俺と悪役令嬢 1話
町から町へ、流れに流れて幾歳過ぎた事か。特に当てのない旅だ。その国の王都から地方都市へと足を延ばしてその先、辺境と呼んでも差し支えない山道に差し掛かろうとしていた時、その騒ぎに気が付き、俺は何事かと木陰から某家政婦のように見守っていた。
「駄目!レイモンド!」
一目見てお嬢様だとわかる金髪くるくる縦ロールの美女が、これまた一目見て主人公かと納得させられてしまうハーフプレートを着込んだ金髪イケメンの騎士を制止する。
「あなたに指図される筋合いはありません。どうせこれもあなたの仕込みでしょう。しらじらしいんですよ。」
金髪イケメンはお嬢様に振り返りもせずに言い捨てると、そのまま兵に短く命令を下して、周囲を取り囲む山賊然としたむさい男たちに切り込んでいく。しかし山賊と思しき奴らの人数は20人前後、たいして彼らはお嬢様含めても6名、明らかに多勢に無勢だ。
「仕込みなんて、そんなのできる隙なんかあるわけないじゃない。あんたたちにずっと監禁されてたんだから。」
「世話係の侍女を丸め込めば済む話です。」
「そんな事出来るわけないでしょう!?」
山賊勢と切り結びながらもまだ余裕があるらしい。だが金髪イケメンの兵の方はそんな余裕はなさそうに見える。ただ、精鋭なのか流石に本職の兵士だけあって、今のところ死者や大怪我をした者はいないようで、山賊たちは既に数名切り伏せられていた。
意外な抵抗に驚いたか無駄な被害を出したくなかったのか、山賊達は取り囲むだけで積極的に攻めてはこないみたいだけど、お嬢様一行にとって状況は改善されていない。
金髪縦ロールは繰り返しイケメンとその兵に戦闘をやめるように声を荒げているがイケメン騎士は一向に聞くつもりはないようだ。
そうこうしているうちにお嬢様一行の後方からさらに10名前後の山賊の増援が駆け付けたらしく、彼女たちはさらに追い詰められていく。
「やむを得ない、姉上の手に乗るのは癪ですが、このまま後方を突破して離脱します、ついてきなさい。」
そう怒鳴ると、イケメンはお嬢様を見捨てて兵と共に後方から囲み始めた山賊勢に切りかかり突破して離脱していく。中々鮮やかな手並みである。
山賊は無理に逃亡を阻止して被害を出すことを避けたのか、双方に被害が出ることなく突破、離脱は成功し、後に残されたのは金髪縦ロールのお嬢様と30人前後まで増強された山賊達だけだった。どうやら最初から目当ては金髪縦ロール一人。積極的に攻撃していなかったところを見ると、護衛などは数で脅して無力化してから、かっさらうつもりだったようだ。
山賊達もこの人数差で抵抗された挙句、交渉もしていないのにお嬢様をおいて逃亡するとは思っていなかったようで、状況の変化に少々ついていけていないようだったけど、数舜の自失の後に先に我に返ったのは山賊側だった。
茫然自失している金髪縦ロールに山賊の頭と思しき男が話しかける。
「まぁ、その何だ。そう気を落とすな。」
申し訳程度に気の毒そうな表情を取り繕って男は続ける。
「奴らが何を勘違いしていたのかはわからんが、諦めておとなしくついてくるんだな。おとなしくしている分には乱暴したりはしねぇよ。お嬢ちゃんの出自によっちゃぁ、あんたは人質かもしくは商品になるんだからな。値が下がるような事はしねぇ。」
隣に控えていた男も話しかける。
「あんた、見た目は上物だ。育ちのいいお嬢様なら初物だろうしな。おとなしくするなら他の奴らにも手出しはさせねぇ。傷物にして買いたたかれるわけにもいかねぇしな。」
下卑た笑いを見せる男たちに自失していた金髪縦ロールも我に返り、男たちを見ておびえ始める。周囲は負傷した者たちを助け起こす者たちや怪我に苦しんでいる者たちの声が漏れ聞こえてきている。が、無傷の男たち30人前後に囲まれている状況では彼女の運命は風前の灯火だろう。
そう、このまま何の助けもないままだったらな。
目の前で繰り広げられた茶番劇に独り言ちながら顎に手をやり、この運命の出会いに思いをやる。
この世界に生まれ変わって既に120年。とっくにこの世界の両親や兄弟とは死に別れたし、故郷を後にしてから80年近く経っている。前世を思い出したのは10歳の頃で、その後は自分にどんな能力があるのか、何処までできるのかを把握しながら社会に適応して生きてきたつもりだ。
兄も弟も、妹たちも良縁に恵まれて家庭を持ち子孫繁栄に勤しんでいたが、どういうわけか俺だけは未だに前世からの因縁(彼女いない歴=年齢)を守り続けてきた。
まぁ、見た目があまり宜しくないのも理由だと思うが、他に色々とやることが多すぎたのも原因の一つかもしれない。
俺のように低身長かつちょいデブの団子鼻付残念顔面な男はその辺にいくらでもいるが、その人たちがすべて恋人なしの人生を甘受しているのかといえばそうではない。この世界ではお見合い結婚が基本みたいなところもあるし、女性たちの好みも人それぞれだ。
美人さんやスタイルのいい女に目がない単純な男共と違い、外見にそれほどこだわっていない女性も相当数いる。男に必要なのは甲斐性だ、とは庶民の世間一般女性の総意であるといっても過言ではない。社会全体がそれほど豊かとはいえない世界で、まずは生きていく事が第一で外見やちょっとした性格なんかは二の次なのだ。
そんな世界で因縁を守り続けている俺は甲斐性が無いのかと言えば、故郷の町にいた時は世間様一般の平均よりは余程稼いでいた自信がある。まぁ、稼ぎ方はあんまり真っ当とは言えないかもしれないが。今じゃもっと稼いでいるけど、確実に人さまの道を踏み外している自覚はある。
正直俺は、目の前にいる山賊もどきの輩とたいして変わりない身の上だ。同じ穴の狢である。高望みをせずにその辺の狢で満足していれば、いくらでも相手は見つかるのだろうけど、せっかくチートを持って生まれたのだ。男なら当然、英雄になって美女に囲まれる生活を求めるべきだろう、という謎の理論に基づき、故郷にいた時から紹介されたお見合いは遠慮していた。こういう流れ者の生活になってからも節操なしのオーラが漏れ出ていたのか、一向に女が寄ってこない。
稀に言い寄る女がいても、何か裏があるか、俺の稼ぎが目当てだと透けて見えるような奴ばかりで、その気になれなかった。当たり前だよな、時代が時代だ。
前世の年齢+今世の年齢=清い身体の歴史、になっていることに不覚にも今気が付いたが、目標を達成するためには下積みの期間も必要なのだ。160年の下積み生活はほんの少し長い気もしないでもないけど。
だれだ、童貞を拗らせすぎて訳が分からなくなっているとか言ってるやつ。自覚はあるからほっといてくれ。
兎も角、そんな俺にとって目の前の状況は前世通して160年間待ちに待った運命的出会い、物語の始まり、そのオープニングとなるべきイベントなのだ。
間違いない。この時から始まるのだ!
俺の輝かしい英雄への軌跡とハーレム生活の幕開けが!!
まずはこいつらへの宣戦布告と金髪縦ロールさんへのアピールをする必要がある。ようやくめぐり合わせたイベントだ。なるべく派手にいこう。愛用の魔力強化された俺の背丈よりも長い鋼の六角棍に魔力を注ぎ込む。棍棒全体からほんのりと魔力光が発生するが、この時間帯では目立つまい。
「よっしゃぁぁぁぁ!!」
心の中で漢の歌をそれそれうりゃうりゃと一人大合唱をしながら俺は160年分の気合を込めて山賊もどきに突撃を敢行した。
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