21のサプライズ

ちえ。

第1話

 同じ屋根の下で暮らし、同じ「南井みない」の姓を掲げ、物心ついた時からずっと一緒に過ごしてきた沙帆すなほと俺、京一きょういちは、来週誕生日を迎える。


 俺たちは双子と思われがちであるが従兄妹だ。俺の方が2時間年上らしい。

 俺と沙帆の母は姉妹で、二人ともシングルマザー。母たちに何があったのかは聞けない。俺にも沙帆にも父はいないけど、母が二人いる環境で育ってきた。二人の母に凄まれるというのは寿命が縮まる思いだった。


 小さい頃は、俺をお兄ちゃんと慕う沙帆は可愛い妹だった。

 それから仲のいいタッグへ成長し、小学校の生徒会選挙でバトルをしたりとかライバル関係も楽しんだ。

 初めて制服を着た時に、男と女はこんなにも違うのかと思い知って。

 同じ制服の女子に混ざった沙帆が、特別可愛く見える事に気がついた。


 その「可愛い」が昔と違うと気付いたのはそれからすぐで。

 沙帆を好きでなかった事は一度もないのに、この「好き」は特別な意味だと。不意に騒ぐ鼓動や、馬鹿みたいな浮遊感とか、絞られるような煩悶に一つ一つ教えられた。


 その好きを積み重ねて、もう何年が過ぎたのか。

 俺たちは一週間後に21歳になる。

 同じ大学にも通って、ずっと当たり前のように側にいたけど。

 この先もう長く続かないという予感が迫っていた。


 あと何回一緒に祝えるのかわからない二人の誕生日。

 来年はもう一緒にいない可能性だってある。

 だから今年の誕生日は思い出に残るように。

 沙帆を驚かせて、最高に笑顔にしたいと思った。



 今まで誕生日にまともにお祝いをしたことがない。

 なにせ俺と沙帆、両方の誕生日だったから。ぼんやり誕生日と思い出してコンビニのケーキを付け加えるくらいで。

 どんな事をしたらいいんだろう。


 沙帆の好きなものを考えた。

 サプライズはきっと嫌いじゃない。だから何でも喜んで受け取ってくれると思う。


 沙帆は甘いものに目がない。お気に入りの店でケーキを調達しよう。チーズ系も好きだけどタルトも好きなんだよな。あれもこれも好きって言うから絞れない。そうだ、色んな種類を並べたら喜ぶかな。


 飲み物は…俺は甘いものにはブラックコーヒー。沙帆は紅茶かもしれない。でも、いつもお互いに一口から始まりどっちも好きに飲んでしまう。これは結局は両方好きって事だよな。


 食事なんかは、母たちが俺らの好きなものを用意してくれる。俺に準備できるのはこんなものか?

 他に沙帆を喜ばせるもの。…考えてはっと気づく。

 誕生日プレゼントを忘れていた。



 いつもはプレゼントなんて…。

 ふと視線が昔から使っている机の上に向いた。

 使い古しても捨てられないペンケース。変な装飾の時計。昔好きだったアニメのデフォルメフィギア。

 統一感がない俺のお気に入りたちは、春に沙帆から貰ったものだった。

 ……これは、誕生日プレゼントだったのか?

 思わず胸が騒いで、くすぐったさにぎゅっと手で押さえつけた。

 そして同時にもう一つ気づく。俺は無意識で、沙帆がくれたものが好きだったみたいだ。



 沙帆は何が好きなんだろう。


 沙帆の部屋はシンプルだった。

 ブルーやグリーンのクッション。俺とおそろいの机の上は綺麗に整頓されていて。物持ちがいいガラクタは箱の中。

 昔集めてた食玩やガチャのアクセサリー。青い石がお気に入りだったけど、今でもそういうのが好きなんだろうか。

 ああ、それなら。玩具じゃないアクセサリーだって、今はプレゼントできる。

 これは行きすぎ?……でもいいや。沙帆が喜んでくれるなら。



 沙帆の「好き」をたくさん考えて、沙帆を好きな想いを噛みしめて。

 誕生日までを沙帆へのサプライズへと費やした。

 そんなのは生まれて初めてで。

 折々にバレないかドキドキして。これで良いのかソワソワ思い直して。

 そうして迎えた当日、緊張でバクバクしながら沙帆を俺の部屋に導く。


 目の前には、沙帆が好きなケーキと、コーヒーに紅茶。

 それから出来合いのプチブーケと、青い包みのプレゼント。


 沙帆は目を丸くして、はしゃいで、顔中で笑った。


「ありがとう、嬉しい!」


 その笑顔が何よりも俺の好きなもので。ちっぽけなサプライズでも喜んでくれた沙帆に嬉しくなる。


「わぁ、すごい!」

 包みを開いて現れた小さな青い雫のネックレス。

 じんわりと涙まで浮かべて、うっとりとネックレスを見つめている沙帆の姿に、満ち足りた。

 いつか離れたって、少しは覚えててくれるだろ。これだけ特別な日だったら。

 達成感でいっぱいで得意気になって笑った。

 大好きな沙帆の事を考えて準備した甲斐があった。



「お前が好きな……」

 ―――もの、たくさん考えたんだけど。


 真っ赤に染まって俺を見つめる沙帆と目が合ったなら、胸の中が急に燃え上がった。

 絡んだ視線の間に、心音が鳴り響く。この甘く狂おしい空気の中で。


「お前が、好きだから」


 21回目でようやく言葉になった。



 沙帆は、今までのどんな顔よりもとびきり可愛く笑って。

 飛びついて俺の唇に唇を重ねる。


 21回目の誕生日。

 忘れられないサプライズプレゼント勝負は、確実に俺の完敗で幕を下ろした。

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21のサプライズ ちえ。 @chiesabu

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