第3話 あなたはだぁれ
母は僕の頬に軽くキスをして、部屋を出ていった。いつもなら、もうちょっとほっぺプニプニしたり色々喋って帰っていくけど、今日はね。しょうがない。
まだ生後半年の僕はまだ喋れないし、あーとかうーとかしか言えないのがもどかしい。声帯がもう少し発達しないとね。
にしても、やっと自分の背景がわかってきたな。僕は辺境伯の息子で、魔力が無いせいで家臣からは疎まれている。母は子爵家の出で、父とは結構身分差があるせいで母も疎まれている。父についてはあまりよくわからないが、母の言う限りだといい人そう。まあ、内心で何を考えているかとかは分からないけど。
あんまり政略的なことはわかんないから穏便に過ごしていきたい。やっぱり異世界転生したらスローライフが良かったんだけどなぁ。
あと、魔力がどうのってことは魔法があるってこと。チートは無理かもしれないけど、ちょっと魔法頑張ってみよう。やっぱり小さなころからやれば大きくなった時に有利だよね。
・・・全然ダメだ。
魔力がどこにあるのかわからない。心の中で魔法名を唱えてみても、イメージしてみても魔法は現れない。
しょうがないから気長にいくか。
いつの間にか疲れて寝てしまったらしい。外が真っ暗だ。
今日は月がよく見える。ふと、月の明かりが何かに遮られた。
そこには人影らしきものが。
うおっ。びっくりした。まだ視力が弱いからよく見えないけど、誰かいるな。
あれ?暗殺しにきた人とかじゃないよね。怖いけどちょっと声をかけてみるか。
「うー」
「イシュクラフト、起きているのか?」
ゆっくり近づいてきたのは男の人。怖い感じはしないから、暗殺ではないか。
「イシュ、すまない。」
僕をそっと撫でてくる。おや?もしや父か?夜中に来るという噂の。
「あーー」
父ならちょっとサービスしてやろう。赤ちゃんの笑顔だぞ。
性分ではないが、キャッキャッして笑ったら、イチコロだろう。ここはあざとくいこう。
「イシュクラフト、パパだぞ。わかるのか?可愛いな。ほら、いないいなーい、ばあっ!」
自分でパパと呼ぶ人に悪い人はいない。というか、そこはかとなく親バカか?
しょうがない。笑ってやろう。
「あぶぅぅ」
「お。楽しいか?もう一回いないいないばあっ!」
とりあえずキャッキャッしとけばいいだろ。
「あぁー。ぱぁっ」
「そうだぞ。パパだぞ。イシュは賢いな。もうパパだってわかるのか」
いやいや、この月齢でパパは言えない。偶然の産物だよ。
ま、頑張れば、ぱ行はいけるか?
「ぱぁ!」
「すごいぞ!天才か?」
これで、入ってきたときのしんみりした感じは無くなったな。子供の前くらいは笑って過ごせ、父よ。
「こうしちゃいられない、ちょっと待ってなさい。イシュ」
慌てて部屋を出ていく父。
どうした父、そんなに慌てて。こんな真夜中に。
全く良くわからないがとりあえず、初めて父に会えた。嫌われている訳ではなかったらしい。母の夜中に見に来てるよ~っていうのは本当だった。顔は暗くて分からなかったが、多分髪は緑かな。
身長もだいぶ高そうだ。母や乳母たちに抱かれている高さと違って大分高度があった。
にしても、ベッドをそろそろ柵付にしないと危ないんじゃないか?寝返りしだしたら落ちて怪我するぞ。
意外と近代でも、ベッドからの転倒で怪我や死亡なんて事故結構あったみたいだし。基本は親の不注意で柵の無いベッドに寝かして落ちたなんて目も当てられん。最近、寝返りの練習してるんだからな。こっそり。
もうすぐできそうなんだ。もうすぐ。なんて考えていたら眠くなってきた。
うつらうつらしていたら、廊下からドタドタと物音が聞こえてきて、勢いよく扉が開いた。
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