ヒロインと悪役令嬢、少しだけ俺 5

マリア視点


 少しの間、頭を抱えてこれからの人間付き合いに関して色々と悩んでいる私を軽く流して彼女は続ける。




 「私自身の気持ちにも問題はないし、マリアとなら仲良くやっていけると思うの。マリアが彼をどう思うかはわからないけど、少なくとも彼がもたらす利益を手放したくはないでしょう。



 マリアの最低限の目標は裕福な暮らしをして、いい男と愛を紡ぐ、よね。外見団子鼻のブサメンだけど優しいし、中身はおそらく美少年。それと、マリアの今の時点での裕福な暮らしってさ、単純にお金があれば叶うものなのかな?



 普通に私だけで彼に楔を打ち込んで虜にする自信はないんだよね。なんせ嘘か本当かハーレムを欲しがっている人が相手なんだもん。



 それに、彼の精神を安定させることが人類の安寧を保証することに繋がるのなら、大義も私たちにあり、よ。」





 あぁ、間違いなくこのコテージもこのお酒と料理と御摘み、スイーツ各種も、そしてあのカレーライスも。完全に私を嵌める罠だったわ。



 そして悔しいのは、例え時間が巻き戻ってループしても、間違いなく私はこの罠にかかりに行ってしまうと断言できるところね。



 今少しだけあんたとうまくやっていく自信がグラついているわよ。




 「それでこの席を設けた訳ね。はぁ……。まぁ、確かにあんたの言う通り、彼を手放すという選択肢はないわけだけどさ。まず外堀から埋めていくのはやめてよね。



 嵌められた感が強すぎて素直に協力できないわよ。まぁ、協力するけどさ。それでも問題っていうか課題は2つあるわよ。



 これをどう処理するつもりなのかしら。」




 私から質問が出る前に当然想定していただろうローズは、ほんのりと酒精に染まった顔を笑顔に染め直して答える。




 「犯人は、マリアが知っているかはわからないけどファンディスクで明らかになっているのよ。今回の実行犯がファンディスクと同じなら、真犯人も同じだと思う。



 一応、アイクの持っている魔術でマリアを傷つけた犯人を追跡する術があるらしいから、貴女の証言とアイクの魔術で犯人の特定と、真犯人の追求はできると思う。



 証明とかは力ずくになるかな。」




 「追跡の魔術ね。探偵物の創作物全判に喧嘩を売っている魔術よね。それ。」




 「犯人を知りたければ死人に喋ってもらえばいい、をリアルにできそうで怖いわよね。



 真犯人がファンディスクの通りなら、王女エリシエル殿下なのよね。」




 「えっと、私彼女との接点無いし、攻略ルートは王太子だから、恋敵ってわけでもないはずなんだけど。どこで喧嘩打ったのかな、私。」




 そういうとマリアは溜息を一つついて。




 「忘れたの、マリア。貴女は最初の数か月は逆ハールート一直線ムーブかましていたじゃない。多分そこで襲撃フラグが立ったんだと思う。」




 「うぇぇ、マジですか。途中で軌道修正したのに王女殿下のロックオン解除されなかったって事なのね。まじ勘弁してほしいんだけど。」




 アルコールが結構回ってきたのか、それとも前世の空気に触れすぎたせいか、学生時代に戻ったような感覚で話したりし始めて、でもそれが楽しかった。淑女にあるまじきことなんだけどね。




 「貴女、女子高生で死んだって言ってたけど、死んだ次期結構古くない?喋り方が微妙にふた昔以上前に感じるんだけど。」




 「時代はまわるのよ。一時期古いドラマが流行った時に、その時代の言葉遣いが流行ったのよ。私が死んだのは令和15年だからあんたとそう変わらないはずだけど。」




 「あぁ、そうなると私の方が2年くらい早く死んでるかもね。まぁ、それはどうでもいいや。マリアの命を狙った王女は王国を救う為の生贄になってもらおうかなって思っているの。



 ついでにアイクをつなぎとめる楔の一つにもなってもらう予定。アイクが欲しいと思う女性のタイプが確定していないからね。手駒は多い方がいいわ。」




 王女を王国を救う為の生贄兼ハーレムの一員、か。なるほどそれなら王家と門閥貴族への牽制に十分になりうるわね。それなりに派手に暴れる必要があるともうけど。



 実際にアイクが王女に手を出すかどうかは関係ないのよねこの場合。アイクの側に彼女がいて、王家と戦場の幽鬼エイリークが縁づいたと貴族たちが受け取った時点でこの策は意味を持ってくる。



 後はアイクが派手に暴れれば暴れるほど、王女の生贄としての価値は高まる。って塩梅ね。いや、普通にローズ怖いんですけど。マジ敵に回したくないわぁ。



 そうなるともう一つの問題は、かわいそうな解決方法になりそうね。仮にも人生を共にしたかもしれない人の哀れな未来図に心の中で少しだけ涙を流す、ふりをする。




 「あんたの元婚約者はどーすんのよ。」




 「あんた言うなし。まだ婚約破棄も解消もされてないから。それに貴女の元ターゲットでもあるでしょうに。



 とにかくまぁ、そこは放置で良いと思う。



 彼の性格上、マリアを諦めるとは思えないし、マリア奪還を図って反撃に転じて事態をかき回した私を許すとも思えない。王太子としての意地もあるだろうから、私とマリア、二人を連れ歩くアイクに確実に絡んでくる。しかも面倒くさい方向で。



 王女の身柄の確保と断罪の過程でほぼ100%アイク、いやエイリークに対して力ずくの解決を目指す筈よ。



 その結果、余程の幸運が訪れない限り王太子の、アルベルトの未来はないわね。」




 そっか。少しだけ目をつぶって彼との思い出に浸ろ……うとして、碌な思い出が無いことに再度気が付いた。積極的に彼の不幸を望んでいるわけでは決してないけど、彼が健在である限り私がアイクと共に行く道はないと思う。




 無い……のかな?えっと?




 んー、ごちゃごちゃうるさいアルベルトを一切無視してやりたい放題するエイリークの姿が目に浮かぶんだけど。アルベルトが健在でも彼を止められる存在が頭に浮かばない。




 考えるのをやめよう。



 その後、彼の能力についての考察、神の端末、死神、カトラリーと呼ばれる者たちの考察。特になぜ死神やらカトラリーやらを自称するのか。彼らの目的、仕事とは一体何なのか。カトラリーってあれよね。シルバーとも言うナイフとかフォークとかの総称。それを自称する神の端末。



 正直、あんまりいい想像が浮かばないわよね。




 あと何故アイクは本当の姿を団子鼻の顔で隠しているのかの考察。ローズの見解を色々と聞いた結果、二人で時折輪郭が二重に見える件は本人には伝えないようにしようと決めた。



 これは今後彼の周りに侍るかもしれない人間全員に必須で守ってもらわなくてはいけない事項になるでしょう。



 おそらく、彼の地雷がそこにあるんじゃないかと私とローズの意見は一致している。ハーレムを希望しながら女性が食いつきやすい顔を放棄して、女性受けの悪い顔を選択している事と、ローズが彼と交わした会話で唯一怒気らしきものを表した会話。



 おそらくは彼が戦場の幽鬼になる前に、もしくはなった時に何かがあった。その結果、顔を偽ってすごしている。



 確信なんか持てない単なる想像、妄想の類だけど、完全に的外れだとは二人とも考えてない。



 ま、考えすぎなら後で笑い話になるだけよ、それでいいじゃない。



 そうやって一通りしゃべくりした後でまたアイクに楔を打ち込む方法で大盛り上がりして気が付いたらローズと同じベッドで轟沈していた。




 あぁ、本当に現代的なお部屋で、シャワー室や浴室、アメニティー、コスメ完備のコテージでよかった。お外に出た時にはビシッと戦闘態勢。気合一閃、昨日のお酒の影響なんか欠片も残していないわよ。アイクは小声でサバトだとか言ってたけど、正直反論できないわね。これは。



 まぁ、あんまり呆れないでよ。今後は気を付けるから。




 宜しくね、アイク。



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