21回目の告白

さばりん

21回目の告白

「戸田さん! 俺と付き合ってください!」


 俺、平井敬斗ひらいけいとは、西日が沈む学校の屋上に意中の女の子を呼び出して、告白の言葉を述べていた。

 肩まで伸ばした茶色の髪を手で捲し上げて、その女の子は俺に飽きれた視線を注いでくる。


「はぁ……あんた、これで何回目か分かってるの?」

「21回目だけど」

「分かってるのが余計にたちが悪いわね……」


 呆れを通り越して、既に告白されることは諦めているらしい。

 そう、見ての通り、俺は目の前にいるクラスメイトの戸田渚とだなぎさちゃんに、21回目の告白を実行していた。

 半年間、振られ続けること20回。

 初めての出会いは、新学期初日の教室でのこと。

 俺が席に座った時、出席番号が一つ前だった戸田さんが、くるりと俺の方へ身体を向けてきたのだ。


「えっと、平井くん……だよね?」

「えっ? あっ、うん……」

「私は戸田渚。よろしくね……」


 小首を傾げて、俺を潤んだ瞳で見据えてくる愛くるしい表情。

 華奢な身体に、時々みせる笑顔。

 庇護欲をそそるような愛おしさ。

 俺はこの時、一瞬にして彼女の虜になってしまった。

 言ってしまえば一目ぼれである。

 それから一週間後、俺は戸田さんを放課後の屋上に呼び出して、早くも一回目の告白を実行した。

 結果はもちろん玉砕。

 しかし、俺はこの出会いを絶対に無駄にしたくないと思った。

 振られてからも、クラスで積極的に話しかけ、戸田さんの趣味や気の合う話などして、とにかくアプローチをとにかくかけまくった。

 戸田さんからは気持ち悪いと思われていたことだろう。

 それ以降も、少しでも仲良くなったと思えば、戸田さんを屋上に呼び出しては告白して振られるというのを繰り返し。

 春を過ぎて、新緑の日も、梅雨の雨の日は、屋上の階段の踊り場で好意を伝えた。

 そして気がつけば、紅葉彩る秋へと季節は移り変わり。

 敬斗はこうして21回目の告白に挑んでいたのだが……。

 今回も、戸田さんの感触はあまりよろしくない

 やっぱり今回もダメか……。

 そう諦めかけた時だった。


「平井はさ、どうしてそんなに私のことが好きなわけ?」

「えっ……? どうしてって言われても、好きなものは好きなんだからしょうがないじゃん」

「そ、そう言うことじゃなくて! どうしてそんなに諦めずに何回もわざわざ玉砕しに来るわけってこと!」

「別に、玉砕するために来てるわけじゃないよ。毎回本気で付き合いたいって思ってるし。好きな人に告白し続けるのは普通じゃない?」

「普通一度振られたら、諦めるものでしょ……」


 どうやら、戸田さんと俺の間では解釈が違うようだ。


「まあ多分、一度振られた程度で好きな気持ちが消えるんだったら。それは一時的な心の惑いだったんだろうな。でも、振られたって好きな気持ちが残ってるから、何回もチャレンジするんだよ。そうじゃなきゃ、振り向いてすらもらえないからね。それに、何度も同じ人に告白しちゃいけないなんてルール、存在してないだろ?」

「はぁ……ホント馬鹿。普通一回振られたら諦めるっしょ……」


 大仰にため息を吐きながら、戸田さんはゆっくりとこちらへ近づいてきて、きゅっと俺の袖を掴んだ。


「えっ……戸田さん?」


 思わず俺が顔を上げると、戸田さんの顔が吐息が重なり合いそうなほどの距離にあって、思わず見惚れてしまう。

 戸田さんは、頬を染めながら、ちらちらと俺を覗き込むように見てくる。


「そ、そんなに私がいいの?」

「へっ……?」


 予想外の言葉に、俺は素っ頓狂な声を上げてしまう。


「だっ、だからっ! 私じゃないと本当にダメなのかって聞いてるの!」


 自分の言っていることが恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして言う戸田さん。


「うん。俺は戸田さんしか好きになれない」

「……ホント馬鹿。あんなに無理だって言ったのに」

「……そうだね」

「私があんたから告白受けたら毎回、嫌な所指摘してたのに、すぐに直そうとして」

「そりゃまあ……好きな人の理想の男になりたいし」

「私の理想からかけ離れた存在だったのに……だったのに……!」


 戸田さんはぷくぅっと頬を膨らませて、俺を睨み付けてくる。


「何カッコよくなってんのよ! 何私のストライクゾーンに入って来ちゃってるのよ!? もう断る理由がなくなっちゃったじゃない!」

「えっ……それって……」


 期待して俺が戸田さんを見つめると、彼女は頬を真っ赤にして恥じらうようにして上目遣いで見つめてくる。


「……よく頑張りました」


 ぼそっとそう言った。


「それって、俺と告白にOKしてくれるってこと?」


 俺が確認の意を込めて問うと、戸田さんは小さく首を縦に振る。

 その瞬間、驚きの感情の後にじわじわと心が満たされていく。


「先に言っておくけど。私凄い嫉妬深いよ?」

「うん」

「好きになっちゃったら、他の人に自慢しまくっちゃうよ?」

「いいよ」

「クラスの人に嫌われるかも……」

「そしたら、俺が守るよ。毎日一緒にいてあげる」

「毎日一緒にいたら、私に飽きるかもしれないよ」

「それはあり得ないよ。だって21回も告白してるんだ。嫌いになるわけがない」

「……バカ」


 そう言って、掴んでいた裾を話すと、戸田さんはぎゅっと思いきり俺の背中に手を回して抱きついてきた。


「私も、大好きだよ……敬斗君……」


 耳を真っ赤にしながら、今思っている最愛の気持ちを口にしてくれる戸田さん。


「うん。俺もだよ。渚……」


 こうして、21回目の告白で、ようやく好意を成就させた二人。

 それから二人は、今まで溜め込んできた気持ちを爆発させるようにイチャイチャで甘々なバカップルへと変貌していったのは、言われなくても分かる話だった。



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