5 アプローチ開始

「先行する観測機が交戦後、連絡途絶」


通信使の報告が入った。


「作戦継続しますか?」


同乗する作戦指揮官に作戦継続について機長が聞く。今日の作戦は”特別”なのだ。普段、乗ることの無いお客さんを三名余計に乗せている。作戦指揮官、兵装手、放射線測定手。


機長は、およそ20日前に同じコースを飛び、同様の爆弾を投下し、投下後に急旋回離脱の変わった爆撃をしていた。当時は、日本の各主要都市の上空で同じような爆弾の投下をしていたのだが、それは、ある”本番”に向けての訓練であった。B29搭乗員でも限られた者、限られた機体の搭乗員だけが繰り返し行っていた爆撃だった。


それは5t爆弾を一発だけ抱えて飛び、目標に爆弾を投下、急旋回離脱、これの繰り返しだった。しかし、7月ごろのその当時は、その爆弾をわざわざ一発だけ落としに行く重要性が分からずに随分と、クルーの間でも必要性、重要性に議論がなされていた作戦であったが、それは、今になれば全てが理解できたのだ。


そして、今日、その”本番”はやって来た。

先行する観測機は第一目標の天候に問題なしと告げた10分後に消息を絶った。


「どうしますか?」


機長が再び、逡巡する作戦指揮官に答えを求めた。


「予定変更なし。第一目標を爆撃する」


「了解、アプローチ開始」


第一目標、首都東京、皇居上空。

史上三発目の原子爆弾の投下任務である。


7月下旬に同じアプローチコースから5t爆弾を投下するもわずかに逸れて、東京駅の至近に着弾した。その時の失敗がふと頭をよぎる機長だった。

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