俺と悪役令嬢 8話



 その後は特筆すべきことは無かったと思う。ほとんど全部力技で解決した感じだな。




 ざっと説明すると、俺たち二人は王家の敷いた捜査網や警備網をあっけなく突破し、不幸にも物分かりの悪い警備兵と武力衝突する事態に発展するたびに、哀れそれらは俺の心の棚の一品になり果てた。




 ローズの提案でマリア嬢が保護されていると思われる場所にわざわざ戦場の幽鬼エイリークの名乗りをあげてから片っ端から力ずくで突入する。心の棚の一品をさらにいくつか増やした後にマリア嬢を発見。まだ意識が回復していない彼女を癒しの魔術で治療する。




 意識を取り戻し、ローズの説明で状況を把握したマリア嬢の証言と捜査に使えるいくつかの魔術の合わせ技で実行犯を確保した後、魔術と物理的な説得で真犯人が判明した。




 マリア嬢が意識を取り戻した後、一度潜伏先にもどってから二人して話し込んでいたようなのだが、なにやら事情の説明以外の話で盛り上がっていたようだ。




 話の途中、クーラーボックスに入れたビール各種と御摘み盛り合わせ。更にはカレーライスとスイーツ各種を求められ、唯々諾々とそれらを提供したが、女性部屋として設置したコテージに二人を隔離しておいたので、何を話したのかはよくわからん。




 あんまり関わり合いになりたくはなかったものでな。重要な部分だけわかればそれで充分。君子危うきに近寄らず、だな。別に君子を気取っているわけではないけど、女は徒党を組むと怖いのだ。それでよくハーレムがどうとか言っているな、と自分でも思わないでもないが、やはり義務だからな。





 その後にもブランデーやら芋焼酎、日本酒、〆のラーメンの追加オーダーが来た時には、女子会の恐ろしさに恐れおののいたものだ。




 女子二人にしては消費量が恐ろしいと思ったのだが、女子会が終わったのちにコテージをストレージに収納した際、それほど多量に飲み食いしたわけではないことが判明し、ほっと胸をなでおろした記憶がある。




 どうも二人は沢山の種類を少しずつ楽しんでいたらしい。女子らしいと言えば女子らしいのだろうな。







 それはさておき、判明した真犯人は王太子の妹さん、つまり王女様で、意外なことに三人目の天然転生者だった。王女はレイモンド君推しだったらしく、マリア嬢の最初期のいくつかの行動を確認した彼女は目指すルートが逆ハールートであると断定。




 愛しのレイモンド君を取られてはならぬと彼女なりに色々と画策していたようだが、この手の謀の才能はざまぁ名人戦を繰り広げる二人には全然及ばなかったらしく、何をやっても状況の好転は見られなかった。いよいよ卒業が近づき焦った彼女はついに暴走してしまったらしい。






 事態の解決の途中や、王城に正面から突撃をかけた際にも幾つかのささやかなトラブルがあったかもしれない。




 マリア嬢が匿われていた離宮が不幸な事故で崩壊したり、実行犯である近衛騎士をかばおうとしたお仲間さんをほぼ壊滅させて心の棚の一品に変えたり。




 あと、ついでにごちゃごちゃうるさかった王太子もうっかり一品に変えてしまったのはちょっとやり過ぎたかもしれない。




 王様も第二王子もガタガタ震えて文句ひとつ言ってこなかったから、問題にはならないだろう。心のどこかで問題しかないという突込みが入ってくるけど、気のせいだ。




 ローズが俺の後ろでマリア嬢と話していたのをちらっと聞いたけど、わざわざ一騒ぎ起こす前に名乗りを上げていた効果が出たとか何とか。戦場の幽鬼のネームバリューは大したものだと盛り上がっていた。




 呑気に話しているけどマリア嬢は王太子殿下がお星さまになってしまった事について、何かないのかなと思ったら、もっといい男を見つけたからどうでも良いとローズ嬢を彷彿させる肉食獣の笑みを俺に向けていた。たしかマリア嬢は面食いだったと記憶しているんだが。俺、チビの団子っパナで不細工なんだけど……。




 一反思考停止して隙を見せていた俺に近衛騎士団の団長さんが切りかかってきた。とっさの事で手加減できずにあっさりとお星さまにした際に、派手にまき散らした臓物と大量の血飛沫を一身に浴びたレイモンドが恐怖のあまり精神の箍が外れたのか、盛大に失禁と脱糞してその場でうずくまってブルブルと震え始める。




 その哀れな姿をみた王女様は100年の恋も冷めたらしく、そそくさと彼のそばから離れてしまった。







 その後、ローズとマリア嬢、王様と第2王子そして何故か王女も含めた話し合いが惨劇の場をそのまま会議室代わりにして始まった。




 話しがどう進み、何がどうなったのか、難しい話には興味が無かったから聞き流していた。




 暫くすると本腰で話し合う事になったのか、会議場の場所が変わり、ついでとばかりにローズとマリア嬢から各種アルコールやら摘みやら食事やらスイーツやら〆のオーダーが入って俺を呆れさせた。



 先程の話し合いもそうだが、この後の展開にもあんまり関わり合いになりたくなかったので、ここでも言われるままに物品を提供した後別室にて寛がせてもらった。




 誰も俺の側に居たくは無かったのか、見張りもつかなかったのでのんびりと一人酒を楽しむ。時折ローズが追加オーダーを採りに来る位で概ね平和なひと時を過ごさせてもらった。






 王族という物は、いや、権力者という者は存外根が図太いのかもしれないな。ローズの時も思ったけど、あれほど怯えて震えていたというのに、一度矢面から逃れて喉元過ぎれば色々と頭も回ってくるし体面を取り繕う余裕も取り戻したらしい。




 流石王城の一室。防音はしっかりしているが時折人の出入りがあるたびに隣室から聞こえてくる声には王や第2王子のしっかりとした声も聞こえてきていた。途中で呼び出されたのか、どうやら公爵家のご両親も会議には参加しているみたいだ。




 結局どのように一件落着したのかわからないまま、いつの間にか話し合いという名の宴会は終わっていた。王太子を含めて色々と残念なことになってしまったからな。通夜振る舞いになったのかもしれない。この国にそんな風習があるのかは知らないけど。






 本当はさっさとこの国を出ていきたかったのだが、色々と準備が必要との事。結局、一度王城を辞してそのままの足で公爵家の屋敷にて1週間滞在することになる。




 ローズのご両親には感謝の言葉含めて色々と面談を求められたし、とりあえず立ち直ったらしい弟君からはあまりよくない感情をいただいた。流石にレイモンド君までお星さまにはしなかったが、まぁ中々落ち着かない、色々と身の危険を感じる一週間だった。主に性的に、多分。







 ようやく王都を出るときには公爵家のご両親とびくびくと怯えるレイモンド君、近日中には立太子されることが確実になった第2王子に見送られる事になった。




 そうして俺は、ローズとマリア嬢、そして二人の私物と多数の金品、それと何故か王家からの詫び代わりに王女が人質の名目で彼女の私物と一緒に4頭引きの馬車4台に詰め込まれている光景をただ茫然と眺めている。




 俺に話しかける王女の顔には、ここ最近よく見る肉食獣の笑みが張り付けられていたことをここに追記する。





 ローズが言うには王女を連れていく事でこの国の王家と貴族間の力のバランスを当面は考える必要がなくなるらしい。理由がよくわからないと聞くと、誰もかれも祟り神に自ら望んで祟られたくはないというのがその理由だといわれた。理解できん。




 王都を旅立った後、この一癖も二癖もあるいわくつきの三人娘とそのお付きとして付けられた侍女たちとは色々あったのだがそれはまた別の話だ。




 あぁ、とりあえず今はまだ清き歴史を積み重ねているよ。トータルで161年目に突入したけど、最近は侍女たちまで肉食獣になってしまった。






 ヘタレだとか拗らせ野郎とか色々と言いたいことはあるだろうけど、まぁわかるよ。でもね、俺が求めていたのはもうちょっとおしとやかで清楚なヒロイン達であって、けっしてニヤリというよりニタリと表現したほうが似合う笑みを浮かべて寝床に襲い掛かってくる肉食娘ではないのだよ。




 せめて一言だけ言わせてくれ。




 ハーレムって怖い。



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