4 過去

「中佐、ご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」


基地の食堂で、一人虚空を見ながら、夕食を取っていた私の周りに3人程がやってきてキラキラした目で私の答えを待っている。


「どうぞ」


愛想笑いをして答えた。


「光栄です。失礼いたします」


若い子達が私の孤独な食卓に彩を添えてくれたとでも考えればいいのだろう。私は、この男所帯の軍隊の中で何処に行ってもチヤホヤされる。それは、まず、珍しい、女と言いう事と、お人形さんの様に整った容姿のせいだと心得ている。


しかし、私は、自分の外見が嫌いだ。いや、大嫌いだ。栗色のつやつやのウエーブヘアも白い肌の色も薄茶色の瞳もすらっと長い手足も大嫌いだ。


だって、父に似ているから。


私と、母を捨てて私たちを苦しめ続ける父にそっくりだから。

だから……私は自分が嫌いで、自分の生きる証として、父の国の飛行機を父が設計している爆撃機を落とすことで、私は日本人としての……居場所を得る様な気になる……なっている。


父は飛行機のエンジニアで技術指導の為に日本に来ていた。その時、知り合った母と結婚して、私が生まれた。でも、幸せな時は続かなく、時代がそれを許さなかった。父は早々に日本から引き揚げ、私達親子を捨て去った。まるで犬猫でも捨てるように。


私は子供だったけれど、その時の事を覚えている。私は父さんが大好きだった。そんな父さんが私を捨てた。母さんを捨てた。絶望しかなった事を覚えている。残された私は外見から差別を受け、母はアメリカ人のめかけと罵られた。


そんなだから、私は、父の作った飛行機を壊して回る。父が作った飛行機を娘が壊す。父が愛してやまない飛行機を娘の私が捨てた日本の飛行機で壊す。


よくある家庭の光景だろう。娘の可愛い反抗期だとでも思って貰えればいい。


そして、私は、敵国の奴らを苦しめる事で日本人になるのだ。外見ごときで差別されるようなことのない、誰にも文句を言わせない、立派な日本人になれるのだ。


「中佐、久しぶりの日本は如何ですか?」


「え?」


一人、遠くの世界にいた私を基地の食堂の長テーブルに引き戻す声がした。


「あ、ああ、日本ね。随分とやられたわね。もう、時間の問題かしら」


外に、日本の外にいると中にいてはわからない事が見えてくる。圧倒的な物量を相手に何とか出来たのは3年も前の事で、もはや、海も、空も自分の思う様にならない現状を知れば、おのずと答えなど決まっているのだが、この子達にはもう少し、違う言い方が有ったかと曇る表情を見た後に、言った後に、後悔した。


「え~と、久しぶりの日本のご飯は美味しいわね」


笑顔で取り繕ってみたものの。


もう遅いか……


私が配属された航空隊は、帝都防空秘匿部隊と言って、帝都の空を専門に防衛するためだけに創られた秘匿部隊。その存在を敵に知られない様に、筑波山の山裾から山体に向けてトンネルを掘り、その中に滑走路から、指令所から一切合切、山の腹の中にあって出口は太平洋の方角、東側に向いている。構成するメンバーも曲者が多くて、色々と大変だけれど、腕は確かなようで安心した感じね。


宿舎に戻る途中、整備兵の男の子が、

え~と。何だっけ名前……

私の機体を整備していたので、


「ありがとう、よろしくね」


「は、はい、中佐殿」


あ~、この子も私にイカれたクチかと、表情でわかった。自分で言っていても、自分自身を頭のおかしい奴の様に感じながら、周囲を見渡すと、見慣れないものが……


「ねぇ、あれなに?」


私が壁の横に置いてあった、それを指さした。


「あ、あれは、ちょっと……」


目を伏せて、何か隠すような僕ちゃんを見て、私は、


「あれ、私の子に付けてくれない? ね? お・ね・が・い」


少し、お姉さんの色香を匂わせて、整備の子におねだりしてみた。男所帯の軍隊で、生きていくうちに身に着けた僕ちゃん達を落とす方法だ。

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