俺と悪役令嬢 ~英雄とハーレムを夢見た愚か者がたどった軌跡~
たらこ
俺と悪役令嬢
俺と悪役令嬢 プロローグ
人生、中々予定通りにはいかない。
日本の関東、とある地方都市に生をうけた俺は他の大多数が信じるように自分も中流家庭で育ったと信じ、疑うことなく生きてきた。3流ではあるが無難に高校を卒業して、社会人になった。あることが切欠で退職し一念発起して工業系の大学を受験。3流高卒でも成績が悪かったわけではない俺はたいして受験勉強もせずに合格して無難に卒業。その後目指していた企業への就職を果たす。
これも多くの男性と同じように、と俺は信じているけど、人生イコール彼女いない歴を貫いてきた俺は、2次元に多数の嫁を求め、そこそこ幸せな人生を歩んできた。
仕事は忙しいが趣味に費やす時間は確保できるし、収入も多く安定している。このまま無難に生きていけばそのうちに3次元の嫁が来てくれるだろうと呑気に考えていた。
世間一般的な幸福をいずれ手に入れる事が出来ると。
そしてそのまま仕事と趣味の生活を送り2次元の嫁を増やし続け、長年連れ添った右手には公私共に色々とお世話になり続け、気が付けばいつの間にか40歳を過ぎていた。
おりしも平成が終わりをつげ、令和に元号が変わった頃である。翌年から流行った流行病で回り道までして入った会社があっけなく倒産してしまい、先を見失った俺はしばらく引きこもりの暮らしを続けることになる。無職になってから2か月後、急に胸が苦しくなり病院へ緊急搬送。検査の結果心筋梗塞と判明。しばらく入院することになった際にようやく運命の人と出会えた。
その子は看護学校を出て戴帽式を済ませたばかりの看護師で笑顔がたまらなくかわいい女性だった。年齢の差はあるが必死になって必死さを隠して入院中に少しでも距離を縮めようと努力を始めた最中に二度目の発作が起きてあっけなく人生の幕を閉じてしまった。
何故か死後、自分を見下ろしているという漫画などでありがちな不可思議な現象に、あぁ、死後の世界や魂は本当にあったのかという謎の感動と、俺の死を多少ではあるが悲しんでくれている彼女の横顔をみて気持ちの整理をしていると、横から推定幽霊の俺に話しかける奴がいる。
「あぁ、やっぱり肉体の方が耐えられなかったようですね。ご愁傷さまでした。」
そんな場にそぐわない、のんびりとした調子で話しかけられた俺は、まず自分に話しかけられていることを理解できず、ついでその言葉の意味が理解できずに発言者を呆然と眺めていた。
俺に話しかけた人物は、いわゆる神と呼ばれる存在であるらしい。その自称神様曰く俺の本当の死因は心筋梗塞ではない。どうも俺の魂は他者よりもかなり大きくらしい。魂が大きいとその力の流れも大きくなり、制御が難しくなっていくのだそうだ。荒々しい魂の力に肉体が付いていけずに心筋梗塞といった形でその影響が表れたのが死の原因なのだとか。それじゃ結局、死亡診断書的には心筋梗塞でまちがいないじゃねぇかという突込みは心の中でおさめといた。
それから自称神様はこちらの理解を置いてけぼりにして延々と状況説明を始めた。
とはいえ、その内容は大雑把な概要で、それほど細かい事は教えてくれなかったが。
曰く、神様は自分の力の端末として世界に干渉する存在をスカウトしているそうで、色々な世界を観測して一定以上の魂の力を持つ存在を探しているらしい。一つの世界、その宇宙にどれほどの生物がいるのかは俺にはわからんが、神様の端末として機能するための最低限の力を持つ魂というのは少ないらしく、神様が探している合格ラインに到達する魂はさらに少ない。具体的に言うと、その世界が産まれそして消えていくまでの間に合格ラインに達する魂が一つ出てくれば御の字、だという事だ。
神様の端末は神様が生きていくためにはどうしても必要なものらしく、できれば高品質なものを沢山揃えたい。けど、あれもこれもと厳選してしまうと、自分のように生まれたばかりの神様では早晩行き詰ってしまう。そこで妥協して俺のような最低限のラインにどうにか到達している魂も逃さずにスカウトしているそうだ。
つまり俺は合格ラインに達することのできない妥協の産物、と自嘲していると、自称神様はその最低限のラインですら下手をしたら一つの世界に一人も出てこないこともあるのだから、そう自分をさげすむ必要はないのだと慰めてくれた。
そして神様は俺にこういった。
「僕と契約して……」
「それ以上は危険だ、やめんかい。」
とっさにそれ以上は言わせなかった。アニメやゲーム等サブカルチャーを嫁にしてきた俺にとって、この訳の分からない、不安に苛まれる状況下でそのセリフは勘弁願いたい。
「どうせ聞いているものは誰も居ないし、聞いていてもどうこうできるような事ではないのだからそんなに過敏になる事もないのに。」
「いや、俺の心情的にそのセリフはアウトなんだ。勘弁してくれや。」
俺の妙なこだわりを笑って許してくれた自称神様に、この突込みを契機に体勢を立て直して質問する。
「そのセリフが出るっていう事、そして俺の突込みを受けとって答えたってことはこの世界のサブカルチャーにある程度見識があるって事でいいのか。」
「君が知っている事程度なら把握しているよ。君が人生の終わりに初めて本気の恋をしたことも、それまではずっと二次元のお嫁さんと右手のお世話になっ……。」
「ちょ、おまえ、もうわかったから皆まで言うなよ。」
容赦ないな、この神様。だがそれなら話は早い。この状況は転生物の小説によくある、いわゆる神様転生であるのは間違いないだろう。その場合はどういう世界に行くことになるにせよチートがもらえるのか否か、その点が非常に重要なポイントになるのだ。このチート一つで金も女も思いのままの人生を満喫できるか、それともハードモードの人生を生きていかなきゃいけないのかが決まる。
だが、その点について神様の返答は満額回答とはいかないものだった。
「あなたの考えに近い状況であるのは確かです。先ほど言った通り私に余裕はありませんからね。あなたの意思に関係なく、あなたにとっての異世界に転生させるつもりですし、私の端末になっていただくつもりであります。チートはありますが必ずしもあなたが望むような能力ではないかもしれません。あなたの今の魂の大きさ、力ではこちらで必要と判断した能力を魂に刻み込むので精いっぱいで、後は精々基本的な力の使い方と、知っておくべき最低限の知識を書き込んで終わりですね。」
さすがに合格ラインぎりぎりの俺では必要最低限以上の能力の獲得は難しい。結論、俺では無限の魔力も究極の魔法も無敵の肉体や剣神になれる技量も手に入れる事はかなわない。
「まぁ、物理的な肉体の制限からはある程度束縛されなくなります。結果、寿命は無くなりますから、余人と比べて数千年単位で長い人生を生きる事になりますね。その上世界を跨ぎ、何度も転生を繰り返すことになるわけですから、長い年月のうちに魂も成長していくでしょう。何れはあなたが望むような能力を自力で獲得することも出来ますよ。」
そんな感じで慰められて後はいくつか言葉を交わしたことは覚えている。数千年の人生とか転生を繰り返すとか、不吉で気になる単語が飛んできた後なのだから、まだまだ聞きたい事や言いたいことが沢山ある。
そんな俺の思惑なぞまるっと無視して話したいことを話し終えて満足したらしい自称神様が、こちらの返答を待たずに俺に掌を向けて、それではいずれまた会いましょうと一声かけたあたりから記憶がない。
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