ニ章:学園祭の暗号

第7話 ミステリアスな男


 私、潤羽水うるはすい美咲みさき高校に通う学生兼探偵だ。この白い髪は生まれつきのものだが遺伝ではない。この髪のせいで対人関係がうまくいかないことはこれまでほとんどなかった。様々な種類の綺麗な花や草木に溢れかえる美咲町に似て、住む人もまた色んな癖のある個性を持っているが互いを理解し合って共存、協力している。そんな美咲町が私も好きだ。最近相棒とやらになったちょっと変わった駄菓子屋探偵、天音純あまねじゅんと一緒に。


「今週末の学園祭の前に私のクラスは三者面談をしたいと思います」

「ええ~~」

「急な日程で申し訳ないのですが親に連絡しておいてくださいね。自分のクラスを持つのは初めてなのでみなさんよろしくお願いします」


 新任と聞いたときは大学を卒業したくらいの年齢だと思ったが実際は先生になる前に何やら他の仕事をしていたらしく20代後半と言っていた。身長が高く運動神経がよさそうな体格とは裏腹に担当科目は数学。口数が少なくて目が細いキツネ顔のイケメンで女子からはミステリアスでクールイケメンともてはやされていた。水はそんな彼を逆に少し不気味に思っていた。



(親……か……)



 水が天音と探偵を始めたのは連絡が取れなくなった自分の親を探すためである。連絡が取れなくなった後、家にあった置手紙おきてがみに『仕事のため当分の間は帰れない』とあったため警察には相談していない。たとえ相談してもこの手紙の内容では協力してはくれなさそうだと判断した。けど心配だから探すことに決めたのだ。純の「町の事件を解決していけばいつかきっとたどり着くさ」という言葉を信じて……。



 取り敢えず目の前の難題の三者面談――。



 …………親をどうしようか




 ◇




 そして三者面談当日――


「潤羽さんのお父さんですね? 担任の大神黒斗おおがみくろとです。本日はよろしくお願いします」

「いえ、俺はお父さんではなく駄菓子屋探偵の天音純です」


 天音は黒いスーツに目立つ赤いネクタイを身につけて『駄菓子屋探偵 天音純』と金色の文字で書かれた名刺を大神に差し出した。


「へえ…………探偵。そう……ですか」

 

 困惑したような何か思うことがあるようなそんな雰囲気だった。


(はあ……ほんっとバカなんだから……)


 水は天音の足を踏んづけて、黙って言われた通りに親のフリをしろと言わんばかりの表情を向けた後に慌てて先生に事情を説明した。


「なるほど。じゃあ本当の親御さんは今遠くでお仕事をしてるため今回は代理人のあなたが来たということですね」

「はい、そうです先生」


 大神は水の成績や学校生活、家での様子など三者面談で話すような内容を話した後、最初にちらっとだけ話に出した探偵業について興味を持ったのか天音と話し出した。



 …………………………



「探偵、いや駄菓子屋探偵ってのは美咲町を笑顔にするのが主な仕事なんだ。最近は探偵業に力が入って駄菓子屋の方は大赤字なんだけどな」

「なら、駄菓子屋に専念すればいいんじゃないですか?」

「っはっはは! そんな真面目にありえない冗談を言うなんて面白いな先生! 年も近そうだし今度は店で話そうぜ」

「そうですか…………」

「町の笑顔が見られれば俺はそれで満足さ」

「…………それで、さっきから言ってるその笑顔の対象に《はまだごろう》とやらも入っているのですか?」


 大神は珍しく細い目をでかでかと開けていつもよりトーンを落とした低い声で天音にそう言った。


「誰のことだ? あんたの知り合いか?」

「探偵というのは終わったことはすぐに忘れてしまうのですね」

「………………ん?」

「ではこれで三者面談は以上としましょうかね」

「お、大神先生はこの町の人全員を覚えているのですか?」

「そういう話ではないのですよ水さん。知らなくてもいい、いや知りたくもない世界というのは意外と身近にあるものです。社会に出ればいずれわかりますよ」

「?」


 三者面談が終わった後天音は水に浜田吾郎とは誰のことかを聞いたが水も分からなかった。

 天音が作った和やかな空気が一気に凍り付いた。



(こういうときは……)



『もしもし、千賀せんがか? ちょっと聞きたいことg』

『ちょうどいいタイミングだ純!』

『な、なんだよ。俺に急ぎの依頼か?』

『浜田吾郎が殺されたんだ! おそらくの情報漏洩阻止のためだろう。あいつにはまだ聞き出したいことが山ほどあるっていうのによ……。』

『は、浜田吾郎!? 組織!? なんでお前がそんな』

『言ってなかったか? こないだの事件だよ。八百屋の上居さんを利用した奴らの話だ。俺が廃工場で頬を刺されただろ? 浜田吾郎ってのはそのナイフの男の名だ』

『なん……だとっ、じゃあなんであいつがそいつのことを、こないだの事件のことを知っているんだ』

『いっ、いきなり何の話だ?』

『千賀。また、後でかける。一旦切る』

『おい! ちょ、待t』


 ポロロンッ


「水、あの先生はどこにいるんだ?」

「あ、あの車……」


 水は窓から駐車場にある車を指差した。その白のオープンカーから大神がこちらを見上げている。ニヤリと不気味な顔で天音に向けて手をあげた。


「おい! あんたちょっと待てっ、まだ聞きたいことがあるんだ!」

「探偵さん、依頼内容は慎重に選んでくださいね、」


 そう言って大神は学校から出ていってしまった。





「さもないと死にますよ。

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