ヒロインと悪役令嬢、少しだけ俺 4
マリア視点
「なるほど、神様転生とネットワークねぇ。120年あの姿を維持して生きているとか、なんか情報量多すぎて理解と把握が間に合わないんだけど。」
今回のトラブルを解決する為にと限ってしまえばどうでも良い情報も多いけど、これからの私に関わってくるだろう情報の洪水に、少し時間が欲しくなった。途中でアルコールの影響も出始めたのを自覚してからは、かなり呑むペースを落として思考力の低下を避けたわ。
「まぁ、ね。情報量は確かに多いかな。確認の取りようがない物が多いのが玉に瑕だけどね。神様転生は、状況証拠からほぼ間違いないと思うけど、能力の方はどうかな。
初対面の小娘に結構ペラペラと無防備に話してくれたのはありがたいけど、どこまで本当の事を言ったのかは、正直解らない。でも、多分嘘は言っていないと思うのよね。」
「まぁ、話を聞く限り嘘は言ってないかもね。そこを嘘でごまかすなら、そもそも能力について説明しなければいいだけだし。話を引き出せるだけの材料も持ってなかったんでしょ。
それでぺらぺら話すあたり、話したかったのか自己防御性が低いのか。案外酔ってて口が滑ったとかね。
でも意外と酔ってたせいって線もなくはないわよね。特に前世から合わせて通年で160年間の童貞歴、確か清歴160年とか言ってたんだっけ?
素面じゃ男同士の下ネタ話でもそんな自虐ネタ話しないんじゃないかな。」
よくわからないけどね。でも今回の話の肝はそこじゃないわよね。ローズがエイリークを語る時のあの表情。一応冷静に分析しながら話そうとはしてくれていたけど、話し方が惚気っぽく感じるのよね。
彼の素顔が、あの美少年であるなら惚れても無理はないかもしれない。けど話を聞いていると、あの団子鼻の彼の事も満更でもないようだし、外見に惹かれたというわけではなさそうよね。
まぁ、彼の場合、重要な点は外見よりも甲斐性よね。何度かその点を確認したんだけど、ローズ自身もよくわからないみたい。
「正直に言うと、甲斐性とか外見もポイントだけども、彼の行動の端々から感じる優しさもポイント高いのよね。
……正直、吊り橋効果とかストックホルム症候群とかの可能性もあるとは思うから、少し考える時間が欲しいとは思うけど、多分、私はアイクにやられたかもしない。」
顔を真っ赤にして乙女なローズを前にして私もつられて赤面してしまった。いやでもまってよ、甲斐性はあるし、外見も一応合格だとしても、あの戦場の幽鬼エイリークよ?色々とトラブルを抱える事になると思うし、それにさっき聞いた話だと確か。
「え、でも彼の目的って英雄と……。」
「ハーレムよね。でもまぁ、どこまで本気かわからないけどね。大体ハーレム作りたいって言っている人が清歴160年とか迎えないと思うし。」
まぁ、確かに。単なるヘタレだとしても、そこまで女性に奥手だと逆に引くレベルよね。そんな人がハーレムハーレム言ってても強がっているようにしか聞こえないし。
「でも一度経験しちゃって女慣れしたら、言葉通りになっちゃうかもよ。」
「別にそれでもかまわないかなって思っているの。第一私に関してはもう手遅れだし。」
ローズの言葉に不吉なものを感じて問いただす。
「手遅れってどういう事よ。あんたまさか……。」
「あんた言うなし。まぁ、今回の件で彼に助力を願う条件でね。報酬は私のすべて。もちろんハーレム的な意味も含めて。既に報酬のテーブルには私自身を差し出しているのよ。」
なんて事を!思わず悲鳴が漏れて怒気があふれる。
「あんた何を考えているのよ!私を助ける為なの?なんで自分を犠牲にするような手段を取るのよ。あんたなら報酬なんて、それこそ口先三寸でどうとでもなったんじゃないの?」
そう怒鳴ると彼女は両手を合わせて、いかにも日本人的に頭を下げた。
「御免!私は本当にあなたを助けたいと思っていたのよ?でもね、この件に関しては貴方を助ける事を理由にして、アイクを絡めとる為に利用させてもらっちゃったの。
正直言うと、貴女の救出の件を利用してアイクを逃がさないように楔をうてないか、最後の方はそれだけに神経を集中してたかもしれない。
だから自分を犠牲にした認識はないのよね。」
あぁ、ローズらしいや、と安心するやら呆れるやら。つい手にしていたブランデーの水割りを口にする。
「それに自分を投げ売りするつもりもないのよ。彼の性格上、自分から迫ってくる女を受け入れられると思う?」
「あぁ、いや。そんな男なら清歴160年とか言っていないわよね。なるほどね。うまくいけばそのまま報酬を踏み倒せるって事じゃない。
たしか彼を取り込もうとして失敗した貴族の話が山ほどあったわよね。」
前にローズから聞いたエイリークの情報を思い出しながら、頭の中で状況をシミュレートしてみる。かなりの確率で、一件落着した後、いつの間にか姿を消しているエイリークの姿が頭に浮かぶ。
ん……、いや、それはダメでしょう。私の今後の生活的に。なるほどそうしてみるとローズが彼に打とうとしている楔の重要性がわかってくる。
ハーレムか……。ローズ一人じゃハーレムとは言えないわよね。どうせ同じ男を囲うなら気心知れた相手の方がいいわけで。訳の分からない女が横から入ってきたら揉めるしね。
と言うかさ、男に囲われるんじゃなくて、一人の男を複数の女性で囲うって発想の場合、これってハーレムっていうのかしら。第一、ハーレムっていっても自分から彼に迫れば彼が逃げて身の安全が保障されるって変な話よね。
いや、その場合普通に女としてのプライドが再起不能のダメージを受けてしまうような気がするけど。
ん、ぁぁこの宴会の準備は私を取り込むための「策」なのね。やられたわね。
正直、この現代地球的な快適な暮らしを再び味わってしまった今、彼の保護を失って生きていくのは辛すぎる。万が一彼を失ったら、この日を境に私は何かあるたびにこの宴会での出来事を思い出して、嘆くでしょうね。
手に入らない幸せに悶えながら。
「んー。正直ね。報酬を踏み倒したりするつもりは無いのよ。私の方から彼に積極的に迫るのはそのつもりだけど、それは少しの間時間が欲しいから。
自分の中でちゃんとした答えが出たら、それがどんな答えであれ、彼との仲をちゃんと進めるつもり。手順を踏んでね。
同時に彼にハーレムを用意する事も必要だと思っているの。」
何故だかわかる?とでも言いたげな挑発的な目に、反発して思考を巡らせる。彼女が現時点で提供した情報で答えにたどり着けるって事よね。
いや、結構単純な答えなのかな。
「清歴160年、か。」
「そういう事よ。彼の人生は、多分私たちとは比べ物にならない程長いわ。いや、長すぎる。そして彼の持つ力は人類には危険なものよ。
彼の精神の安定を保つという事は人類社会を安定させることに繋がるというのは、けっして言い過ぎじゃないわね。
アイクはね、マリアの隔離されていた離宮に突入する際にどうやったか想像つくかしら。」
「え、彼の逸話にあった通り、単騎で突撃して扉を打ち破ったんじゃないの?」
「彼に言わせると、そのくらいの事は簡単にできるけど、もっと簡単でかっこいい方法があるんだから、そっちを実行したほうがいいよね、だってさ。
彼はネットワークから、進んだ文明の品物をいくらでも手に入れる事が出来るのよ?その気になれば銀河間航行船とか恒星間資源回収船とか、それこそ彼に言わせれば原始的な原水爆系統の兵器、ICBMだってそこそこお手軽に。そしてこの世界の人間は地球で言えば中世ヨーロッパに少し届かない程度の文明しかないの。」
「まさか、原爆をつかった、とか言わないわよね。」
「さすがに原爆は無いわよね。爆弾っていうか、ロケットランチャーってやつなのかな?鉄でできている正面の大門が一撃で吹き飛んでいるし、離宮の彼方此方が崩れて廃墟になっているから、多分令和日本の時代の武器よりも進んでいる物だと思うけど。」
あぁ、確かに彼を放っておいたら危険だ。もしかしたら彼の逸話で一番有名な嘆きの城を崩壊させたのも、彼の持つ兵器の力なのだろうか。
ローズもなぜ彼を止めなかったのか。離宮が崩壊したときに私が巻き込まれて被害を受ける可能性を考えなかったの?
「アイクが貴女の位置はわかるっていうし、貴女には被害は出ないように結界で保護してあるから大丈夫だって言うからさ。手っ取り早く派手にやってほしかった事情もあったから了解しちゃった。」
親友の真の恐ろしさと彼の厄介な一面を思いやって少しの間頭を抱えていたわ。
友達付き合い考え直した方がいいかしら。
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