第7話 げんじつはせちがらい
あぁあ。現実世界に戻されてしまった。
せっかく箱庭が楽しくなってきたのに。
ちくせう。
15分は少ないだろ。
あと最後のポイントのあたりは絶対わざと言わなかっただろ。
トリアさんめ。
ーはい。なんでしょうか?
って、いるんかい!
ー箱庭が解放されたので、多少現実世界に戻った神のお手伝いが出来るようになっております。
ふむふむ?そこも僕のスキルのうちってことか。本来、スキルは現実で使えるものだとは思うけど、魔法が一切使えない僕としてはスキルは大いに活用したいな。でも、トリアさんはチュートリアルが終わったらいなくなっちゃうんでしょ?
ー元々の設定でしたらチュートリアル完了後に消滅する予定でした。
ん?なんでそんな含んだ言い方?
ー箱庭の中で、トリアさんという名前を頂いたのでそういう存在として固定されました。
おっと。それは怪我の功名。じゃあ、これからもずっと一緒にいられるんだね。
ーはい。これからもお仕え致します。
だったらそのうち身体も作ってあげなきゃいけないかな。
男の人と女の人どっちがいい?
ーぜひ女性でお願い致します!
強めにくるね。良くわかんないけど、いいよ。でもまだどうせレベルが足りないって言うんでしょ。
ーそうですね。ホムンクルスを創るにはまだしばらく・・・
ホムンクルスなの??ゴーレムの方が早く創れるんじゃ。
ーホムンクルスでお願いします!!
おっふ。何かこだわりがあるのか。
ー必ずホムンクルスでお願い致します!
わかった。わかったから。これからもよろしくね。
ーそれでは、妖精も開放されましたので、私もマスターとお呼びしても宜しいでしょうか?
良いよ。好きに呼んで。
ーはい。マスター。おや、どうやら人間が2人この部屋に近づいてくるようです。
多分父上と乳母じゃない?
ーそのようです。
ゆっくり部屋の扉が開き、2人が入ってきた。
「イシュ、待たせたね。乳母を連れてきたよ」
「あー」
なるべく声を潜めて会話をする。
乳母に向かって、さあ抱っこしろと言わんばかりの態度で手を広げると、乳母は僕を抱き上げる。
ベッドの隣の部屋へ行き、母に配慮して乳母は僕におっぱいをくれる。
「坊ちゃんは賢いですね」
乳を出した乳母と一緒にいる訳にはいかず、部屋を後にしようとした父に乳母が話しかけた。
「そうだろうそうだろう。イシュはとても賢い。天才なんだ」
顔は逸らしながら、親バカ全開になる。
多分、すごいニヤニヤしてるんだろうな。声が物語ってる。
「坊ちゃんは全然泣かないし、こっちがそろそろお腹空いたかなと思って近づくと、待っていたかのように手を広げて抱き上げられ、片乳飲んで出なくなったら、まるで反対側にしろと言うように口を離してからトントンされ、満足したら、もういらないと押しやられて。マチネさんに最低限のお世話で良いと言われましたが、オムツ交換でさえも、こちらから交換しないと泣かないので、気づかないのです」
いや、最近はちゃんとオムツ交換アピールしてるぞ。かぶれるから。泣いて知らせてるわけじゃないけど
「ご主人様のおかげで通いのにさせて頂いてますが、夜は別の人がちゃんといるんでしょうか?私がこの部屋に入れるのは2時間に1回でそれでもマチネさんから多いと言われ、先日は余計なことはするなと怒られました。まだ生後間もない赤ちゃんにそれはどうなのでしょう?自分の子はもう1歳をすぎましたので、母と夫が見てくれるそうです。ご主人様どうか私を住み込みにして頂けないでしょうか。」
静かに話を聞いていた父は、いつの間にかこちらを凝視している。
「・・・その話は本当か?」
「はい。お坊ちゃまが心配なのです。どうか住み込みに・・・」
「違う。マチネのことだ」
どこか様子がおかしい父が、自分に怒っていると思い、乳母は震えだした。
「申し訳ございません」
「私はマチネのことを聞いているんだ」
「嘘偽りはございません」
声も震え聞き取り辛いほど小さくなったが、間違いないと言った。
「なんてことだ。そこまでとは」
父は天を仰ぎ、自分の不甲斐なさに怒りを通り越して呆れた。
「あの、ご主人様?」
「君の申し出は有難く検討しよう。私は夜間専門の乳母をもう1人雇ったはずなのに、君の言う様子だとどうやら居ないようだ。そして、どうか昼間はずっとこの子に付いていてくれるかい?」
「は、はい。もちろんです」
「あなた。私たちあの女に騙されていたみたいね」
「奥様!!」
いつの間にか起きてしっかり聞いていたようだ。母よ。隠密スキルでもあるのか?
「ああ。起こしてしまってすまない。メイリーン」
「これであの女を追い落とせるわね」
そっと父に身を寄せる母。
子供の前であんまりイチャイチャするな。
「いや、このままだと氷山の一角だ。トカゲの尻尾切りをされてお終いだろう。今日中に何とかして全員叩き出さなければ」
「叩き出して終わり?」
「まさか、私の可愛いイシュにしてくれたお礼をきっちりしなきゃね」
「私も手伝うわ」
「これは当主の仕事だよ。君はゆっくり休んでいてくれ。それか1日イシュと遊んでいてくれ」
「それは魅力的なお誘いね。じゃあ、そうしましょ」
「今日は忙しくなるな」
oh。なんか色々大変な予感
僕はそろそろ寝るぞ。お腹いっぱいだし。
もう限界でうつらうつらしてる。
「イシュはおねむみたいね」
「そうだな」
「あなたお名前は?」
急に思い出したかのように、乳母に向かって名前を聞いている母。
「サラでございます」
「そう。サラ。イシュを心配してくれてありがとう。しばらく私この子と寝るから、夜は帰りなさい。ついでに今からもうちょっと寝るわ」
「じゃあ、私は仕事に行ってくるからイシュは頼んだよ」
「ええ。行ってらっしゃいあなた」
軽くキスをし、父は部屋を出て行く。
「さて、まだ夜明けまで時間はあるわ。あなたも使用人用の部屋があるでしょう?少し休みなさい」
「ありがとうございます」
すっかり寝入ってしまった僕は、母に抱っこされてベッドのある寝室で母と一緒に寝る。
そして、1人仕事に向かう父が
「それにしても、戻ってからイシュの周りに魔法の気配があったけど、イシュは今、魔力が使えないはずだよなぁ」
1人つぶやく父の言葉に返事をするものはいないのだった。
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