城壁、及び城への侵入。
突撃メンバーの選定
「椅子……?」
日諸さん。
「そう言われてみれば、確かに。学校とかにありそうな」
「でもさ、加藤さんって……」
すずめさんが首を傾げる。
「椅子だけに限定した能力じゃないよね?」
「まぁ、確かに。どちらかといえば『数の暴力』」飯田さんが顎に手を当てる。
「でもな。『椅子』に特化した能力なんて伊織姉さんくらいのものだろう」
ついでにH.O.L.M.E.S.に診断させたんだが、と飯田さん。
「飛び出ている手。この映像じゃ無理かと思ったが、かろうじて親指の指紋認証ができた。H.O.L.M.E.S.の診断では『少なくともこの手は』伊織姉さんのものだ」
「何でそんな怖い言い方するの……」るかさん。エディが吠える。
「うるさいぞ、犬」飯田さん。「いいか、ここは電脳世界だ。しかもウィルスに侵されている。体がバラけて壁から生えるくらいの現象は起きても仕方ない」
「何で、『手』が出てるの?」すずめさん。
「そこ、おかしくない?」
「まぁ、普通に考えたら体の一部は胴体から生えてないと基本的にはおかしい」
おどける飯田さん。
「いや、そういうことじゃなくて」すずめさん。
「もし、『戦闘』してああいう結果になったんだとしたら、おそらく『手』は先の方へ出るはず。あれ、人の形した跡だよね? おそらく加藤さん、あそこにめり込んでるよね?」
「確かに」頷く飯田さん。「おかしい、ってそういうことか」
「そう」すずめさんは立ち上がる。
「戦闘して『めり込んだ』のだとすれば、手は体の前に出るはず。防衛本能で。でもあれ、どう見ても手が体の後ろにある。で、加藤さんの能力だけど……」
「ああ」飯田さんが笑う。「振りかぶったのかもな」
「多分そう」すずめさん。「『刺股も振りかぶる』人だからね」
僕は話が飲み込めない。
「その加藤さんって、どういう能力なんですか?」
すると飯田さんが答える。
「さっきから言ってるだろう」
僕は首を傾げる。飯田さんは笑う。
「『椅子』だよ」
*
「と、いうわけでだ」
飯田さん。鼻の上にはやはり眼鏡型端末。
「……僕がここにいるのは非常に不本意なんだが、まぁ、いい。突撃メンバーだ」
H.O.L.M.E.S.! 飯田さんの号令で立体映像が展開される。
さっきの会議で見た映像。球体のバリアに包まれた城の映像だ。
「この地区に行く時には基本的に『公開』ボタンを押さない。前回の戦いの反省だ」
飯田さんはしゃべりながら歩く。
「ワープすると逆探知される。そこで、物書きボーイだ」
飯田さんが僕を示す。
「彼は『公開』ボタンを押さずにワープできる。回復もできれば物体の修復も、天候操作も、そしておそらく、もっと小説がうまくなれば攻撃もできる」
飯田さんは咳払いをする。
「……やっぱ僕がこのメンバーの中にいるのはおかしくないか?」
「別に? 太朗くん便利じゃん」
くすくすとすずめさんが笑う。よく笑う素敵な女性だ。
「まぁ、すず姉がいるのは分かる。戦闘力がお化けだからな」
すずめさん。パンツスーツ姿。キリっとしていて、かっこいい。できるキャリアウーマンって感じ。
「ん? 服?」
僕の視線を感じたのか、すずめさんがこちらに話しかけてくる。
「変えられるよ。ほら」
パチン、と指を鳴らす。途端にすずめさんが、真っ黒なライダースーツ姿に変わった。
「よせ、すず姉。子供には刺激が強い」
飯田さんがにやにやする。子供なのはお前だろ。でも、確かに、この格好のすずめさんはすごく大人っぽい。
他のメンバー。今回は六人編成。
どういうわけかすずめさん含め女性が……少なくともアカウントの外見上は女性という人が……多い。ハッキリ男性だと分かるアカウントは僕と飯田さんだけ。さっきからあの人、どうにも鼻の下を伸ばしている気がして……。
ま、とにかく。メンバーを見ていく。
まず、結月花さん。アカウントID「@hana_usagi」。紹介文は「雄みのある男の子 × 可愛いけど強い女の子の組み合わせが大好きです(*^▽^*)読むのも書くのも好きなので、たくさん絡んでください!」
……雄み? これなんて読むんだ? おみ? おすみ? ゆうみ?
まぁ、おそらく「たくましい」くらいのニュアンスだろう。もしかしたらこの人の作品の主人公は滅茶苦茶に強いのか? 「雄」っていうくらいだから、筋肉質なのだろう。剛腕で物理攻撃をぶちかますタイプだろうか。
しかし。
結月さんのアカウント姿は獣耳。犬か? 猫か? 分からない。けど獣耳。銀髪。そしてとても小柄。多分百五十もないくらい。本当にこんな人が戦えるのか? もしかしてるかさんみたいなパターン? でも「雄み」とかいう強そうな主人公だろ? と、色々考えてしまう。
「あ、あんまり見ないでください……」
こちらの視線にも敏感に気づく。嗅覚も優れるのか五メートルくらい先の飯田さんに「コーヒー臭い」と告げていた。コーヒー臭いって何だ? まぁ、確かに飯田さん、日諸さんとコーヒー飲んでたけど。
次。
メロウ+さん。アカウントID「@mellowmellowmellow」。紹介文は「アルファポリスとなろう、ノベプラから来ました! 作品はぜんぶつながっています。非公開作品はアルファポリスにあります。」。どうやら「移植組」。元のステータスが高いのだろう。甘ったるそうな名前だが、もしかしたら諏訪井さんみたいに滅茶苦茶に強いのかもしれない。
外見は変わっている。
水晶玉を左手の中に浮かせた、魔女のような……魔女の定義も色々あるが、その全てを包括していそうなちょっと変わった……スタイル。目はとろんとしていて眠そう。それもまた神秘的な気配。つばの広いとんがり帽子。帽子の方が体より大きい? ってくらい大きい。こんな書き方をしていると「西洋的な?」と思われるかもしれないが、醸している雰囲気は「東洋的な」神秘性のあるイメージ。仙人とか住んでいる山にいても納得できる。
次。
栗栖蛍さん。アカウントID「@chrischris」。紹介文は「東北の下の方に住んでいます。執筆歴は長いですが中断期間も長いです。現代ファンタジーが好きで、ファンタジーも書きます。基本は恋愛ものです。気軽に読んでいただけたら嬉しいです。」。紹介文で在住地を……例えぼんやりとでも……書いている人は珍しいな。諏訪井さんみたいに隠したがる人もいるのに。
見た感じ年齢不詳。少女でもないが熟女でもない。かといって成人女性かと言われるとそうでもなくて、とにかく見た目からは「女性であること」以外判別できない。
服装や装備も、「現実世界(リアル)にいそう」な感じ。強いて言えば「制服のスカートっぽい」ものを履いている。プリーツスカートってやつ? 戦えるのか? でもこの人は「飯田さん推薦」だからな。あの人は自分より弱い人は連れていかない。きっとすごい戦力なのだろう。表情も真っ直ぐと言えば真っ直ぐだけど、どこを見ているか分からないような、とにかく「読めない」人。
と、僕が突撃メンバーを眺めている最中だった。
「あ、あのっ」
声。みんな一斉に振り向く。思念ドアが開いた真ん中に立ち尽くしているアカウントがいた。
「すずめさん、私も連れていってください!」
そこにいたのは……やっぱり、女の子。もちろん、アカウントの見た目上は、という話だが。
僕はインテリジェンスアシスタントシステムにアカウント情報を参照させる。
赤坂葵さん。アカウントID「@akasaka_aoi」。紹介文はシンプルに「高校2年生やってます。」僕の一つ上。つまり若者。
「おう。女の子が増える分には大歓迎だ」
両手を広げる飯田さん。
「待って待って。葵ちゃん戦えるの?」
すずめさんが嗜める。しかし飯田さんが調子に乗る。
「大丈夫だって。最悪僕が盾になる」
この間はまちゃかりさんの後ろに隠れてばかりいたくせによく言うよ。
「るかさんも戦えたって聞きました!」
一生懸命な赤坂さん。
「私も、自分の可能性を試したい!」
「だってさ。熱意を買おう」飯田さん。駄目だこの人。
「うーん」考えるすずめさん。
「まぁ、太朗くんが盾にはなれないとしても、私は葵ちゃんカバーできるかもしれないしね」
私だって奥の手あるし。そうつぶやくすずめさん。
「オーケー! 行こう!」
「円を書きます」
僕はペンを構える。ワープ先は飯田さんに前以て教えてもらってある。
「H5地区に飛びます!」
円の中。
「H5」と書いた。
ぽっかりと、穴が開く。
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