まで。それまでは人質に危害は加えないし、爆弾も爆発させないことを約束しよう。………………ではまた』


 そう言ってその電話は一方的に切れた。


(犯人は全くわからない。人質に爆弾。警察や学校関係者の助けは借りれない。相棒も頼れない。頼れるのは今ここにいるあやしいこの男、大神先生のみ……)


ツーツー、ツーツー


「ダメだ……水たちとマジで連絡が取れない…………」

「絶体絶命というやつですか?」

「やけに冷静だな、、今あんたが犯人じゃないか疑ってるところだよ」

「そりゃあ冷静ですよ。なんせここには町を守る探偵がいるのですから。ねぇ?探偵さん」

「ちっ、犯人だと疑われたくなければひとまず俺に協力しろ……」

「珍しくお怒りですね。探偵とはもっとクールなものかと思ってましたよ」

「人のイライラを膨らませるのが上手なこって、、こんな絶体絶命な状況、冷静さも失うぜ……いい機会だ、あんたに俺の探偵道を教えてやる。昼までに全部終わらせてやるよ……!」

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