第6話 動き出す影
「わりぃな俺らと上居さんでちょっとだけ席外すわ」
天音と水、上居は川西と牧野から見えないところに移動し、電話で呼び出した千賀の到着を待っていた。
「純、ここが……」
「ああ、昨日話したこれから起こる事件がどうやら的中したらしい」
天音は上居からこれから起こる事件の詳細を聞き出してすぐに信頼できる千賀を廃工場に呼び出した。
「えっと、上居さんで間違いないですね? ここで違法薬物の取引が行われているのは本当ですか?」
「……はい。この廃工場に人を入れるなとしか僕は聞かされてなかったのですが、報酬を貰って帰る時にたまたま耳にしたんです……」
「その取引はいつ行われているんですか?」
「僕がここに通さないように言われていた時間は……」
上居はその取引の時間が金曜日、土曜日、日曜日の十八時時半から十九時半ということを話してくれた。今日は日曜日。時間は十八時二十分……。そろそろか――。
水……この場から川西とマッキーと一緒に離れてなるべく人の多いところに行け。いいな?
わかったわ――
「頼んだぜ相棒」
「気をつけて」
◇
「千賀、お前1人か?」
「警察はこれから起こる事件は対象外。それじゃあ何もかも遅いってのにな……」
「……そうか」
「いやあすまねぇ、だが必ず俺が捕まえる」
天音は現在の状況を考慮して次の作戦を立てた。
一、上居さんがターゲットに接触する。ま、そうだな、『探偵とやらがこの廃工場を嗅ぎまわってる』みたいな会話で時間を稼いでくれ。
ニ、俺がわざとでかい音を出してターゲットを車から離す。
三、その隙に上居さんはそこから逃げて、千賀は証拠品を確保、ターゲットを拘束。
以上だ。
「ターゲットを拘束。が一番難しいじゃねーかバカタレ!」
「へへ、高校の頃に柔道選手権大会で入賞した警察さんがいるからこその作戦だ。」
「もし、上居さんになんかあったらまずお前を捕まえるからな」
「上居さん……大丈夫か?」
「ありがとう……こんな僕でも最後くらいはこの町を守ることに協力できるなんてね」
来た――! 昨日見た黒のワゴン車! 作戦開始だ!
言われた通り、上居は黒のワゴン車から降りてきた三人に近づいた。
「なんだぁ? 持ち場を離れるなと言ったよなぁ。それと何故道を塞ぐ方法に変質者から交通整備のフリに切り替えた? もし疑われたらどーする? 変質者で通すのが辛くなったのか?」
「すみません……。知り合いだったもので……。それと今報告したいことがありまして」
「なんだ、言ってみろ」
「……この廃工場を探ってる探偵がいるらしいです」
「バレたのか?」
「いや、噂程度ですが、一応報告しておこうかなと思い……」
緊張が走る――。ここでもし言葉を間違えたら自分が殺されるのではないかという恐怖が頭を巡る。中でも上居と話した背の高い黒いコートに身を包んでいる男は幾度とない修羅場をこえてきたようなオーラを出していて、冷めきった鋭い目をしている。
ガシャン!!
何か瓶を地面に叩きつけて割った音が響き渡る。作戦二の合図だ――。
「誰だぁ!! ……おい、ボーっとしてねーで探すぞ、、」
(作戦3か……上居さん早く逃げてください、今のうちに証拠を……。純……見つかるなよ)
瓶が割れた音がした反対側に隠れていた千賀はこっそりとワゴン車に入り、証拠を探した。
(こ、この瓶……。この中に……あった! 間違いねぇ、純! あとは任せろ)
「見つかりませんでしたねぇ、野良犬だったんですかね」
「そんなわけねぇだろ、そろそろここもダメになるな」
「っ!!誰だぁ車の後ろに隠れてるのはっ!」
「警察だ。この違法薬物所持および売買の容疑でお前たちを逮捕する」
「サツか、それを返してもらう」
「やっぱこれが違法薬物か」
「カマかけたなこの野郎!」
一人が千賀に殴りかかる。
オラァッ!!
千賀は一人目に殴りかかってきた者よけると同時に背中に肘を入れて地面に叩きつける。
グアアァッ……
続いてきたもう一人のパンチをかわし、足を払って転ばして頭に足を振り下ろす。
ゴッッ
あと一人――。
「若いのになかなかやるじゃないか、」
シャッ――
黒いコートの男はナイフを取り出し、千賀に近づいていく――。
ナイフを千賀の顔を裂くように振り下ろす。
(うっ……)
「よくかわす」
「バカタレ……当たってるよ……」
千賀の頬をナイフがかすり、血が垂れる。
「次は当てる」
男は千賀の肩にナイフを刺そうとした瞬間――
ポケットから取り出した赤い球を顔にぶつけて破裂させた。
「目がっ!! なんだこれは……!! 目が痛い、燃えるようだっ」
「探偵に渡された水風船のタバスコ版みたいなもんだ……」
終わりだっ!!
千賀は男を背負い投げし、抑え込んだ。
『純……作戦成功だ。お手柄だったな』
『さっすがだぜ、今警察を呼んでそっちに行く。怪我はないか?』
『かすり傷だよ……』
◇
その後天音が通報したおかげで警察がすぐに現場に駆けつけた。
「やっぱ拳銃使わなかったなお前。あれ渡しといてよかったぜまったく」
「……誰も怪我せず事件が解決すればそれでいいんだ俺は」
「バカタレが。お前が怪我してどうすんだよ」
「……へへ、あと上居さんの件は俺に任せてくれ、」
「……ああ」
◇
その日の夜――。天音が駄菓子屋に帰ると水たちが心配そうに迎えてくれた。
「天音さん!あれから急に解散なんて言った後天音さん帰ってこなくて心配したんですよ?」
「上居さんは……どうなったんですか?」
「純! ……誰も怪我はないでしょうね?」
「川西の依頼は解決したぜ。予期せぬ大事件に繋がってたがな……。千賀は頬に傷を負ったが重症じゃない、全員無事だ。上居さんも……救われたさ、この事件から……」
その場のみんなが一斉に安堵の声をあげた。川西と牧野は深く事件のことを聞かなかった。だいたい察してわかってることを精神的にも肉体的にも疲れているであろう天音に一からまた話させるのは大変だと思ったのだろう。今日はこれで正真正銘の解散。話したいことはそれぞれあるだろうが家に帰ることにした。
◇
後日――。
『それで千賀、上居さんは?』
『安心しろ、重い刑にはならん。むしろ上居さんは被害者だ』
『そうか……、よかった~~』
『事件のことだが、捜索でわかったことがあってな。あの3人はある組織の者たちのようだ』
『何だと!? 下っ端だってことか?その犯罪組織の』
『まだ詳しくはわからない……分かったのは組織の名前と活動範囲だ』
『……教えてくれ』
『これに首を突っ込むのはやめとけ。もう日常のゆるい駄菓子屋探偵なんてできない、水ちゃんや町のみんなを危険に晒しちまうぞ。突き止めたいなら俺のところに来い、この件は俺に任されたからな。今よりも動きやすくなるし、俺も助かる』
『駄菓子屋探偵はこの町から危険を無くすためだけじゃない、町のみんなと寄り添って、一緒に笑って、みんなで協力して町を笑顔にする。警察じゃあできない、駄菓子屋探偵。これだけはずっと変わらない俺の信念だ』
『そう言うと思ったよ。じゃあその情報をお前にも伝えておく』
組織の名前はカラス、何かの意味があるのか知らねーが、奴らが確かにそう言ったんだ。どこかの会社に擬態しているのか、人数や財力などの規模はまるっきりの闇に隠されている。そして分かっている活動場所は隣町の花見町と俺たちが住む、この美咲町だ――。
『水ちゃんにも話すのか?』
『水は俺の相棒だ。隠し事はしたくない。それに水の親は何故か連絡がつかない状態なんだ』
『そういえばそうだったな。そのために確かおまえのとこで探偵の助手をやってるんだっけか。まさかっ!』
『可能性の話だ……。』
『お前が可能性の話とは珍しいな。ある程度の根拠のない話はしないんじゃなかったのか?』
『今回の事件で思ったんだ……。可能性の話もしないとみんなが危険になる。変にカッコつけて可能性の話をしなかったせいで事件に巻き込むようじゃあド二流ってことだ。次からはお前みたいに泥臭くいくのも悪くないってな』
『誰が泥臭いだバカタレが』
「可能性の話をしてでも私の親を探して私を笑顔にしたいってことかしら?」
「い、いつからそこにっ」
「もちろん最初から」
「ですよね~。あれ、新しく置いといたきな粉棒の箱は!?」
「…………食べた」
『おい千賀! そういえば今回の事件の報酬! 事件解決のために使った駄菓子や水に持ってかれた分、その他諸々! ちゃんと払ってもらうぞ!』
『お前絶対腹いせにだろ! それに報酬は貰わねーっていつも言ってるじゃねーかよ!』
『今回だけ頼むーーーー!!』
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