第2話 ぼくのなまえは(生後2~6か月)
僕の名前はイシュクラフト。転生して、大きな屋敷?に住んでいる。
とは言っても、生まれた瞬間に前世のことが浮かんできて頭の整理をするのに一週間位かかった。今は現状把握に努めている。有難いことに、この国の言葉は最初から理解できたのが大きい。
そして0歳児スタートは中々辛いものがある。まず身体は動かせないし、乳児は視力が弱い為ぼんやりしか見えない。
真っ黒なもの(多分メイドか乳母)に抱かれて、口に突っ込まれたおそらくおっぱいでお腹が満たされてしまうと、すぐに眠くなるので、中々現状が掴めないのが困ったが、やっと先ほど自分の名前がわかった。僕の周りにいる人はそこまでおしゃべりではないようなので、本当に困る。もう少し話しかけてくれないと情操教育に悪いと思うんだが・・・
そして、やっと自分の名前がわかったのだが、多分初めて母が僕の居る部屋に来て名前を教えてくれたのだ。
この2か月というものの中々親らしき人がいなかったので、やっと現状がわかった。
母は、僕を産んでから体調を崩していたらしい。そして、やっと元気になったので、僕の顔を見にきたと言っていた。お付きのメイドらしき人が、まだ体調が回復されたばかりなので母に僕を抱っこするのは控えるように言っていたが母はかなり駄々を捏ねていた。子供か?でも声からするとかなり少女のような声だったので若くして結婚出産したのではないかと思う。僕のベッドの上から覗き込まれたときは、視力のせいか鼻と目がかろうじて分かる程度だったので、もう少ししてからの楽しみにとっておこう。
母の顔がわかれば僕がどの程度の顔なのか予想ができる。イケメンだったらいいなぁ。
そして、今まで一度も会ったことがない父は、どうやら仕事で泊まり込みも多く帰ってきても夜中で、早朝には出かけてしまうらしい。夜中に僕の顔を見に来たりはしているようで、愛されていないわけではないらしい。それより父の勤務形態が心配だ。かなりのブラックじゃないか?休みが無さそうなんだけど。まあとりあえず、メイドやら乳母がいる時点で貧乏では無さそうで安心している。
最近落ち着いてきたこともあり、もしかして魔法がある世界かもしれないと思い、自分の中にある魔力を探っているのだが、どうやらそういったものは無さそうだ。非常に残念。
そして、母が週に1回程度僕の下に訪れるようになってからしばらくたって、そろそろ生後半年にかかろうとしたときのことだった。
「イシュクラフトちゃん、今日もママが来ましたよ~」
この呑気に声をかけてきたのが母だ。目が紫で髪が銀髪。目鼻立ちがはっきりしてて多分美人。ちょっとまだ視力が弱くてはっきりとは見えないのが残念。
「奥様、乳母がついておりますので奥様がここまで訪問しなくても大丈夫でございますよ」
そして、この意地悪そうなのが母の世話係マチネだ。
って、週に1回しか来てないのにここまで訪問しなくていいってどういうこと?つーか普通の乳児なら週1訪問だと顔もなにも忘れるぞ。
「マチネ、私は母です。自分の子供の面倒を見るのが当たり前。こちらにお嫁に来たのだからなるべく家のしきたりには従います。けれど、可愛い子供とずっと引き離されているのは我慢なりません」
泰然とマチネに言い張る母を見て、少し感動した。ただのゆるふわな頭の弱い母ではなかった。
「子供が可愛いというのでしたら、次の子を早く産んでいただければよろしいでしょう」
「何ということを言うのマチネ!!」
「奥様はまだ全快されておりませんので、そんな魔力の無い子に時間を割くのではなく体調を早く整えて頂いて次代の辺境伯を継げる魔力の高い御子を」
はい?魔力の高い子?え?魔法がこの世界にあるの!?
つーか、何となくわかってたけど、やっぱり疎まれていたのか。それがまさか魔力を持っていないからとは。
そして辺境伯の子供だったのか僕は。
「辺境伯家のしきたりで、子供には専用の乳母を付け教育を行うのは承知しましたが、私はそんな子供に優劣をつける気はありません。それに体調を考慮して週に1度の訪問も貴方のそんな考えからきたことなら、私は毎日イシュクラフトに会いに来ます」
母どうやら静かに怒っている模様。僕を抱き上げるのはいいけど、精神安定剤に使ってない?
ちょっと抱きしめる力が強くなってきた。
「奥様は子爵家から来られたからご存じないのかもしれませんが、大奥様は王家よりいらっしゃった方でしたので、ご主人様がお小さかった頃は月に1度の訪問で5歳を超えてからは年に1度のお茶会程度でした。1度の出産で魔力の高いご主人様がお生まれでしたので、それはそれは大切にお育て致しました」
それはつまり、子爵令嬢の母は最初の子供で魔力の高い子が生まれなかった出来損ないで、魔力を高い子を産む道具だから、魔力の無い子は捨て置けってことか。
「貴方の考えは分かりました。しかしそれは旦那様が仰っていたこととは違います。旦那様は子供の頃、寂しい思いをされていたの。だから、私たちは愛情を持ってできるだけこの子と触れ合って育てましょうと約束したわ。その旦那様の意見をも覆そうとする貴方の事は私から旦那様に伝えます」
おおう。初めて教育方針聞いた。母上がんばれー
「お待ちください。これは辺境伯家のしきたりです。大奥様もそう仰っております」
「マチネ、貴方の主人は誰だか忘れたの?」
「ご主人様は若様にございます」
「そう・・・もういいわ。貴方は外して頂戴」
マチネは軽く礼をし、部屋を出ていく。
話しを聞く限り、どうやらマチネは大奥様(祖母)の手下っぽいな。父は軽んじられてる気がする。そして、母はもっと下に見られてるってことか。やっぱり、金と権力がある家は大変だなぁ。母よ僕は味方だぞ。あと、もし放置されても、食事さえ何とかなれば他はどうにかするから、気にするな。
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