切り込み 1話



アイク視点




 後顧の憂いを絶った俺はアイルグリスの海賊行為に対抗する為に行動を開始することにした、が……。どうすればいいのかが今一よくわからない。




 考えた挙句出てきた第1案と第2案はローズに即座に却下された。因みに第一案は改修中の飛空艇を利用した海賊船への空襲で第2案は探索魔法で位置を特定した後に長距離砲撃魔法で人知れず海の藻屑にする方法。




 提案したら即座に強化された突込みで撃沈されてしまった。因みに第3案の時はマリアに突っ込まれた。第3案の内容は言いたくない。




 三度黄金の右とやらの犠牲にはなりたくないからな。





 ちょっと強化しすぎたか、とどこかの新しいタイプな宇宙時代の女宰相さんの言葉を口ずさんでみる。このところのオタク心が満たされる日々に不思議な充足感を感じている。ある意味で俺は今幸せだ。




 その内戦闘でアイク行きますとかそこだ、とか言い出しそうだな。ヤバいな、少し黙ろう。




 結局自分ではどうすればわからなかったからな、素直にローズにどうすればいいのか聞いてみた。





 彼女は呆れもせずに、少しだけ笑って幾つかの案を提示してくれた。大きく分けて2つあんがあるらしい。一つはルーフェスの警備船かラーゼント商会の船に海兵として乗り込む案で、もう一つが自分で船を仕立てて、屋敷にいる海兵出身の兵を連れて海賊船を攻撃する案。




 当初は最初の案しか提案できなかったらしいけど、屋敷の最重要保護対象者が俺の介入で最大戦力になってしまった段階で、屋敷に配置している兵を自由に動かす余裕が出来た為にもう一案とれるようになったと言われた。




 何やら不本意な表情で言われたが気のせいだろうな。




 どちらの案もメリットとデメリットがある。




 最初の案は、伝手がある為に直ぐに船に乗って防衛行動に移れるが、他者の指揮下に入る為に、自由な行動はとれないし、下っ端から始める事になるから、様々な雑事をこなさなくてはいけなくなる。




 二つ目の案なら、誰かの指揮下に入るわけではない為、探査魔法で海賊船の位置を把握して防衛ではなく先制攻撃といった手段を取れるうえ、指揮下の兵を温存して自分一人で切り込みをかけることも出来る。手柄を奪われる心配もないといったメリットがある。




 反面、船を仕立てるのはネットワークを利用すれば時間はかからないが、船を動かして戦闘行動をとれるようになるまで訓練は必須で、それなりの時間がかかる上に、船を用意するコスト、その後の維持の手間等持ったからこそ起きる諸問題を抱える事になるという事。




 コストの点は特に問題はないと思うし、船を仕立てるのなら彼女たちが稼いだ分で買いたいと言い出した為に特に問題はならないけど、一番は時間の問題だな。




 後、俺が指揮を執るという事に不安を感じる。船頭多くして船山に上るというけど、俺の指揮だと船頭一人なのに船いつの間にか山頂にあるという事になりかねない。



 俺の思い込みや早合点は未だに健在なのだから。




 そのあたりの不安を彼女たちに告げると、ローズとマリアは二人して少しの間頭を抱えていた。エリスは「私とアイク様って立ち位置、似ていますよね。」と嬉しそうに笑っていた。




 嬉しそうなエリスの笑顔に反論一つできないで曖昧に笑っていたら、マリアが提案してくる。



 「ラーゼントの船だとコネで、ある程度自由に動けると思いますけど英雄になるといった目標に沿うなら、軍と関わる形で成り上がった方が後の話もスムーズになると思うんだけどどうかな。」




 「そうなるとダニエルを通じて子爵に話をとおした方がスムーズにいくわね。またマリアに交渉役を頼むことになるけど。」




 「気にしないでよ、最近はあの親父とやり合うのにも慣れたし。ローズやエリスを出すわけにもいかないしね。でもいつまでもお忍びではいられないと思うけど、その辺はどう考えているの。」




 「お忍びの一番の理由はアイク様が貴族と関わり合いになりたくないからですものね。ただ、英雄を目指すならその内権力者と関わる事になりますし、海賊を退治してエイリークではなく、アイク様として名をあげるまでは出来ればお忍びでいたほうがいいかもしれませんね。




 貴族の令嬢を3人側に置く男となると、その男に何かないと周囲のやっかみも面倒くさいものになりかねませんし、嫌な噂を流されないとも限りません。」




 「そうなると子爵に筋通して、警備船に海兵として乗り込む線で行くって事だな。まぁ、雑事やら何やらは別に苦じゃないしな。了解だ。



 出来ればその後子爵との絡みは遠慮したいがな。」




 「ある程度は関わり合いにならないとね。目的達成の手順を考えると、ここで手柄を立てて子爵に功を称えてもらって褒美をもらうって流れに持っていきたいんだし。



 それと、前にした注意を忘れちゃったみたいだから、もう一度言っておくわよ。」




 「いや良い。覚えてるよ。」




 「貴方が提案した第1案から第3案を聞いた限り、覚えてないか守るつもりが無いとしか考えられないから、「もう一度!」言っておくわね。」




 そんなに大きくもう一度を強調しなくてもええやんか。ただ、反論すると100倍になって帰ってきそうだから、素直にうなずいておく。




 「一つ、派手にやり過ぎない事。別に手加減して相手の被害を減らせって言っているわけじゃないのよ。ただ、あんまりにも人間離れした活躍は控えてほしいの。人間の範囲で英雄だと思われるように、六角崑の一撃で船を真っ二つにしたりしないようにね。」




 「お、おう。任せろ。大丈夫だ、面倒くさいから船を沈めちまえなんて思っていなかったから。」




 「……アイクさん、それ白状しているのと変わらないと思う。注意しておいてよかったわねローズ。」




 「アイク様は豪快ですからね。未だにもう一人の私は出てきませんし。もしかしたら消えちゃったのかも。」




 エリスが何かを言っていたけど後半は呟くような大きさでよく聞こえなかった。事にした。




 少し首を振った後ローズが続ける。




 「二つ目は現代兵器や魔法は出来るだけ使わない。魔力強化とかは目に見えてわかるものではないのなら問題はありませんけど、派手に魔法だと判断できる攻撃魔法とかはNGよ。」




 「大丈夫だ、その辺は解っている。確か理解不能の活躍をしても評価されるのは難しい、だったよな。そこはちゃんとわかっているから大丈夫だ。使う武器も他の奴らと同じ支給された武器を使うつもりだから。」




 「やっぱり最初の注意は忘れていたんですね。」




 「いや、船を一人でいきなり沈めるのも十分に理解不能な活躍だと思うんだけどさ。」




 嬉しそうに笑いながらのエリスとマリアの指摘に俺は三人から目をそらして流すことしかできなかった。




 数日後にはマリアが話をとおしてくれたらしく、俺は子爵家所属の警備船に海兵として乗り込むことになる。丁度周辺海域の哨戒を終えて補給と船の修繕の為に港に入っていた為、その船に配属されることになったのだ。








 マリア視点



 警備兵を十人くらい付けてアイクの見送りに一緒に波止場に向かう。アイクと私たち三人は同じ馬車で、その他の護衛は騎兵として周囲を取り囲んで追随してくれているわね。



 正直、今の私達には過剰な警護だけど、実戦経験なんかないから守られるという安心感は捨てがたいのよね。




 波止場についた私たちをダニエルさんが迎えてくれた。おそらく子爵の名代として、ね。この場ではローズもマリアもダニエルさんとは目を合わせず会話もない。一応、顔にはベールをつけて申し訳程度に誰だかわからないようにしている。




 「おう、ダニエル。今回は色々と手間をかけたな。」




 「いえいえ。私の力が足りず、一海兵として乗船する事になった事をお詫びしたく、今日はお見送りに参加させていただきました。




 この場にいるのはラーゼント商会のダニエルではなく、ただのダニエルです。」




 アイクさんはダニエルさんの言葉の意味がよく分かっていなかったみたいだけど、私達にはちゃんと通じているから問題ない。




 その言葉を受けて、ローズとエリスはベールを外してアイクに軽く寄り添う。うう……出遅れた。私のくっつく場所がない。仕方なしに正面から抱き着こうとしたけど二人から牽制されてあえなく失敗しちゃった。




 「マリア、後でちゃんとお譲りしますから、少しだけ時間をください。」




 エリスの言葉でおとなしく待つことにする。ローズがアイクの耳元で何か話している。前に私がした当ててんのよを実践しながら。アイクさんの顔が面白いように動揺して、顔が二重になる。左手の方にはエリスが同じように腕に抱き着いて当ててる。




 出遅れた私はようやく満足したエリスと交代する形でアイクさんの左腕に抱き着いて彼の耳元に気持ちを伝える。




 「ちゃんと無事に戻ってきてね。貴方は無敵でも船は沈むかもしれないわ。4隻の艦隊だから、全部沈むとは思えないけど、装備を付けたまま海に落ちる事だってあるの。



 ……正直、海の底に沈んだ程度で貴方がどうにかなるとは思わないけどさ、それでもアイクさんに何かあったらと考えたら、不安になっちゃうからさ。」




 「あぁ、さっき同じことを言われたよ。大丈夫だ。少なくとも今の俺はお前たちを悲しませたり辛い思いをさせたくはないと思っているからな。



 昔戦争してた頃に海兵の経験もあるしな。少しやり方は古いかもしれないけど、直ぐに今のやり方に合わせるさ。



 まぁ、安心して屋敷に籠っていてくれや。派手に稼ぎながらな。



 そんな事よりもそっちも気を付けろよ。例え寝入っている最中にアサシンに刺されようが屋敷を燃やされようがお前たち自身はどうとでもなるようにはしてはあるけど、世の中に絶対は……まぁ、そうそうあるもんじゃないからな。



 億が一、兆が一、京が一何かが、まぁあるかも、うん。しれないから、な。」




 「なんで最後言いよどんでるのよ。」




 「いやさ、冷静に考えてこの世界の人間が今のお前たちに直接害を与える方法がちょっと見つからなかったんでな。喋りながら、だんだん意味のない警告に思えてきて、言葉が続かなかった。」




 やり過ぎたかもしれないって表情をしながら私を見つめるアイクさん。右腕にはいまだにローズがくっついてて顔を彼の胸にうずめている。いいなぁ、私もしたいけどこの状態でするとローズの邪魔になりそうなのよね。




 今度帰ってきた時に私もしようっと。とりあえず意味無くフラグを立ててみる。




 冷静に考えると、私たちの身もそうだけどアイクも海に放り出されても生きて帰ってくるだろうし、何も心配することはないんだろうけど、こういうのは雰囲気だし、仲を進める絶好のチャンスだしね。




 離れている時間が二人の愛を育てるのよ。




 どこかの恋愛ドラマのようなセリフを心の中で呟いて、彼を開放する。



 丁度ローズもアイクの右腕を開放したタイミングで、警備船の責任者らしき人がアイクを呼びに来た。





 「んじゃ行って来る。しばらくは海の上だけど、後は諸事万端宜しくな。」




 何の気負いもない表情と軽快な足取りでアイクはタラップを駆け上がり船に乗り込んでいった。



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