たとえ何度失敗しても【KAC20217】
amanatz
たとえ何度失敗しても
片想いの相手、クラスメートの小野咲さんを、放課後、呼び出した。
この告白に、僕のすべてを賭ける。
僕は、必ず、この理想の恋を実現させてみせる――
「小野咲さん。好きです。……僕と、付き合ってください!」
「……はい、喜ん」
「やっぱり、ダメだぁっ!」
僕は我慢できず、小野咲さんが応え終わる前に、叫んでいた。
「角度が! 角度が足りなかった! ごめんなさい、小野咲さん。こんなみっともない告白を見せてしまって!」
僕はショックのあまり、膝から地面に崩れ落ちた。こんな失敗をしてしまうなんて、自分が情けない、ふがいない。校舎裏の地面に、握り締めた拳を叩きつける。
「えっと……今回は、どこが、いけなかったの? ……角度?」
小野咲さんが、怪訝な声色で声をかけてくれる。さすがは小野咲さんだ、ちょっと戸惑いながらも、こんなダメな僕に優しく語りかけてくれるなんて。
「お辞儀の、角度です」
僕は説明を始める。失敗を見せてしまった相手になんとも恥ずかしいことだが、こうすることで、「次こそは失敗しないぞ」という意識を高めることができる。
「『付き合ってください!』と勢いよく一息で言うと同時に、誠意を込めてお辞儀をする。これが僕の考える理想の告白スタイルです」
「うんうん、一回目からずっとそう言ってるよね」
「このお辞儀は、当然、浅くてはいけない。しっかり踏み込まなくては、秘めていた想いをしっかりと伝えられないからです」
「うんうん、もう何回もリテイクしているから、全然秘めてないけどね」
「二十一回です」
僕はそう言いながら立ち上がる。
「しかし一方で、お辞儀は深すぎてもいけない。例えば、九十度直角に曲げたりすると、相手も驚いてしまう」
「うんうん、それはびっくりするよね」
「告白する相手に、過度なプレッシャーを与えてはいけない。それが僕の持論です」
「うんうん、何回もキャンセルされるのも、相当なプレッシャーというか、圧がかかってると思うけどね」
「理想は斜め四十五度。礼儀にかないつつやりすぎない、完璧な姿勢を目指して、僕は特訓を重ねてきました」
「うんうん、確か前にもそれでやり直しているよね」
「過去二回ですね。七回目は浅すぎて、十九回目は深すぎましたね」
説明しているうちに、少しずつ冷静さを取り戻す。僕には、今回の失敗の原因が見えつつあった。
「あの十九回目の、深すぎたときの失敗のイメージが、脳裏に残っていた。払拭しきれなかったんです、かつてのミスを。あの時のことが一瞬、頭によぎってしまったのが、敗因です」
「うんうん、誰に負けたのかな? わたし別に気にしてないんだけどな」
「いえ、お気遣いは無用です」
「気遣ってるわけじゃないよー?」
「自分の未熟さは、自分が一番よくわかっています。こんなところで躓いているようでは、小野咲さんに相応しい人間にはなれません」
「あのさ、わたしは、別に構わないんだからね?」
「思えば、何度も失敗してきました。声の大きさ。顔の向き。言葉の速さ、抑揚。二人の程よい距離感。そして、動き」
「どこにおいてもこだわりが強すぎるんだよなあ」
「もう少し。もう少しで、理想の告白になりそうなんです。小野咲さん、今日のところは出直してきます。また練習を重ねて、次は、次こそは、小野咲さんにふさわしい告白をしてみせます!」
「うんうん、もう、頑張ってくださいとしか言えない」
小野咲さんは、ゆるふわな表情で苦笑している。
「わたしは、そうやってひとつのことに真剣に打ち込むきみが好きだよ。だから、きみが納得いくまで、のんびり、待ってるからね?」
「うぐっ……!」
「わ、どうしたの、また膝から崩れ落ちて」
「さすがは小野咲さんだ……こんなに、いとも簡単に、僕にとって理想の告白をしてくるなんて……」
「自分に課してるのに比べて、ずいぶんハードル低くない?」
たとえ何度失敗しても【KAC20217】 amanatz @amanatz
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