ヒロインと悪役令嬢、少しだけ俺 2
マリア視点
Cドリンクと……、いや、何に気を使っているんだか、面倒くさいからコーラで良いよね。C・コーラとエビなビールとで乾杯した後、10数年ぶりに飲む刺激いっぱいのコーラに初めて炭酸飲料を飲む初心者のように一瞬むせてしまって、でもそれが楽しくてローズと二人でつい笑ってしまった。
乾杯してひとしきり笑いあってようやく落ち着いたものの、いまだに状況を理解していない私にローズはようやく順を追ってネタバラシをしてくれた。
私が襲われた後、彼女が拘束されて公爵家の一室に監禁された事。裏切り者の弟君が予定通りに裏切ってローズを冤罪に陥れた事と修道院に送られることになって、途中で襲撃イベントが発生した事。
もう駄目かと思っていたら戦場の幽鬼エイリークが登場して、その場に残っていた男たち全員を皆殺しにしてしまった事。
「戦場の幽鬼エイリークってローズを殺す予定の男じゃない!
あぁ!?たしかエイリークの外見って団子鼻のチビデブよね?ってそれって私を抱きかかえてくれた人がもしかして……。
そっか、って事は戦場の幽鬼エイリークって私たちと同じ転生者だったって事なのね。それともあの謎の少年がそうなのかしら。いや、少年についてはまだ何の材料はないわよね。それでこのビールやらC・コーラはエイリークから手に入れたと。
いや、まって確かエイリークの逸話に、顔が重なっているように見えるって表現があったわよね。
目を覚ました時に見た光景を思い出すのよ……。たしか、あの美少年は顔の周りに微かに何かが重なって見えていたはず。って事は少し飛躍しているかもしれないけど、もしかしたらあの少年がエイリークの中身だって事なのかな。
……ここまで色々と重なってくると、彼もただの転生者じゃないわよね。まぁ、このクーラーボックス一式をもたらしたのが彼だとしたら特殊能力持ちを疑うのは当たり前だけど。」
「……相変わらず鋭いわね。いったいどういう思考回路しているのよ。
顔の情報からエイリークが彼だという所までは想像できても、これだけの情報でここまで理解できるものなのかしら。」
ローズが呆れて言うけど、ローズだって人のこと言えないからね?ざまぁ名人戦やっていた最中、何度絶句させられた事か。多分、その場に居合わせた当事者じゃないからこそ、理解しやすい事もあるという事だと思うけど。
「それほど驚く事じゃないでしょう。エイリークが私を運んでくれた彼だとわかれば、後はある程度推測できるじゃない。
今この隠れ家にいるのは私と貴女、そして彼だけだし、貴女は今までこの手のオーパーツって言っていいのかしら?疑問だけど……、まぁそれは置いておいて、こういうこの世界ではありえ無い物を持ち出したことはないわ。
今まで細心の注意を払って隠していたのかもしれないけど、それなら今この場に持っているというのも隠すのをやめたというのも不自然だもの。
この手の物がこの世界にある場合考えられるパターンは概ね3つよね。
一つは異世界物でありがちな異世界への漂流。これは人物だけじゃなくて物品も当てはまるけど。
そうなるとこのコーラ、とても貴重な一品になるはずよね。とてもこんな気軽に提供できるとは思えない。今まで異世界から漂流したという品物の噂なんかも聞いたことないし。
もう一つはこの世界で再現して作られた可能性。これはこのコーラやビールの缶にアルファベットや日本語表記されていて、この世界の文字が一切つかわれていない時点で却下ね。」
ここまで言えばローズもなるほどと理解を示してくれる。
「そうなるともう一つは団体もしくは個人の特殊能力による取得って事ね。なるほど、確かに推論は可能だしその後どう考えたのかもわかるわ。だけど、その結論にたどり着くまでのスピードが尋常じゃないわね。」
「いっておくけどローズ、貴女は人のこと言えないからね。」
人を異常者のように表現されたらたまらない。能力を評価してくれているのだとしても、私以上の能力をもっている人から言われると素直に喜べないのよね。
「そんなことは無いと思うけど。まぁ、そういう事よ。
襲撃イベントの後の事は、説明しなくても大丈夫そうね。先に進むわよ?」
「いや、実際に何があったのか答え合わせの意味もあるし、うっかり行き違いがあったらたまらないもの。それに聞いておいた方が良さそうな気もするから、聞かせてよ。」
言いながらローズが飲んでいるビールを一口失敬する。お行儀悪いけどいいわよね、こんな時なんだし。
アルコール飲料はこの世界に来てから15歳に解禁されて以来、社交に出る度に嗜んでいるし、たまに実家でもお祝いの時にはワインが出たりするから飲めないわけじゃないのよ。
ただ、エールは飲んだことが無いし、ビールも初めてなのよね。口に広がるビールの苦さに思わず顔を顰めてしまう。直前にコーラを口に含んでいたせいで余計に苦さを感じてしまったようだ。
そんな私のしかめっ面をみたローズがクスッと笑う。
「まだマリアにはビールは早いかな?ビールの苦さは、大人になって人生の苦さを経験してからじゃないと楽しめないものなのよ。」
「未成年でビールを楽しんでいる人もいるはずだけど。」
つい、可愛くない反論をしてしまうけどローズはそうね、そういう人もいるでしょうねと軽く流して、席から立ち上がる。
「少し待っててね。エイリーク、あ、本名はアイクって言うんだけどね。
彼から別のお酒とかもらって来るわ。ついでに色々と、ね。
レトルトでよかったらカレーとかもあるのよ。しばらく何も食べてないだろうから胃がびっくりしちゃうかもしれないけど、アイクが言うには今のあなたは健康体そのものらしいから、多分大丈夫よね。」
楽しそうなローズの声が頭の中を上滑りしていく。カレーって、いや確かにビールやコーラを手に入れる事が出来るんだからカレーが駄目って事は無いと思うけど、カレーライスって事よね。
スキップでもしそうな足取りでローズが部屋から出ていく。
ちょっとまって、つまり約18年ぶりにお米が食べられるてこと!?しかもカレーライスで。あ、駄目。なんか目に涙が溜まってきた。なんか私泣きそうになっている。ついでに私、馬鹿になってるかもしれない。
お母さんやお父さんに会いたい。なんでカレーライスで両親を思い出すのかわからないけど、一度考え始めたらしばらく前世の頃の思い出から頭が離れなくなった。子供の頃の思い出って事なのかしらね。
目を閉じるとあふれた涙が零れて、思い出も胸に溢れる。もしかしたらローズも今の私と同じように、過去の自分に会いに行っていたのかもね。
私より一足先に思い出と邂逅を果たしたであろうローズを少しだけうらやましく思いながら、彼女が持ってきてくれる前の世界の残り香を楽しみに、私はベッドの中でしばらくの間空想に浸ってすごしていたの。
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