最初の一歩 1話

 ローズ達にPCを引き渡した翌日、眠そうな目をした三人をみて思わず噴き出した。気持ちはわかるから何も言わないけどな。朝食後軽く仮眠をとった三人に呼び出されたのはその日の午後。




 何の話かと思ったら、俺の意思の確認をしたいとの事。この先、英雄になる事を目標に活動をするつもりなのかと確認された。まぁ、義務だしな。その方がカトラリー的にも都合が良いというのも事実だ。迷わず応と答えると、三人から色々とアドバイスと相談を受けた。




 アドバイスは主に3つかな。



 戦場などの実力行使の場面ではやり過ぎるな。現代兵器は使わない方がいい。後は自分を中心とした武力行使を行う集団をつくるか、そういう集団に所属する方がいいだっけか。



 最後の部分は今すぐにというわけではない。組織を作るのなら早い方がいいが、組織を作るのも維持するのもコストがかかるし、面倒ごとが多い。一応屋敷を守るための小規模な武力集団を作るつもりはあるから、ぼちぼち人集めを始めようとは思ってはいたんだけどな。





 一朝事起こったその時に行動する方が、それまではフリーで動けるしな。俺がそういうとローズは了解してくれた。




 戦場でやり過ぎるなという部分がよくわからん。英雄を目指すなら派手なやり働きをした方が皆の目に付くし、評価もされると思うだが。




 「あー、えっと。まぁ以前に派手にやっちゃってって煽った手前、こんなことを言うのもなんだけどさ、アイクが大暴れしている現場を見ちゃうと、英雄とか武功とかそういうのは吹っ飛んじゃって、人間対モンスターの様な印象しか受けないのよね。




 そう言う図式になると、普通に周りの人間は恐怖するし、何なら敵のはずの人間を応援しちゃう味方が出てきてもおかしくない様な状況になると思う。



 人間の心理的にね。




 簡単に言うとやり過ぎると周りが付いていけなくて、だれも評価してくれないから手加減してねって事。




 現代兵器を使わない方がいいのも同じような理由ね。周囲が理解できない活躍、恐怖してまともに判断が出来なくなるような武功をあげる人物を英雄として祭り上げるって、結構心理的に抵抗があると思う。」





 「まぁ、確かにあれは衝撃的でしたものね。あの一件で私は私を取り戻せましたけど、生まれた時からエリシエルだった私は未だに出てきませんし。」




 「今更出てきてもらっても困るけどね。私は今のエリスが好きよ。お祖母ちゃん。」




 マリアがからかうように笑いながら声をかける。エリスも笑いながら「まぁそうよね」なんて返している。



 二人に何があったのかはわからんけど、いい雰囲気になっているのなら問題はないな。そんな風に考えていたら、ローズが続ける。




 「武力集団を組織するか所属するっていうのも、個人が個人のまま英雄として成り立つのが難しいからね。貴方の立ち位置に近い人たちがあなたを英雄に祭り上げるわ。



 何者か、何を考えているのか、どっち側についているのかわからない人物がいくら暴れてもそれは武功にならないし、周囲は認めない。認める事が出来ない。



 自分たちの味方なのか敵なのかくらいははっきりさせないとね。」





 「そんなわかりにくい行動をとった記憶は無いけどな。」




 「貴方の活躍の記録を幾つか調べたことがあるんだけど、半分以上は戦場にいきなり現れて両陣営の兵隊を薙ぎ払って双方に大きな打撃を与えた、とか。



 最初は味方をして戦ってくれていたけど、途中から周囲の兵隊全部殺しちゃったとか。




 一貫して味方で戦ってくれて、どうやらこの人は味方みたいだと思ったけど、戦いが終わったらそのままどこかに行ってしまい、おそらく戦場の幽鬼エイリークだと思うけど彼は何のためにこの戦場で戦ったのだろうとか当時の貴族の記録に残っていたり。




 まぁ、その内のどれだけが実際にアイクの活躍なのかはわからないけど、散々よね。」




 言われて心の棚に置いてある年代物の一品を幾つか確認してみるけど、反論の余地はなさそうだ。俺の表情を読んだのかローズが呆れた顔で続ける。




 「せめて旗色くらいは明らかにして戦わないとね。単に戦場に乱入して暴れただけな人になってるから。」




 「一言も返せんな。それでも言い訳させてもらうとだな、最初にちゃんとどちらを助けるか考えて突っ込むんだよ。でもな、正直やりあっている最中に誰が敵だか味方だかわからなくなるんだよな。




 装備や服装とかが統一されているときは判別つくんだけどな。この時代、大国同士の戦争でも装備は個人単位で用意してきてバラバラなのは当たり前でな。



 当然その戦場で初めて見る面子なわけだから、近くに寄られたらとっさに殺っちまうんだよな。」




 「だから普段から一緒にいる武力集団を作るか、味方する勢力に所属、もしくは顔を売っておいて面識を得ていた方がいいって話なのね。確か人間離れした記憶力と思考速度を誇っているのよね。覚えようとした人の顔を忘れたりはしないでしょ。」




 「まぁ、な。覚えようとした場合は写真に撮ったようにきっちりと覚えていられるぜ。ただ個人認識能力に難があるから、同一人物の写真を並べられてもたまに別人じゃないかと思っちまうこともあるけどな。」




 「それ、私も経験したことありますよ。年を取るとね若いアイドルとかの写真を並べられてもだれか誰だかわからなくなるのよね。この写真とこの写真は同じ人ですよって言われてもはて?って。」




 「あぁ、その話は私も聞いたことあるわね。人は普段から付き合いのある年代の顔、見慣れた人種の顔でないと判別が難しくなるって話ね。



 外国人はどれも同じ顔に見えるって言うのと同じよね。」




 普段からあんまり人と接してこなかった弊害かな。ローズもその辺は察したようで苦笑を浮かべていた。




 「まぁ、その辺はこれから少しづつ慣らしていけばいいわよ。一応ルーフェスに拠点を構えるって事は、ルーフェスの立場、公爵家、ひいてはランシス王国の立場に立って行動するって事で良いわよね。少なくとも当面は、だけど。」




 「そうだな。俺もローズの両親と好き好んで敵対したいとは思わない。少ししか面識はなかったけど、随分と気を使ってもらったし。




 ……。多分すごくいい人だろう、あの人たち。」




 「まぁね、お人よしが高じて、門閥貴族の政略に色々と利用されちゃったりしているくらいは良い人かもね。



 色々と言いたいことも思う所もあるけど、一人の娘としてはお母様もお父様も、本当に尊敬できるし、好きよ。



 そもそも血筋がすでに貴族たちの派閥争いの産物だし、その微妙な立ち位置のせいで政治の場面でも静観するしかない部分もあったから仕方ないんだけどね。



 ま、それは別の話よね。



 ……公爵家との対立を選択しないでくれてありがとうね。」




 礼を言うローズに手を振って応える。




 「私としては、ランシス王国にも敵対しないでもらえると嬉しいのですけど。」




 「私は特にないかな。正直男爵家として爵位は持っていても庶民とあんまり変わりない貧乏男爵だし。今回の一件で公爵家の庇護下に入ることになって、最低限生活は安定しているみたいだし。



 ローズと同じく公爵家と敵対しないでくれればそれ以上は望まないかな。今の時点でも十分に良い思いをさせてもらえているんだもん。




 後は、もう少し旦那様がその気になってくれると嬉しいんだけど……。



 冗談よ、そんなに怯えないでよ。大丈夫だってローズ、焦らずゆっくりよね。わかっているって。」




 失礼な。怯えたつもりは無いのだが、もしかしたら顔にちょっとだけ出たかもしれない。何がとは言わないが。




 ともあれ、好き好んで3人を不幸にするつもりは無いからな。そのあたりは明言する。




 「俺から対立するつもりは無いし、少なくともお前さんたちが悲しむようなことはしたくないと思うくらいの情はあるさ。



 まぁ、俺が考えても碌な事にならんからな。



 前にも言ったかもしれないけど、思考速度が速すぎるせいか、それとも深く考えるのが苦手なせいか、早合点してやらかすのが俺だからな。



 お前さんたちのアドバイスなら聞くし、指示してくれるなら助かるな。」




 それ普通に考えて性格のせいよね、というマリアの突込みを聞こえなかったふりをする。




 「それで、俺はこれから何をすればいいのかな?相談もあるんだって言ってたよな。とりあえず俺がやりたいことも当面ないからな。



 遠慮せずに言ってくれよ。」



 その俺の言葉にローズは柔らかな笑みを浮かべた。

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