LOVE&ピース

著;


 

『むかしむかしあるところに、一人の王様がいました。王様は大変誠実で優しく、国民からも尊敬されていました。

 そんな王様には一人の妻がいました。むかしは、良いおくすりもなく、大きな病気にかかってしまうと直すことが出来ませんでした。ですから、ふつうの王国では王家の血が途絶えることのないよう王様には何人もの妻がいました。しかし、この王様は一人の妻だけを愛していて、その他の妻は作りませんでした。そんなところも国民に尊敬される一つの理由でした。そうして一人の妻と国民に囲まれながら幸せに暮らしていました。


 しかし、そんな幸せな暮らしも長くは続きませんでした。

 王様の妻が重い病気になってしまったのです。王様は国中から医者を集めて妻の病気を治させようとしました。しかし病気は治らず、妻はとうとう死んでしまいました。

 それでも諦めきれなかった王様は、古くからの友達の錬金術師に、なんとかして妻を生き返らせてはもらえないだろうか、と頼みました。すると錬金術師は


《大変な道のりになるぞ、多くの人に迷惑をかけるかもしれないし絶対に生き返るかはわからない》


 と言いました。それでも王様はやってもらうことにしました。錬金術師の、生き返らせる方法はこういうものでした。


 王様の妻にはこの星にある全ての薬を試しましたが治りませんでした。そこで錬金術師は、この星と他の星をつなげて、他の星にある植物から新たな薬を作って試そう、というものでした。

 さっそく錬金術師はいろんな星と地球をつなげて、様々な植物を集めました。しかし、王様の妻を生き返らせる薬はすぐには見つかりませんでした。

 そのとき、更なる悲劇は起きてしまいました。

 この星とつなげた星の中の一つからたくさんの怪物がこの星に入ってきて、人々を襲っていきました。

 そこで王様は勇者を呼び、怪物達を倒すよう命令しました。

 勇者達は苦戦しながらもなんとか怪物達を倒していき、とうとう最後の一匹を倒しきりました。最後の怪物が落とした黄金の豆をもって王様の元へ帰り、その豆から作った薬を王様の妻に使うと、なんと妻は生き返りました。


 大変喜んだ王様は勇者達に褒美をたくさんやり、勇者達を王様の娘達と結婚させました。

 こうして王様は幸せな暮らしを取り戻しました。       

                                   めでたし、めでたし』






 [国家公式発表]


 対未確認生命体用植物「ピース」を使用した

 人間用装着型特殊兵装「ピースキーパー」試作機の開発に成功


「ピースキーパー」を未確認生命体の討伐に導入

 実践データを元に更なる改良を目指す












 桜の月 Me日 曇り


 明日から高学校が始まるので、日記をつけてみようと思う

 今まで書いてきた物といえば、報告書しかなかったので書き方がわからない

 だが誰に見せる物でもないので、その日あったことだけでもわかれば良いだろう

 高学校は楽しみだがピースキーパーと両立できるか不安だ

 新しく引っ越してきたこの年季の入った荘にもはやく慣れたい

 明日遅刻しないように今日は早めに寝るとする



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 桜の月 Ve日 曇り


 初めての高学校は、とても楽しい一日だった

 自己紹介は緊張したが、隣の席の女の子とも上手く話せた、と思う

 今日は魔物も出なかったし、近くのスーパーでたまたま安売りをしていたので、夕飯の食材も安く買えた


 帰ってきたときに、荘の前にぼろきれの服を着た異様な女の子がいたがなんだったのだろうか


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 桜の月 Ea日 晴れ


 高学校にいる時に魔物が出てしまったので、学校は早退して現場に向かった

 入学するときに、組織から「身体が弱い」等の話が学校側に通っていたのであろう

 とてもあっさりと早退できてしまった

 仕事とはいえ、高学校を早退するのは少し心苦しかった

 ピースキーパーの仕事は今回も魔物の視察、近隣住民への避難勧告、それと主動隊の後始末だった

 俺もはやく主動隊になりたい

 なったらなったで大変そうではあるが



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 桜の月 Ma日 晴れ


 荘の大家さんに夕ご飯のお裾分けをもらえた

 とても美味しい肉じゃがだった

 あんなに色々親切にしてくれる妙齢の綺麗なお姉さんが、なぜこんなボロい荘に住み込みながら大家なんかしているのだろう


 組織の人の噂で、魔物が薬品研究所を襲って薬品がばらまかたという話を聞いた、大丈夫なのだろうか

 そういえば、またあのぼろきれの子がいた

 荘の住人に用事でもあるのだろうか




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 桜の月 Ju日 晴れのち雨


 高学校に、ピースキーパーの主動隊の人がいることがわかった

 人だかりが出来ていて何事かと思い行ってみたら、主動隊の人が囲まれていた

 あの人は主動隊のなかでもエースらしく、見たことはあったがまさか同じ学校にいるとは

 やっぱり出来ている人というのはそうなのだろう

 現場だけでなく高学校でも輝かしい生活を送っている様子だった


 薬品研究所の件は、ピースキーパーの別の部隊が処理をして事なきを得たらしい




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 桜の月 Sa日 晴れ


 今日は朝から魔物が出て、一日中その対応をしていた

 今回の魔物は分裂するタイプの魔物で、主動隊が一体を相手にしているときに他の場所にも出現して大変だった


 結局高学校には行けず、少し早めに帰ってきたら、ぼろきれの子が玄関の前にいた

 昔の王様がどうとか愛がどうとかうさんくさいことを言っていたので追い返した



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 桜の月 Ur日 曇り


 主動隊に装備の改良が加わったらしく、強力な戦力アップが図られたようだ

 下っ端の自分たちには何も変化はなかったが


 買い物の途中、同じ荘に暮らしている一家を町中で見かけた

 一人暮らしも色々自由で良いのだがやはりああいうのを見てしまうと人恋しくなる

 挨拶に行ったとき共働きだという話を聞いたので、あの一家も大変そうではあったが



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 桜の月 2Me日 曇りのち晴れ


 今日は一日ゆっくりしようと思っていたが、昼前に魔物が出て招集がかかった

 しかし主動隊の戦力アップの効果はめざましく、魔物をあっという間に倒してしまった

 休日を返してほしい

 あの様子だと魔物達との決着もそう遠くないかもしれない


 同じ荘の女の子が主動隊にいたことに、戦闘を見ていて気づいた

 主動隊になれるのは「ピース」と呼ばれるピースキーパーになるために使う植物と相性が良い人しかなれないという話をこの前聞いたが、それでも同年代の女の子に負けているのは少し悔しい


 またぼろきれの子が来ていた

 宗教勧誘お断りの張り紙でも貼ろうか



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 桜の月 2Ve日 雨


 荘に女の子の幽霊が出た

 ボロい建物の雰囲気とあいまって最初見たときに叫んでしまった

 他の住人に聞かれていたと思うと恥ずかしい

 といっても、しっかり意思疎通できるし、髪留めをつけ

 身なりに気を遣うなど人間的な感性も持ち合わせていて割とフランクなタイプの幽霊だった

 この幽霊、大家さんと俺と、主動隊の女の子にしか見えてないようなのも不思議だった

 霊感はない方だと思っていたのだが

 とりあえずこの荘の使われていない一室に住む(?)ことになったらしい

 大家さんも心が広いというか、変わっているというか



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 桜の月 2Ea日 曇り


 組織の本部から、魔物の残りを全滅させる算段がついたとのお達しがきた

 近々大規模な掃討作戦を決行するらしい

 結局主動隊にはなれなかったが、魔物がいなくなって平和になるのはよいことだろう


 高学校では学園祭での準備が始まった

 よく早退していたのでどんなことをするのか全くわからなかったが、隣の席の女の子に教えてもらって準備に参加できた

 今日から放課後などに少しずつ行っていくらしい

 明日の準備が楽しみだ



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 桜の月 2Ma日 曇りのち雨


 今日は魔物の出現はなく、放課後の学園祭の準備に参加できた

 隣の席の女の子は手先が器用で、衣装をすごい速さで作っていた

 なんでも家事は得意なんだそうだ


 家に帰るとぼろきれの子がいた

 なんとなく気になって、他の住人に用はないのか、と聞いてみると

 人によってどうとか要領を得ないことを言ってすぐにどこかへ行ってしまった

 幽霊の子いわく、俺の部屋の前にいつもいるらしい

 まさかあの子も幽霊じゃないだろうな


 ここ最近急に身体の一部が痛くなることがある

 病院に行ってもいいのだが、痛みは一瞬だけなので問題ないだろう

 放課後はなるべく学園祭の準備に参加したいし



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 桜の月 2Ju日 晴れ


 今日は朝から魔物の対処、処理を行った

 以前に比べると一度に出る魔物の数や強さが上がっている気がする

 しかし、こちらの戦力アップのほうが圧倒的に上回っている様なので問題はなさそうだ


 今日は高学校が休みだったので、学園祭の準備はなかった









 定期報告(極秘情報につき取扱注意)㊙


 隕石の落下に伴って封印が解かれた異次元転送装置、通称「ゲート」から「外来生命体」が襲来

 隕石に付着していた地球外植物「ピース」を栽培開始

 対外来生命体用植物「ピース」を使用した人間用装着型兵装「ピースキーパー」の試作品が完成

 実践に投入した結果、外来生命体に有効であることが判明

 しかし、「ピースキーパー」使用者の身体には「ピース」の成分が蓄積し、人体に悪影響を及ぼす模様



 使用者の身体に「ピース」が蓄積されず、更に出力も向上された「ピースキーパー」改良型が完成

 ただし、ピースキーパー隊員の大部分はピースの蓄積が著しく、また制作コストなどの観点などから、改良型は主動隊にのみ配備


 対外来生命体用特殊構造体「エボルウイルス」研究所が外来生命体に襲撃されたため「エボルウイルス」が流出

 至急ワクチンの準備、その他ウイルス対策を要請












 [国家公式発表]


「未確認生命体大規模掃討作戦」決行

 無事に完遂し、未確認生命体の全滅に成功












 藤の月 Sa日 晴れ


 今日は町中で魔物と遭遇した

 本部に支援要請をしながら対応していると、一般市民の男性が魔物に殴りかかり、瀕死にさせてしまった

 世の中にはすごい人がいるものだと思っていたら、実はここ最近似た事例が多いらしいという話を、別の部隊から聞いた

 何か起きているのか


 明日からは学園祭の準備が本格的に始まる

 この前は隣の席の女の子にいろいろ教えてもらったから、今度は俺がお返しする番だ

 頑張ろう



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 藤の月 Ur日 曇り


 荘に今まで見たことない人がいた

 大家さん曰く、ほとんどいつも引きこもっているらしい

 始めて知った


 ちなみに荘にはもう一人、絵描きの住人がいる

 良く町中で絵を描いている姿を見かけるが、話したことはない


 高学校では、学園祭の準備をした

 隣の席の女の子にお返ししようとして張り切りすぎて塗料をまき散らしてしまった

 恥ずかしい

 でも、あの子が片付けを手伝ってくれたことで他の人に見つかることはなかった

 ほんと、頭が上がらない


 準備のことを幽霊の子に話したらめちゃくちゃ笑われた

 今度塩でもまいてやろうか



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 藤の月 Me日 晴れ


 午前中に魔物が出現し、その対応、処理をした

 処理の後、本部から大規模掃討作戦は三日後だという通達が来た

 今の様子だとそこまで苦戦しそうにはないのだが、万が一ということもあり得るので気を引き締めておこう


 魔物の処理があったので、高学校には昼から行った

 学園祭の準備では、クラスの出し物のシフトを決めた

 隣の席の女の子と同じ時間になれたので、当日が楽しみだ



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 藤の月 Ve日 曇り


 学園祭も三日後に近づいてきたので、高学校内全体が忙しいながらも充実した雰囲気に包まれている

 うちのクラスは順調に出し物の準備が進んでいる

 魔物の出現も今日はなかったし、全てが順調すぎて怖いくらいだ


 幽霊の子に学園祭の話をしすぎたせいか、とうとう学園祭に来るとまで言い出した

 人の熱気にさらされて成仏するんじゃなかろうか



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 藤の月 Ea日 曇り


 今日は明日の大規模掃討作戦のために早退した

 隣の席の女の子に心配されてしまったが、これが終われば今後こういうことはなくなるだろう

 そうすれば心配させずにすむ

 会おう考えると俄然やる気が出てきた


 荘に帰ってくる途中、大家さんとぼろきれの子、それに絵描きの人が一緒に路地裏に入っていったのを見かけた

 なんの集まりだったのだろうか

 というか、ぼろきれの子は大家さんらと面識あったのか



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 藤の月 Ma日 晴れのち雨


 今日は大規模掃討作戦があった

 結論から言うと、作戦は成功に終わった

 魔物の残党は郊外の森の中に集まっていて、そこを包囲して一気に叩くことであっという間に作戦は終わった

 魔物がこの世界にやってくるには、「ゲート」と呼ばれるワープホールのような物を通ってくるのだが、それも無事封印することが出来た

 意気込んでいた割には、あっけなく終わってしまったようにも感じたが、これで魔物を無事全滅させることが出来た

 後処理や、事務処理などもあるので、まだ仕事が全て終わったわけではないが、とりあえず緊張状態は脱した

 長かったピースキーパーの活動もこれで一区切りか

 色々思うところはあるが、それを書き記すのはいつでも出来るだろうから今日はやめておこう


 明日は学園祭だ

 有休を取って一日中学校にいられるようにしよう

 といっても、もう急に招集されることはないだろうが

 学園祭が楽しみだ

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 藤の月 Ju日 曇りのち晴れ


 ・・・・・・




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 藤の月 2Sa日 晴れ


 俺はどうするべきだったのだろう

 わからない





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 藤の月 2Ur日 雨


 事態が急変した

 メンタルがかなりやられているが、そうも言っていられない状況になったので記録だけはしっかり残していくことにする


 まず、荘に住んでいた幽霊の女の子が死んだ

 既に幽霊だったので死んだという表現はおかしいか

 昨日、町中に巨大な怪物が現れた

 国の軍隊も動くほどの大きな騒ぎだった

 ピースキーパーにも招集がかかり、俺も現場に向かった

 バケモノ騒ぎにはピースキーパーの方が慣れていたからか、国の軍隊が到着する前にピースキーパーが到着し、対応に当たった

 その中で、俺は幽霊の女の子が持っていた髪留めを見つけた

 もしやと思いつつも、周辺住民の避難を手伝っていた

 主動隊が到着し、巨大な怪物と対峙した

 その怪物は、生体反応がなく、巨大なエネルギーの塊のような物だったらしい

 主動隊がとどめを刺そうとしたとき、一瞬幽霊の女の子の様な物が見え、その後すぐ、巨大な怪物は塵一つ残さず姿を消した


 これが昨日のこと


 次に、俺が「エボルウイルス」というものに感染していると言うことがわかった

 正確に言うと、俺だけでなくこのあたりに住んでいるほとんどの人が感染しているらしい

「エボルウイルス」とは、少し前に怪物が薬品研究所を襲撃したときにばらまかれたものらしく、なんでも、このウイルスに感染すると、ある特定の条件下で人間が狂暴化してしまうらしい

 日常生活に支障はないが国民の不安は大きく、暴動なども起きているようだ

 国によってワクチンが配られている

 ワクチンを接種すればすぐにウイルスはなくなるらしいのだが大規模な感染だったので、ワクチンの普及が間に合っていないようだ

 報道機関ではこのことで持ちきりで魔物が全滅したことや、幽霊の女の子が町で暴れたことについてはだいぶあっさりとしか報道されていない


 最後の一つは俺にとっては一番重大なことだ

 国が大騒ぎしているのになにを、とじぶんでも思う

 ただ、こう冷静に分析してないとやってられないのも事実なので書き留めておく

 これは、いわゆる失恋という物でいいのだろうか

 学園祭の日の放課後、隣の席の女の子が同じクラスのピースキーパーのエースの人に告白しているところを見てしまった

 その後から記憶が定かでないが、どうやらなんとか帰ってきた俺はだいぶ様子がおかしかったらしく、大家さんに介抱してもらったらしい

 大家さん曰く、顔が真っ青で足取りもおぼつかなかったらしく、自分の部屋に戻った途端倒れてしまったらしい

 翌日、目が覚めたがまだぼーっとしていて、何も頭に入ってこなかった

 ただ、じっとしているのも落ち着かず、イライラしていたときに、例の幽霊の女の子の件での招集がかかった

 大家さんには止められたが、何かしていないと気が紛れなかったので、俺は荘を飛び出た


 それがまさか、あんなことになろうとは

 幽霊の女の子が消えた後は、本部からなにか重大な連絡があったがあまり良く覚えていない


 身体がだるい、高学校もきょうは休んだ





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 藤の月 2Me日 雨


 ピースキーパーの緊急招集があった

 何事かと思い行ってみると、民間人が町中で突如暴れ出したらしい

 それも、いろいろなところで、何人もの人が暴れていた

 例の、エボルウイルスの作用だそうだ

 ピースキーパーは今後、しばらくはエボルウイルスによって狂暴化した人達の対処に当たるようだ

 魔物と比べて、こんどは標的が一般人なので主動隊も苦難しているようだ

 なかには知り合いが狂暴化していた事もあったらしい


 体の疲れが抜けきっていないのか、体が上手く動かせないことがよくある

 耳鳴りや頭痛も多い

 医者に行ったが、やっぱり疲れやストレスから来る物だろう、といわれた

 エボルウイルスによるものではなさそうなので安心したが、しっかり休んで体調を万全にしておかないと仕事にも支障が出てしまうだろう

 気をつけねば



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 藤の月 2Ve日 雨


 今日も、エボルウイルスの暴走で招集があった

 驚いたことに、現場に同じ荘の引きこもりの人がいた

 格好が全く違っていたので最初は気づかなかったが、目撃者として事情聴取してみて気がついた

 なんでも、彼女はネットアイドルをしているらしく、ファンの人と会う約束をしていて、町中で出会って話をしているうちにファンの人が狂暴化してしまったそうだ

 狂暴化のメカニズムはわかっていないそうだが、ワクチンを打つ以外に防ぐ方法はないのだろうか



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 藤の月 2Ea日 晴れ


 町中で、隣の席の女の子が主動隊のエースの人と仲良くしているところに遭遇してしまった

 とても楽しそうな表情だった

 なぜ、隣にいるのが俺じゃないんだろうか

 なぜ、彼はあんなにも恵まれているのだろうか

 なぜ、彼女はあいつを選んだのだろうか

 わからない、わからない、わからない

 胸が痛い、心臓が張り裂けそうだ、耳鳴りもやまない、体中が震える、頭が割れるように痛い、体の芯が、引き裂かれるように痛い

 つらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらい

 いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい

 くるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるし____________________












 定期報告(極秘情報につき、取扱注意)㊙


 外来生命体の討伐に成功


 エボルウイルス感染者の狂暴化が発覚

 早急な対応を求む


 要観察対象「ゴースト」暴走

 原因は、外来生命体が全滅した影響で、ゲートの均衡が崩れ狂暴化したとみられる


 第四皇女がエボルウイルス感染者に襲われかける

 このことやその他の情報から、エボルウイルスは感情の高まりによって暴走すると推測される


「ピース」の蓄積により、「ピースキーパー」の隊員一名が怪物化

 他の隊員も怪物化する可能性が高い

 早急な対策を求む













 [国家公式発表]


 エボルウイルス沈静化

 ゲート封印












 菖蒲の月 Ma日 雨


 どうやら、俺は怪物になってしまったらしい

 というのも、昨日の記憶が全くないので実感は全くないのだが

 いや、そんなものの実感なんてあってたまるか


 目が覚めたときには、ぼろきれの子が枕元でうとうとしていた

 頭が回らず、体も動かせないのでぼーとその子を見ていた

 しばらくすると、その子が起きて、ゆっくりと事の顛末を話してくれた



 俺は、「ピース」のせいで化け物になってしまったらしい

 魔物との戦いのたびにピースを使用してピースキーパーになってきた俺の体には、大量のピースがたまっていた

 このピースは、エボルウイルスを抑制する効果があるらしく、そのおかげか俺はエボルウイルスによる狂暴化はしなかった

 しかし、ピースの量が俺の体の限界値を超えてしまい、自我を失ってしまった

 町中で俺が暴れていたところを、ぼろきれの子が捕まえて家まで連れてきてくれたらしい


 なぜ、彼女がそんなことを知っているかというと、彼女は何百年も前の時代の人なんだそうだ

 彼女がいた時代にも、今とほとんど同じような事件が起きていた


 異世界から魔物がやってきて、勇者達がそれを倒すということが


 彼女は、奇しくも俺と同じように、勇者達の戦闘のサポートや、後処理を行っていた

 魔物を全て倒し魔物がやってくるゲートを封印するときに、事故で彼女の体も一緒に封印されてしまい、それから残留思念として何百年という長い時間を過ごしていた


 そして、現代になってゲートの封印が解けたことによって彼女も解放された



 ということらしい


 現代に来て、急に封印が解かれたので行く当てもなくふらふらしていたときに俺を見つけ、俺をつけたり、時には俺と接触しようとアプローチしてきていたのだそうだ


 なぜそんなことをしたかというと、だいぶ前から俺が怪物になってしまうことがわかっていたそうだ


 昔、勇者のサポートをしていただけあってそこそこ戦闘もできるし、人と人ならざる物の区別も一目見ただけでわかるようになってしまったらしい

 俺が怪物になって完全に自我を失う前から、俺の中に蓄積されていたピースに気づいていたと言うことだ


 自分でもかなり突飛なことだとは思う


 こんな話、普段なら絶対信じないのだが、事実として自分が怪物になってしまっているし、今現在ではこれ以外の情報がない

 彼女が言うには、元の姿に戻る方法もあるようだし、彼女の言うことをとりあえずは信じてみるしかなさそうだ



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 菖蒲の月 Ju日 雨


 普段の感覚で外出してみたら、俺の言葉が他の人に全く伝わらなかった

 見た目は服装とかでごまかせても、中身まではごまかせないようだ

 ぼろきれの子にだけは俺の意思が通じるようなので、他の人間に何か伝えるには彼女を介する必要があるようだ


 いちいちなにか言い返してくるのはめんどくさいが、こればっかりはどうしようもない



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 菖蒲の月 Sa日 雨


 確実に感染しているであろう近隣住民への、エボルウイルスのワクチン供給が済んだそうだ

 これで、エボルウイルスについては一段落しそうだ


 だが、まだ安心できるわけではない

 ぼろきれの子が言うには、俺だけでなく、他のピースキーパーの隊員達も怪物になる可能性はかなり高いそうだ

 エボルウイルス感染者に比べれば数は圧倒的に少ないが、「ピース」によって怪物になってしまった場合、その対処はかなりやっかいだ


 今現状では、人間の体内に入り込んだピースを取り除けるのは、他の人間に入り込んだピースのみ、らしい

 人の体内にいたピースは、他の人間の体内に行くと、環境に適応出来ず、なんとか生き残ろうと元からいたピースを食べるのだが、元からいたピースがなくなると、栄養源を失って死滅するらしい


 この仕組みで、怪物になってしまった人を元に戻せるのだが、ピースが体内にある人間は、俺以外は全員いつ怪物になって暴れ出してしまうかわからないので、安全に他のみんなを元にもどせるのは現状俺だけだということらしい


 ぼろきれの子が言うには、もう少し情報を集めたり俺の調子が良くなったら、怪物になってしまった人達を元に戻すことを始めるらしい


 といっても、主に動くのは俺のようだが


 しかし彼女は命の恩人だし、ピースキーパーも俺をにとっては大切な物だ

 全力で取り組もうと思う



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 菖蒲の月 Ur日 雨


 そういえば、なぜ俺は怪物になってしまったのに今は自我を保っていられているのか、ふと気になってぼろきれの子に聞いてみた

 すると、かなり複雑でわかりにくい回答が帰ってきた


 半分も理解出来なかったが、なんとなくわかったことは


 俺が怪物になってすぐに彼女が発見してくれたことが幸いして、彼女が俺の脳にまではピースが浸食しないよう処置してくれた


 ということらしい


 改めて、彼女が俺の命の恩人だということがわかった

 彼女に処置してもらっていなかったら今頃、俺はとっくにピースに完全に乗っ取られていたことだろう


 いちいち生意気につっかかってくるのは面倒くさいが



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 菖蒲の月 Me日 雨


 ぼろきれの子が言っていたようについに他のピースキーパーの退院にも怪物になってしまった人が出たらしい


 ニュースになっていた


 俺の体はもう治ったと思うのだが、助けにいこうと言ったら、ぼろきれの子にまだ安静にしていろと言われてしまった


 力になれないのがもどかしい



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 菖蒲の月 Ve日 雨のち晴れ


 ぼろきれの子に、もう動いて良いと言われた

 それと同時に、明日から怪物になってしまったピースキーパーの隊員達を元に戻す治療を開始するそうだ


 なんでも、隊員らに不信感が募っていった結果、既にピースキーパー自体がほとんど組織としての機能を失っているらしく、怪物になってしまった隊員にも逃げ出されてしまっているらしい

 太陽が昇ればピースは活発になって、それに伴って怪物化した隊員も暴れ出すらしいので、そこを見つけて治療するのだそうだ


 はやくピースを全滅させて、全員を無事に元に戻してあげたい




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 菖蒲の月 Ea日 晴れ


 ぼろきれの子のいうとおり、俺の体の中にあるピースを少し抜き出した物を注射して、怪物になってしまっていた隊員達を無事に元に戻すことが出来た


 しかし、既に三人もの隊員が怪物になっていたのには驚いた

 今後はもっとハイペースで治療をしていかなければならなくなるかもしれない


 なぜかしらないが、ぼろきれの子が今日はかなりテンションが高かった

 なにか良いことでもあったのだろうか




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 菖蒲の月 2Ma日 晴れ


 今日は十人もの隊員を治療することができた

 なぜ、こんなに上手くいったのかというと、ピースキーパーの主動隊のエースだった人が、怪物になってしまった隊員と戦っているところを見つけたからだ

 彼にはなぜかまだ国の役員がサポートに回っていた

 彼には怪物化の危険性はないのだろうか


 事情はわからないが、彼らについて行くことで、すぐに怪物化した隊員達に遭遇することが出来た

 彼らは治療の仕方はわからないようで、戦うだけ戦って毎回逃げられてしまっていた

 そこを俺たちが捕まえて治療してやることで、今日は多くの隊員を元に戻すことが出来た


 もう少し時間がかかると思っていたが、この調子でいけば明日にでも残りの全ての隊員を元に戻せるかもしれない


 俺をどうするか、と言う問題は残っているが




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 菖蒲の月 2Ju日 晴れ


 残りの隊員を全員元に戻すことができた

 昨日と同じように、主動隊のエースの人らの後についていき、治療を行った


 あとは、俺と、エースの人の中にあるピースを取り除けばそれで終わりだ

 ぼろきれの子の調べによると、エースの人は、ピースと相性が良すぎるせいで、ピースの力を強く発揮できる代わりに、一回の戦闘で体内のピースが全てなくなってしまう、という体質らしい

 なので、彼のピースで俺の中のピースを死滅させてもらえば万事解解決するようだ

 戦闘の最中で、彼の血液を少しでも入手出来ればそこから俺のピースを死滅させる物が作れる

 それを俺に注射して終わり、ということだ


 長いようでもあり、また短いようでもあった日々だった


 しかし、ぼろきれの子はなぜか歯切れの悪い様子だった

 なにか問題でもあったのだろうか


 聞いても何も教えてくれないのが余計に気になる

 心配だ




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 菖蒲の月 2Sa日 曇り


 ついに、俺も人間に戻ることが出来た

 人間でいれることをこれほど嬉しく思うことも今後ないだろう、と思うほどに嬉しかった


 しかし、一つ大きな問題が残ってしまった

 このままでは、ぼろきれの子はもうすぐ消えてしまうらしい


 ぼろきれの子は、もともと何百年も前の人なので、精神を強引に身体につなぎ合わせて、人のような姿を保っているらしい

 ほとんど死んでいるような状態と同じらしく、今まで活動できていたのは、ゲートのおかげらしい

 彼女の身体は、長い間ゲートとともに封印されていたことで、半分くらいゲートと同化しているらしい

 ゲートが物を転送させるときに発する膨大なエネルギーの余波が、彼女が活動するためのものだった

 エボルウイルスがあったときや、更にその前の魔物がいた時には、ゲートから魔物が来たり、ゲートを通してエボルウイルス関係の物を宇宙空間に捨てたりして、ゲートが使用されていた

 しかし、エボルウイルスのワクチンが供給されてからは、ゲートが使われる事もほとんどなくなり、国によってまたゲートが封印されたので、彼女が活動するためのエネルギーが受け取れなくなってしまったのだという


 彼女の身体からも、小さなゲートを発生させることが出来るらしく、ピースキーパーの隊員達が怪物化していたときには、ピースの死骸を宇宙空間に飛ばすことでエネルギーを得ていた


 それが、転送する物が完全になくなってしまったいま、彼女は活動するためのエネルギーが得られず、今残っているエネルギーを使い果たしてしまったら、身体が動かせなくなり、つなぎ合わされている精神も連動して失われ、身体も心も失って死んでしまうのとほぼ同じ状態になってしまうようだ


 なんとかして、生き長らえさせる方法はないのだろうか

 彼女はもう諦めているような口調だったが、表情や仕草からは消えてしまうことへの恐怖心があることははっきりとわかる

 それに、俺自身が彼女にお礼がしたりない

 彼女には、何度も助けられ、返しきれないほどの恩がある

 今度は俺が彼女を救う番だ


 なんとしてでも、彼女を救ってみせる



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 菖蒲の月 2Ur日 曇り


 インターネットや、本など様々な物を使って調べてみたが、解決の糸口が全くつかめない

 時間がない

 はやく手がかりをつかまなければ



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 菖蒲の月 2Me日 曇りのち雨


 今日は、俺の誕生日会を、大家さんとぼろきれの子がしてくれた

 忙しくて自分の誕生日など忘れてしまっていたから、家に帰ってきたときに二人がサプライズでしかけてくれたことで思い出した

 なんでも、ぼろきれの子が俺の部屋の持ち物から知って言い出したそうだ

 自分が消えてしまいそうなときにそんなことを、と思ったが喜んで受け取るほうが彼女のためになると思い、三人で楽しく過ごした


 そしてここからが重要なことだ

 誕生日会が終わった後に、大家さんに話がしたいと呼び出された

 大家さん曰く、ぼろきれの子を救う方法が一つだけあるらしい

 しかしそれは、かなり大変なことで、よく考えて決断してほしい、と言われた


 それは確かに、とても大変なことだった

 今の自分の生活を捨て、彼女に一生付き添って、それでもいつまで生きられるかわからない、賭けのような方法だった


 しかし、俺の心は既に決まっていた

 考えるまでもない

 せっかくの恩を返せるチャンス、しかも、これを逃したら今後一生恩が返せないわけだ


 いや、そうじゃない

 恩とか、お返しとか、そういう話じゃなかった


 単純なことだった


 俺が、彼女と一緒にいたかった

 ただ一緒にいれるだけで、俺の心を満たしてくれる、俺を笑顔にしてくれる彼女と、出来るだけ長くいっしょにいたい


 決心はついた


 ただ生きながらえさせるだけじゃない


 俺が、彼女を幸せにするんだ



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 菖蒲の月 2Ve日 晴れ


 旅の仕度は出来た


 俺は、彼女と一緒に、これから世界中を旅する


 大家さんから聞いた話では、この国ではエボルウイルスはなくなったが、他の国にも少量ではあるが広範囲にエボルウイルスが流出しているという

 それを、回収していけば、彼女の活動するためのエネルギーが得られると言うわけだ


 二人だけの旅だ

 しかも、この国に戻ってくることはほとんどなく、また、どこかに定住すると言うこともない


 厳しい旅になるだろう

 それでも、俺は彼女のためにやると決めた


 彼女のためなら、どんな困難でも乗り越えられる

 彼女がいれば、どんなことでも耐えられる


 この日記帳は置いていこうと思う

 戻ってくることはないだろうが、大家さんがこの部屋はとっておいてくれるといっていたし、何より彼女に内容をみられるのは恥ずかしすぎる


 留守番は頼んだぞ


 さぁ、彼女との楽しい旅のはじまりだ











 出発直前に、日記の内容を彼女に内容を見られてしまった

 恥ずかしすぎる


 大家さんにまで見られるのは耐えられないのでこの日記帳は持って行くことにする


 恥ずかしすぎるが、彼女、僕になんて物を見せるんだ、といって恥ずかしがっていたのでいいか


 いやなにもよくないが



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「いまいちですね、絵本にするにはもう少し躍動感がほしいです」

「やっぱりだめですか」

「構想自体はなかなか面白いとは思うんですけどねぇ、少し突飛過ぎるのと、オチが弱いですね」

「そう……ですかねぇ」

「じゃ、もう少しがんばってくださーい」


 ネタに困ったからといって一族に伝わる伝承を脚本にするのは間違いだったか。

 妙齢の女性はそう呟きつつ、机の上の脚本の原稿をしまい、引き出しの中から㊙と書かれた報告書をとりだした。

 うしろで乱暴に扉が開け放たれ、部屋の中に冷気が入り込む。


「姉さん、メシあるぅ?」

「こんな時間に食べるの? 一応用意はしてあるけれど」

「配信が長引いちゃって今日まだなにも食べてないからいいもーん」


 そういって上半身だけ着飾った女性はお盆におかずを乱雑にのせ、古くなった廊下を軋ませながら部屋へ戻っていった。


「ウイルスの一件で懲りたかと思ったのだけれど、全然変わってないようね」


 妙齢の女性はため息をつきながら、報告書をすらすらと書き上げていく。


「絵描きさんが伝承の当時者だったのはこの荘にいたことから納得出来るけれど、エボルウイルス以外にもゲートから世界中に散っていったものがあったなんて気づかなかった、さすが異星人といったところかしら」


 報告書の締めに仰々しい肩書きと王位継承順位を記入し、封筒にまとめられていた写真や書類を眺める。

 一つはパンフレットになっていて、少し前までここに住んでいた一家が温泉旅館の前に並んで写っていた。


「ゲートの影響で元の家が住めなくなっていたのは気の毒だったけれど、隕石の影響でそこから温泉が湧いてきていたのは、幸運というかなんというか」


 もう一つはピースキーパー隊員の経過観察書で、この荘に住んでいた二人のうち女性には有名私立大学校の進路先が記入されている。


「私たちは祖先のしがらみで一族から疎遠になっているとはいえ、彼女らはもともと無関係なのに巻き込んでしまったからね」


 最後に、ボロボロのエアメールに入った写真を手に取る。


「彼らは元気にしているかしら?」

 写真には、外国の砂浜に青年と少女が笑顔で並んでいた。

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