仮〇ライダー
かなたろーさんを一行に加えて。
僕たちはラボを出た。出口直結のオートラインに乗る。動く床に導かれながら、ようやくシェルターに行き着くことができるという達成感のようなものに包まれた。
しかしちありやさんは穏やかではなかった。
「飯田太朗氏に連絡を取っているが繋がらない」
そうだ。飯田さんはH.O.L.M.E.S.で連絡を取る係だった。
「まずい状況かもしれない。シェルターで作家たちと合流したら速やかに救出に向かわねば」
「場所は分かっているんですか?」
僕の問いにちありやさんは答えた。
「先程敵の襲撃で飛ばされた地点に行けばいいのならルートは分かる。問題は二人が我々の救助が及ぶまで耐えられるかだ」
「加藤さんがいるから大丈夫だとは思うけど……」
すずめさんが心配そうな顔でつぶやく。
「私も太朗くんに連絡とってみます」
そうこうしている内に、オートラインは巨大で頑丈そうな扉の前で止まった。「やっと着いたわよ」と綺嬋さんが前に出てドアの傍にあった端末に触れる。認証後、ドアが開いた。そこにはたくさんの作家たちがひしめきあっていた。
「もう平気なんですか?」
「『エディター』はいなくなった?」
「助かったの?」
口々に現状を確認してきたが、しかしちありやさんが静かに告げた。
「諸君。事態は逼迫している。手を借りたい。瀬戸際だ」
「ピンチってことか?」
誰かが叫ぶ。
「どうするんだ。俺も作品も消し飛ばれるってことか?」
「そうならんよう努力している」
「それよりクララさんは?」とスキマさんが訊くと、誰かが答えた。
「救難信号があったとか言ってどっか行きましたよ」
「救難信号?」
「ちありやさんたちじゃないんですか」
全員で顔を見合わせる。もしかして、加藤さんと飯田さんか?
「信号が出ていた場所を知っている者は?」
ある作家が手を挙げた。
「僕が受信しました。部屋番号12V3です。『ライダーの間』……」
「……あそこならむしろありがたいくらいなんだが。まぁ、それはさておき」
ちありやさんがこれまでの戦闘について情報を共有した。敵の首謀を見つけたこと、コピーは取られながらも戦闘には勝ってきたこと、情勢が決して一方的ではないことを知ったからだろう、シェルターの中にいた作家たちがちらほら意欲を見せ始めた。
「総員戦闘準備を。戦いに向かない者は後方で援護をしてくれ。通信系を持つ人間は些細な信号も見逃さないように。基地内で戦闘している他の作家を拾えるかもしれん」
かくして膨大な数に膨らんだ作家軍団で制御室を目指す運びとなった。大勢でオートラインの上に乗る。軍団の進行よろしく進み続ける僕たち。来る戦闘に備えて、僕が気持ちを作っていると、本当に唐突に、隣にいた朱ねこさんが口を開いた。それは何だか悲しそうな一言だった。
「『エディター』の仕業だって分かっててもさ、自分のコピーを取られると何だか凹むよね」
僕が朱ねこさんを見やると、彼女は照れたように笑って続けた。
「自分の子供を取られたみたい、っていうか……。それにさ、私じゃない誰かが私の作品を騙っても信じられちゃうんじゃ、私って何で創作してるんだろうって……」
「好きだからだよ」
朱ねこさんがしゃべり出したのと同じくらい唐突に、僕の隣にいた名前も知らない作家さんが応えた。僕も朱ねこさんも、きょとんとしてそっちを見た。
「例え誰かに真似されようとも、揺るがないオリジナリティが必ずある。みんな立派にやっているじゃないか。相手は誰かになることでしか自分を保てないが、作家は作家であればいい。大丈夫。私たちは作家だ」
力強い言葉だった。僕は小説を書いたことがない。けど、この強い思いだけは何だか分かる気がした。何があろうと僕は僕だ。例え何もかも信じられなくなっても、それだけは、信じられるんだ。
やがてオートラインはある部屋の前で止まった。「部屋番号12V3だ」と誰かがつぶやいた。
「時に諸君」
ちありやさんの一言。これはどうも僕たち「ノラ」に向けられた言葉のようだった。
「仮
「好きです」
まさかのすずめさんが食いついた。僕の意外そうな視線が恥ずかしかったのか、彼女は照れたように笑った。
「息子が好きで、ね」
「ならばこの部屋は楽しめるぞ」
ちありやさんがドアを開けた。
「何せ仮面ラ
*
はぁ、ライダーって言うのは要するに……。
壁に飾られた多くのベルト。どれもごつごつしたデザイン。なるほど変身ベルトか。中にはブレスレットや武器が付属してあるものもある。それらを示してちありやさんが口を開く。
「各人好きなベルトを。変身するのだ」
様子を見るに……と、ちありやさんは続けた。
「敵襲はまだ……」
だがしかし、ちありやさんがそう言い切る前に。
強烈な一撃がちありやロボを襲った。思わずよろけたちありやさんに立て続けに攻撃が加えられる。他の作家たちの方からも悲鳴が上がり始めた。攻撃だ……敵の攻撃だ!
「ちっ、ステルス機能を持った作家が
ちありやさんがイライラした様子でつぶやく。
「感知系の能力を持っている作家! 相手はステルス機能を使っている! 見つけ出して反撃しろ! このままじゃ一方的に……」
しかしまたしてもちありやさんを攻撃が襲う。再びよろけたちありやさんが、「アンジェラ! こちらもレーダー機能を強化しろ!」と叫んだ時だった。
何かがひとつ、曲線を描いて飛んできた。
その放物がいきなりちありやさんの近くにいた透明の何かに当たった。
火花の散る一撃。すると目の前にぼやぼや霞のかかった何かが倒れた。霞は次第に消えていき、そして残ったのは……プラスチックでできたような、グレーの裸の男だった。
「何者だ!」
と、ちありやさんが叫ぶと、いきなり天井からまばゆい光が下りてきた……いわゆる、天使の梯子、というような。
暗いガレージのようなコンクリートの天井がぱかっと割れて、両手を広げた誰かが下りてきた。雅な音楽。ハープの音色か。翼のような仮面をかぶった白い
「降臨……」腕をすらっと頭上に。
「満を持して」
「伊織姉様ノリノリだな」
そんなことを言って白いライダーの背後から呑気に姿を現したのは、やはりあの飯田さんだった。僕はため息をついた。よかった、あの二人か。
と、雅な白いライダーの姿をした加藤さんが、はしゃいでいるのか両脇を締めて、いきなり近所のおばちゃん感を出して、一言。
「みんな大丈夫ー? 敵は透明人間だよ!」
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