後の祭りのそれぞれに 1話

マリア視点




 いつもよりも1時間遅く目が覚めてベッドの中で少しの間ボーっとする。今日は午前中の予定は全部午後に回してもらっているから、もう少し横になっていても問題は無い。午後の予定は地獄だけど。



 なんとなく手のひらを見つめると、そこにはいつも可愛い私のおててが見えるだけで、特に何かが幻視されるわけではない。



 こういう時って、一瞬手が血まみれに見えるってシチュエーションが鉄板だと思うんだけどな、と思うくらいには私の心には余裕があるみたいね。






 あの後、子爵様が兵を引き連れてきた際に色々と問題があったけど、「大体エイリークのせい」で乗り切る事に成功した。



 何が起きたのかは緘口令を敷いていた所で、こちらの兵を通じて子爵家にいずれ情報が洩れるとは思う。でも、この際贅沢は言えないわね。この手で人を殺したのは今日が初めてだったし、動揺していたのは間違いない。



 降伏した兵士をローズがストレージに収納していた時は何も頭に浮かばなかったけど、子爵家の兵が屋敷に駆け付けた時点で当然の問題点に気が付いた。ローズもヤバイって顔をして子爵様の相手をしていたわね。





 庭には戦闘の痕跡は残っているし、私たちは兵共々殺気立っている。重傷者はストレージ内に収容しているから、目に付く事は無いけれど軽傷者はあちらこちらで治療を受けているし、その者たちは完全武装。戦闘があったのは一目瞭然よね。



 ならば、その相手は何処に行った?レイモンドは何処に行った?という疑問が浮かぶのは当然。レイモンドたちが撤退したとしても街中で殺気立った200人単位の兵が動けば彼らが気が付かないわけがない。



 その地の統治者として主筋の人間がどうなったのかくらいは把握しておかなくては、主であるノーマン公爵に報告のしようもないでしょうし。





 事ここまで至ってしまったからにはお忍びがどうとかいう状況じゃないのはやむを得ない事だから、子爵様の相手はローズ自身がする事になった。



 深く詮索しないように牽制するローズに、他の有象無象は兎も角レイモンドがどうなったのかについては子爵様も有耶無耶にするわけにはいかないようで、最後までしつこく粘っていたわね。




 レイモンドを子爵様に引き渡すのは私も反対だけど、この時点でレイモンドが生死不明でいなくなる事がローズや私たちの今後にどう影響していくのか、ちょっと考えれば色々と面倒な事になりそうなのは間違いないわね。




 どっちがマシか、って考えれば当人が暴走して結果生死不明の行方不明。短期的には姿を消したほかの兵士たちの事もあって、面倒ごとが山ほど増えるかもしれないけど、何せ今後問題を起こす中心核がいなくなるのだから、長期的にはこの方がいいのかもしれないわね。




 レイモンドに対しては自業自得の4文字熟語以上の感想は出ないし、これはある程度事情を把握している人たちも同じように考えるだろうから。




 巻き込まれた現地徴用の兵士たちは基本、流れ者だしその辺はどうでも良いと言ったら可哀そうな話だけど諦めてもらうしかないわね。ただ、公爵家に仕えていた兵やレイモンドの側近たちはその家族が騒ぎそうよね。



 後をひく問題と言ったらレイモンドの件を除けばそのあたりかしら。根本的な問題はもっと別の所にあるわよね。




 エリスは国内のエイリークや私達に恨みを持つ者たちの存在を指摘していた。細々とした部分までは把握しきれないけど、この時点で私達を明確に敵とみなしている人たちは何もレイモンドだけじゃない。




 今回レイモンドが暴走して自滅したけど、他にも同じようなやつらが複数いる可能性は高いわよね。




 レイモンド以外だと、まずは王太子を殺されたわけだから、王家は当然敵対関係になっても可笑しくない。ただ、これはエイリークに人質としてエリスを差し出して彼と敵対することを避け利用する道を選んだ王、そして兄が亡くなった事で王太子になれた第2王子。この二人が反エイリーク閥に参加しているとは考えにくい。



 王様になりたがっていたもんね、第2王子。





 そうすると考えられるのはアルベルトの母親。王妃とその実家辺りが本命かな。あれ?王妃の実家って確かノーマン公爵家に結構血が近い親戚筋じゃなかったかしら。まぁ、たしかローズの所って政治的な駆け引きの結果色々と面倒な血筋が混じっていて、がんじがらめになっているって話だったわよね。




 それ以外は、人望の高かった近衛騎士団の団長に関係する人たち。たしか近衛騎士団の団長さんは東の方の伯爵家の三男だったわよね。



 それと、エリシエル殿下との婚姻を望んでいた貴族たち。確か筆頭はどこぞの侯爵家だったはずだけどその辺の一派かな。



 王都の一件でかなりの数の近衛騎士が命を落としている。近衛騎士の出身はそれなりの爵位を持った貴族の一族が半数を超えていたから、その筋を考えればどこまで恨みを買っているか分からないわよね。




 ルーフェス周りで家に恨みを持っている人たちといえば香辛料関係で既得権益を持っていた商人かな。ただ、そのあたりの商人はルーフェス出身のものたちは全部ダニエルさんが声を掛けているはずだから、それ以外で割を食った人たちって事になるけど、世の中ルーフェスとアイルグリス、エンデリングだけがルーフェスで活動している商人のすべてじゃないからね。




 ただ、うちとの直接取引からあぶれてしまった商会でも間接的には取引が出来ているはずだし、以前よりも仕入れ価格が下がって流通量も増えているから、利益は上がっているはずよね。



 在庫を抱えていた商会は大打撃を受けたはずだけど、香辛料の出元になっていたアイルグリス系列の商人以外で大きな損失を出した商人はそれほどいないはず。




 例え在庫を抱えていたとしても、その損失を補って余りある利益を確保できているはずだから。アイルグリス系列を除けば、だけどね。




 今後、国内の反エイリーク派の中心は順当に王妃様一派と団長さんの関係者、どこぞの侯爵家の派閥辺りが中心になりそうね。それだけでもかなりの勢力だけど、ま、アイクさんにローズがついて私とエリスが支えれば、割とどうとでもなりそうな気がするわ。




 んー?……何か気になるんだけど、それが何かが解らないわね。一応、後で二人にも相談しておこうかな。




 朝からベッドの中で二度寝を楽しみながらウニウニとそんなことを考えていたわ。でもアイクさんのコピーから4~5日もすれば彼が一度母港に帰ってくるという情報を耳にしたら、あっという間に頭面倒くさい事は後回しになっちゃった。




 一応私は面食いのはずなんだけど、めったに見れない彼の美少年な素顔よりもふっくら団子鼻の仮面の方が見た時に何だかホッとするのよね。なんでだろう?



 それはどうでも良いか。それよりも大体3週間ぶりになるし早く会いたいわ。




 会えるのはもちろんうれしいけど、アイクさんに色々とやってもらわないといけない事があるからね。そっちの方に考えがいってしまったのもあるわ。まずはストレージ内の半死商人ムルド他1名の治療と今回の襲撃の重傷者についての治療に関しての相談。



 あとはネットワーク上での武器の取引の許可かもしくはアイクさんに武器をそろえてもらう件についてよね。




 今回の件で判明したけど、今の私達では実戦で手加減をしていい具合に敵を倒すのは難しいわね。殺さないようにする手加減じゃなくて、人間判定をしてもらえる程度に見える手加減ね。



 竹刀を武器にしたローズでさえ馬毎敵を一刀両断してしまったのだから、一応武器らしい武器を使っていた私達は言うに及ばず。ローズの話だと竹刀の周りに薄っすらと燐光が放っているように見えたとか言っていたけど、それは私達も同じなのよね。




 ファンタジー思考で考えれば、武器が魔力強化されていたとか、強化処置を受けた影響で生命力、オーラ、気の類が仕えるようになったとかいう可能性が高いから、あの襲撃の後色々とネットワークを通じて三人で調べてみたんだけど、あっさりと原因が判明した。




 ナノマシン強化を受けた際に生命力も強化された結果、オーラや気と呼ばれる力が使えるようになっていたみたいなのよね。もちろん、某竜の球の様にとんでもない力を引き出せるわけじゃないみたいだけど。



 ちょっと気功砲とか撃って見たかった。亀何とか波!みたいに出来たらオタク冥利に尽きるわよね。私はそっち方面の人じゃないけどさ、興味がないわけじゃないのよ。




 ネットワークで手に入れた情報によると、慣れていないと実戦で高ぶった精神に引き摺られて、無意識に気を使ってしまうみたいなのよね。だから肉体を直接使用する戦闘はもちろん、近接系の武器を使用する際にも余程場数を踏んでコントロール法を学ばないと手加減するのは難しいみたい。




 どうもこの世界の人間に特有の現象みたいで、他の世界の人類ではここまで極端な効果が出る例は少ないみたい。魔力が全く存在しない分、オーラが充実しているのかもね。




 飛び道具なら私たちの身体能力に影響されることはないだろうし、当て所を間違えなければ死ぬこともないと思うのよね。



 気やらオーラやらが飛び道具にまで乗るようだとそれも怪しくなるけど。アニメとか漫画だと気は飛び道具枠だから、十分にあり得るわね。



 そうなった場合は結局何度も実戦を経験してコントロールできるようになるしかないのかも。


強くなるっていうのも色々と面倒な事もあるものね。




 やっぱり男タイプでも女タイプでもいいしアンドロイドでもロボットでもいいから鋼線使いの執事さんが欲しいわよね。アイクも乗り気だったし、今度会うときにこっそりと相談してみようかな。


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