第4話 わさびのり
「よし、今日も調査に行くぞ!」
「変質者が現れるのって毎週金曜日の夜じゃなかった?」
「川西が言ってた変質者の目撃情報、あれはおそらく学校内での情報だけだ。つまり土日の情報はゼロってこと」
「でもそれはおかしいわ!」
「変質者は学校帰りの女子生徒を狙ってる。だから女子生徒が現れない土日は関係ないって言いたいんだろ?」
「じゃあなんで!」
「昨日の変質者の言動に気になることがあってね……何より次の金曜日まで聞き込み以外やることないしね!」
「はあ……」
「じゃあ水、昨日と同じ時間の今! 美咲宅急便センターの周辺と美咲公園の調査だ!」
天音はいつものように黒スーツに着替えて水を急いで準備させて駄菓子屋を勢い良く飛び出した。
天音は直感や根拠がもてないものを口にしたくないと前に水に話したことがある。水は知りたがり屋なところがあり、出会ってすぐの頃はよく天音を問いただしていた。どうせ今回もそんな感じなんだろうと水は心の中で思っていた。
しばらく歩いて天音たちは宅急便センターが見えるところまでやって来た。
そこで天音と水はある人物に遭遇した。
「あ!
「おお、天音ちゃんと潤羽ちゃんじゃないか。あぁコレ、つい癖でね。この青い帽子と青い手袋……目立つんだけど妻が色を選んでくれたプレゼントでね……亡くなった日からずっとこれで力を貰ってるんだよ」
天音たちは宅急便センター近くの道で交通整備をしている上居さんに会った。
「こんな時間にバイト始めたんですか?」
「最近、うちも儲からなくてね……」
上居さんはこの辺りの美咲商店街で八百屋さんをやっており、昔に天音が行方不明になった上居さんのペットのワンちゃんを探し当てたことがある。それから上居さんはよく天音と会うと決まって野菜やら果物やらをくれる義理堅い人だ。確かに商店街は閉まっている店が多くて活気が以前よりもなくなっている。
「今度また鍋の具でも買いに行きますよ。ところでこの道って今は通れないんですか?」
「ごめんね天音ちゃん。奥の道から遠回りしてもらうしかないんだ。美咲公園に散歩でもしにいくのかい?」
「まあな、水がどうしても行きたいって言ってきてよ、最近じゃあこいつの保護者みたいなもんなのよ」
「ご飯を毎日作ってるのは誰かぁなっ!」
水は真実を捻じ曲げて話す天音に苛立って足を強く踏んだ。
「いたいいたいっ、足で踏むな……もういつもの冗談だって……」
「あははっ、前会った時よりも仲良くなっててほんとに兄妹みたいだね」
「やめてくださいよ、上居さん……」
「なんだ水、照れてるのか?」
「は?」
「あ、なんでもないです。上居さんこれ差し入れです、安いけど嚙めば嚙むほど味が出るわさびのりです。アルバイト頑張ってください」
そんなやりとりを終えて天音たちは上居さんと別れた後、美咲宅急便センターで聞き込みをすることにした。
聞き込みは探偵の常識中の常識。普通の探偵なら大得意分野だ。
「へー青い帽子ね~。同一人物ってことか……そういえばこの会社の社員みんな青い帽子を被ってるな?」
「や、やめてくださいよ、これはユニフォームですからね!」
「出没場所はここと浅川橋と美咲公園だ」
「分かりました……今日は探偵っぽいことしてるんですね天音さん」
「いつもしてるだろバカタレが!」
「あんた意外と顔が広いのね」
少し見直したような驚いた表情を見せる水。
「まあな、この人は情報屋のマッキーこと
「よろしくお嬢ちゃん、髪の毛綺麗だね」
水は髪を触りながら顔を隠した。
「ありがとうございます……潤羽水です……」
「で、最近気になることとかなんかあるか?」
「う~ん。事件と関係ないかもしれないですけど、美咲商店街辺りの活気なくなってますよね最近。すっかり人もいなくなって仕事が暇になっちゃいますよ……」
「そうだな……何が原因なのかね~」
「知らないんですか?あの商店街と美咲公園の間にある工場。あそこが人身事故で閉鎖してから幽霊が出るだの、近づくと呪われるだの、変な噂が出てるんですよ」
「そうだったのか……。青い帽子……商店街と美咲公園の間に位置する廃工場……変な噂……」
「じゃあ俺仕事に戻りますね」
「ありがとなマッキー、これ情報代」
そう言って上居さんに渡したのと同じわさびのりを渡して天音たちは宅急便センターをあとにした。そしてすぐさま天音はこんなことを言い出した――。
「なあ水。肝試しは好きか?」
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